航空機構造設計技術は,事故の教訓に基づく安全要求の高度化,構造材料の改良,製造技術の進歩,解析技術の進歩によって着実に進歩してきた.構造解析技術について見てみると,電子計算機のめざましい進歩と有限要素法によって計算の高精度化と高速化が進んだ.しかし,強度理論について見てみると,ラグの強度理論や張力場理論を見るとわかるように60年間あまり変化していない.ここでは構造解析技術の現状を振り返り,今後の構造解析技術の発展に期待することについて筆者の私見を述べさせていただきたい.本稿は2018年8月に開催された「第60回構造強度に関する講演会」の特別講演の内容に基づいている.
気候変動観測衛星(GCOM-C)「しきさい」は,地球規模での気候変動を解明する上で有効な物理量(植生,雲・エアロゾル等)を全球規模で観測できるシステムを構築して利用実証することを目的に,平成21年に開発に着手し,平成29年12月23日に打ち上げられた.「しきさい」は観測センサとして,多波長光学放射計(SGLI)を搭載している.SGLIは,「みどり」に搭載されたOCTS(海色海温走査放射計)と「みどりⅡ」に搭載されたGLI(グローバルイメージャ)の後継センサで,近紫外から熱赤外域までの広い波長帯を1000 km超の観測幅,250 m分解能で観測する.本解説では,「しきさい」の概要,先行衛星である「しずく」の成果を最大限活用した衛星開発,打上げ後の初期運用について報告する.
火星探査航空機は,将来の火星表面探査の画期的なシステムとして期待されている.しかしながら,火星の大気密度は地球と比べ1/100程度しかなく,得られる揚力は極端に小さい.そして,その飛行領域は低レイノルズ数環境として知られており,航空機の空力特性は大幅に悪化することが知られている.我々のグループでは,火星探査航空機を実現するために,この低レイノルズ数環境下での様々な空力課題に取り組んでおり,その解決に向けて実験/CFDの両面から取り組んでいる.また,実際に飛行試験機を作製し,大気球による高高度飛行実証試験(Mars Airplane Balloon Experiment-1, MABE-1)を通して,実フライトにおける空力データの取得にも取り組んでいる.本稿では,まずWGで取り組んでいる火星探査航空機の概略と空力課題の例および現状を紹介し,続いて,飛行試験の概要と結果の概略を報告する.
再使用宇宙輸送系の誘導制御の設計・評価にはモンテカルロ・シミュレーション(MCS : Monte Carlo Simulation)が種々の不確定性を含む条件のもとでのトータルの性能評価の手段として用いられてきたが,計算機能力の向上に伴ってその利用は一般的となり,現在では必要不可欠の技術となっている.一方,モンテカルロ・シミュレーションによる評価や最適化技術は宇宙輸送系に限らず広く航空宇宙分野に適用することができるため,JAXAでは汎用的に利用可能なMCS並列計算システムの整備を行っている.ここでは垂直着陸型の再使用ロケットについての誘導制御検討と,MCS並列計算システムの適用について紹介する.特に,近年は誘導制御解析におけるシミュレーションでもMatlab/Simulink等CAEソフトを用いるケースが多いが,コード生成機能を用いることによりMCS並列計算システムを適用することができるのでこれについても紹介する.