航空移動サービスにおいて遅延の軽減,つまり定時性の確保は競争力の源泉の一つであり,将来の航空交通システムの長期ビジョン「CARATS」においても施策目標の一つに挙げられている.しかしながらCARATS策定後,継続して定時到着率は悪化傾向にあり,COVID-19の影響で航空交通量が激減したことにより一時的に定時性は向上しているが,今後の交通量の回復や増大によって,定時性が悪化する可能性も高い.遅延の軽減策立案のためには遅延の要因を正確に把握することが重要であるが,我が国では出発時の遅延要因をマクロに分析するに留まっており,最終的に重要な到着遅延の要因や大きなシェアを占める機材繰り遅延(波及遅延)要因の背後にある真の遅延要因に関する分析は十分に行われていない.そこで本稿では,遅延要因・飛行軌跡・気象データを統合的に用いて国内航空路線における到着遅延要因の推計を行った結果を紹介する.
福岡空港は単独滑走路で運用される国内空港の中では最も交通量の多い地方空港であり,滑走路の増設が計画されているものの,常態化している混雑の解消が急務である.その中で,北風運用(RWY34)の多い冬季にはILSやRNAVルートよりも短時間で着陸できるビジュアルアプローチが国内の主要空港としては唯一利用されている.一方,ビジュアルアプローチではオートパイロットが使用できず,非常に高いスキルとワークロードがパイロットに要求される.本稿では,CARATS OPEN DATAを利用してこのビジュアルアプローチの利用状況を解析し,ビジュアルアプローチに代わってオートパイロットの使用が可能なRNPAR方式を新設滑走路への進入方式として提案する.その実現可能性について解析するとともに,METARデータを利用して気象条件の面からも2016–2017年のビジュアルアプローチおよびILS/RNAVアプローチに対するRNP-AR方式の優位性について検討した結果を示す.
二宮忠八(以下,忠八)は我が国の航空技術の先駆者である.飛行原理発見に至る思考過程を文書に残し,模型飛行機を製作して飛行実証を行ったという点で,忠八は航空技術史上において特別な存在だと言える.忠八考案の有人飛行機が実現することはなかったが,彼が作成した様々な技術資料や自作の模型飛行機が,忠八自身が創建した飛行神社や彼の故郷の八幡浜市の施設に保管されている.二宮忠八の動力飛行研究は当時の最先端を走るものであり.航空宇宙技術遺産の第一号認定に値する技術である.
私たちは今,人新世の真っ只中にいて,漠然とした不安と向き合っている.頻発する異常気象の直撃を受け,感染症のパンデミックに遭遇し,核戦争の脅威も払拭できない.これまでにない「人類と地球の危機」に直面しているように思える.その根本原因が「地球の有限性」と「資本主義の欲望」に帰着すると誰もが理解し始めている.この危機を回避して,将来世代への悪影響を少しでも緩和するには,温室効果ガスの排出抑止と日常生活全般の脱炭素化を徹底し,資源消費型でGDP至上の資本主義経済の在り方を見直し,さらには,自らの世界観と価値観も変えなければ,人類のwell-beingが大きく低下するとIPCCが警鐘を鳴らし続けてきた.まさに「社会の大変革」が避けては通れない時代に突入している.この変革は,私たちの生活の隅々にまで大きな影響を与えるために,社会生活が行き詰まることが危惧される.キャパシティが有限な地球,そして,人間の技術力と忍耐力に頼るだけでは「危ない」という気持ちに支配される.このために,先駆者Gerard O’Neillのアイデアに再び着目する.地球という閉じた系だけで考えるのではなく,地球─月圏で考える方向を模索してはどうだろうか.本稿では,このアイデアにも留意しながら,人類と地球の危機を緩和するための糸口として,「月の開発利用」をO’Neillとは別の視点から検討する.そのポイントは,「月を地球のコモンズ(共有地)」として位置付ける考え方である.このために,総合的な視座(i.e. 宇宙の総合学の立場)から,この実現に関わる世界の動向や主要な課題を概観しつつ,筆者の見解と意見を紹介したい.