格子投影法は画像計測法(光学的形状計測法)の1つであり撮影画像の画素ごとに三次元位置座標が得られることから,極めて高い空間分解能で計測対象物の表面形状を計測できる画像計測法である.衛星搭載用の大型アンテナのように宇宙構造物の表面形状が運用性能に直接影響を及ぼす構造物は,その表面形状が設計要求を満たしているか打ち上げ前に必ず確認する必要がある.また,その表面形状に対する設計要求が極めて厳しい場合には,軌道上で表面形状を適宜調整する形状制御技術も必要となる.そのためには,大型宇宙構造物の表面形状を短時間・高精度・高解像度で取得でき,かつ軌道上で「その場計測」をおこなえる形状計測技術の確立が必須である.著者らはこのような形状計測法の1つとして格子投影法に着目し,大型高精度宇宙構造物のための高解像度表面形状計測法の構築に向けて検討を重ねてきた.本記事では著者らのこれまでの研究活動の一部を紹介する.
軽量構造材料である炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を用いた展開構造は宇宙ミッションに不可欠であり,展開性能の信頼性が強く求められる.CFRP構造がミッション前もしくはミッション中に数カ月から数年間の間宇宙環境下に曝されると,材料特性や構造特性変化が生じ,展開性能に影響を及ぼすことが懸念される.本研究では,展開構造に使用されるCFRPが宇宙環境下に曝された場合の特性変化を明らかにするため,ExHAMにCFRP材料及び展開構造を搭載し,1年間から3年間の宇宙環境曝露実験を行っている.LCR(Long-Term Composite Reliability)と名付けたこのプログラムは,①CFRPの経時変化評価実験と②CFRP展開構造の展開性評価実験からなり,ここでは,この実験目的及び実施中の実験状況を報告する.
本解説では,超小型衛星打上げ機(SS-520 4号機および5号機)の計画立案から打上げ実験について総括した.本ロケット実験は,先進的な民生技術を実装した宇宙機器の宇宙実証実験として計画立案され,宇宙科学研究所の観測ロケットを実行基盤として活用,準備からロケット打上げまで比較的短期間で実行した.2017年1月に打上げられたSS-520 4号機は,発射後約20秒で通信系の不具合が発生したため軌道投入実験を中断した.本報では推定原因究明の経緯を中心に述べた.2018年2月に打上げたSS-520 5号機により,超小型衛星TRICOM-1R(愛称たすき)の軌道投入に成功した.5号機実験を通じて4号機の不具合原因の推定および技術対策の妥当性や超小型衛星打上げロケットとしての成立性を実証することができた.そして,計画の主たる狙いであった宇宙機器に実装した民生品が宇宙機に適用可能であることを実証した.
モンテカルロ・シミュレーション(MCS)は非線形システムを直接評価できる利点から,航空宇宙システムの飛行前の評価手段として国内外で広く利用されるようになってきている.MCSでは設計仕様を満足できない確率(以下,失敗確率)などの統計量として結果が得られるが,設計ではこの失敗確率を小さくするように改善検討を重ねる.改善手段として設計パラメタを調整する方法がある.本稿で取り上げる設計パラメタの最適化は,この設計パラメタの調整を自動化し,MCSから得られる失敗確率が最小となる設計パラメタを出力する機能である.本手法における課題は,評価する量が「多数の不確定入力パラメタが考慮された失敗確率という統計量」であり確定値ではないこと,および「繰り返しMCSを実行するため計算負荷が非常に大きい」ことである.本稿ではMCSを利用する最適化法の概要,アルゴリズム,計算負荷軽減の方策,ユーザ・インターフェースなどについて解説する.
今後予想される旅客機の空港離発着回数の増加から航空機の更なる低騒音化が求められているが,着陸進入時に高揚力装置と降着装置を主音源として発生する機体騒音の低減が今後の技術課題となっている.本稿は,JAXAが国内企業との協力の下で取り組んでいる機体騒音低減技術の飛行実証プロジェクトFQUROHについて,その背景となる航空機騒音の機体騒音の問題と低騒音化技術の実用化に向けた課題,そして最近の飛行実証試験などの国際的な動向について概要を述べ,次いでFQUROHプロジェクトの狙いと考え方,低騒音化設計の実用的な基盤技術確立に繋がったJAXA実験用航空機「飛翔」を用いた飛行実証の成果の概要について紹介する.