応答曲面法は,最適化問題を構成するブラックボックスな目的関数・制約条件関数を単純な代数式として近似することで,最適解を探索する過程の中で繰り返し実行される関数評価に要する計算時間を大幅に削減し,最適化計算を高速化するための手段として認知されている.しかし,応答曲面法を介して得られる最適解はあくまでも近似にすぎないため,誤差を含む応答曲面上で最適解を正確に発見するための対策が必要不可欠である.そこで本稿では,目的関数の推定値とその不確かさの2種類の確率論的情報を出力できるKrigingモデル,これらの情報から算出される目的関数のExpected Improvement,そしてこの指標が最大となる設計空間領域を逐次サンプルすることで応答曲面の近似精度の改善と大域的最適解の発見を同時に実現できる近似最適化手法を紹介する.また,翼型空力設計への適用事例を取り上げ,本手法の有効性を実証する.
超小型衛星の利用が進む中,その黎明期より小型推進系の必要性が訴えられてきた.しかしながら,これまでに速度増分1km/s超を提供できる小型推進系は登場していない.本稿では,将来,小型衛星に1km/s超の速度増分を提供する推進系の有力候補として小型イオンスラスタを取り上げる.はじめに,これまでに宇宙実証を果たした唯一の存在である東京大学の小型イオンスラスタに対して研究開発経緯を述べる.次に,現状の問題点とそれに対する取り組みとして,キセノンイオンスラスタの改良および水イオンスラスタの提案を紹介する.最後に,将来,大速度増分を提供する有望な小型スラスタとして,3機の特徴についてまとめる.
C-2輸送機(以下「C-2」という)は航空自衛隊が運用する輸送機C-1等の後継として,2010年代以降,有事の他,平和維持活動,国際緊急援助活動等の国外運行業務を含む航空輸送任務に使用する目的で開発された輸送機である.本稿は,C-2の強度試験のうち,平成18年11月から平成28年11月にかけて行われた全機静強度試験について述べる.試験には,荷重・与圧制御280ch,計測7,200chを有する試験装置を使用し,試験荷重負荷のため,電気油圧式サーボ・アクチュエータ等を用いて空力荷重等を模擬した負荷を行った.運用される実機と構造的に同じ供試体により,操縦系統試験,地上荷重試験,局部荷重試験,飛行荷重試験等の122ケースの試験を実施し,C-2の機体構造が設計要求を満たす静強度を有していることを確認した.
防衛装備庁千歳試験場の三音速風洞は,日本最大級の吹き出し式風洞である.名称の由来であるマッハ0.3から4.0の広い速度範囲とともに,メートルあたり最大108という高いレイノルズ数能力を特徴とし,今後の航空機研究開発において高精度なデータ生産に貢献し得る施設である.本稿では,この能力を可能とした風洞設計上の特徴とともに,完成後に実施された高レイノルズ数側の試験の事例を紹介する.
3~6トンの中型から大型の静止衛星市場では,衛星推進系を電気推進にて運用する「オール電化衛星」の利用が急速に拡大しつつある.宇宙航空研究開発機構(JAXA)技術試験衛星9号機(ETS9)プロジェクトチームでは,大型衛星の軌道遷移と軌道保持の双方に利用可能な大型ホールスラスタシステムの開発を実施している.本稿では,ETS9搭載ホールスラスタの開発状況について報告する.最新のブレッドボードモデルスラスタは,6kW入力における初期インターフェース性能(推力359mN・比推力1,710s)を上回っており,オール電化衛星用ホールスラスタとしては世界最大の出力を誇る.また,軌道遷移等に必要な長期間動作時の特性は,新設のホールスラスタ開発試験用チャンバ(DTチャンバ)で実施中の予備耐久試験で確認中であり,累積作動は1500時間に達した.これらの成果を踏まえて,2018年度はスラスタヘッドを含むサブシステムの基本設計が進捗しており,フライトに向けて精力的な開発が進んでいる.