YS-11以来の国産旅客機開発プロジェクトであるMRJの開発が佳境に入っており,航空機産業の規模も近年大きく伸びるなど,わが国航空機産業は大きな変革期を迎えており,これまで以上に,航空産業に関する人材育成などの産学官が連携した推進が求められている.
全機開発事業の開始と軌を一にして,産学官の有志において航空産業の課題整理とイノベーションの方向性の明示を目指すことを企図して議論を進めてきており,この一環として去る2016年国際航空宇宙展の特別講演として民間旅客機の完成機事業を有するブラジル,フランス及びカナダからそれぞれの国の事情に合致した産学官一貫した取り組みを進めている当事者を招聘し,併せて意見交換を行い,3カ国の航空産業に関する人材育成をはじめとする産学官が一貫となった取り組みなどを調査したので報告する.
観測衛星のうち,望遠鏡・カメラ等の搭載機器に極めて高い指向精度が要求される衛星について,指向精度実現のための技術課題と指向安定化技術の現状を概説する.このような衛星では,低周波域において要求精度が姿勢制御の限界を超えること,高周波域において内部擾乱により衛星本体や搭載機器内部の構造共振が励起されて,わずかな擾乱でも許容できない指向変動が生じうることが大きな問題となる.したがって,指向精度要求の実現のためには,低周波側では指向誤差を直接検出できるセンサの出力を基準にした高精度・広帯域の指向制御系の導入が有効である.一方,高周波側では構造共振のため姿勢と指向は全く無関係な量となるため,姿勢の高精度化は意味をなさない.擾乱そのものの発生を極力抑えること,内部擾乱源からの微小振動の伝達を切ること(振動絶縁)等,擾乱の指向精度への影響を許容範囲内に押え込む総合的な施策(擾乱管理)が重要になる.
世界の商用静止通信衛星市場では,従来の通信衛星に対して通信容量(スループット)を大幅に向上させた高速大容量のハイスループット衛星(HTS)が増加しつつある.この状況の中で,我が国の静止通信衛星が国際競争力を持つためには,従来の化学推進衛星に比べ推薬質量を大幅に低減可能なオール電化衛星技術を獲得し,打上げコストに影響する衛星質量を増加させずに多数の中継器搭載を可能とすることが必要である.2021年度に打上げを目指す技術試験衛星9号機では,オール電化衛星バスを開発し,軌道上実証する計画である.
大気を有する惑星への探査機降着(EDL)では,パラシュートが空力減速装置として利用されている.火星のような地球大気に比して低密度大気の場合,減速のための動圧を十分に得るために超音速状態での傘体展開となる.傘体前面の流れ場は,探査機本体からの後流,吊索からのはく離流,離脱衝撃波,および離脱衝撃波背後の亜音速領域が干渉し,超音速と亜音速状態が混在する複雑な状態となり,時に衝撃波の破壊的大変形を引き起こす.同種の現象は,超音速空気取入口,あるいは再突入体先端のキャビティ周囲などでも発生し,1950年代から研究事例があるものの,キャビティ内部の音響共鳴と対流の相互関係と衝撃波振動を体系的に報告した例は少ない.筆者らは,これらの点に着目し,衝撃波振動の駆動メカニズムの解明に取り組んでいる.本稿では,超音速風洞実験と数値解析によりこれまで得られた知見について紹介する.
軌道上にてロケットのフェアリングよりも大きなアンテナが必要となる場合,宇宙用の展開アンテナが解の一つとなり得る.その中でも反射鏡タイプの展開アンテナは,フェーズドアレイ等のアンテナと比べ軽量となることから,高い利得を必要とされる場合に用いられる傾向がある.このため,これまでは特に高い利得が要求される静止通信衛星等に,展開反射鏡が用いられてきた.近年,地球観測分野で展開反射鏡が注目され始めており,衛星搭載用の合成開口レーダ等に用いられるようになってきた.大口径化,高精度化の研究も活発になってきている.本稿では,展開反射鏡のこれまでの技術とミッションの概要,及び最新の研究を紹介するとともに,展開反射鏡の地球観測分野での利用状況を概説する.