C-2輸送機(以下「C-2」という)は,C-1等の後継機として国外運行業務を含む航空輸送任務に使用するために開発した,空中降投下や空中受油機能を有する国産輸送機である.本稿では,C-2の飛行試験のうち,飛行領域の拡大に関わる試験の概要について紹介する.飛行領域拡大試験は,主にフラッタ試験,飛行荷重試験及び飛行特性試験である.加えてそれらの試験において機体各種系統の作動に問題がなく,適切に作動することを確認し,航空機が安全に飛行できる領域として飛行領域を拡大する.C-2の飛行試験では,全飛行領域において,構造強度上及び飛行特性の問題がなく,搭載装備品が適切に機能し,安全な飛行が可能であることを確認した.
複合領域設計最適化(Multidisciplinary Design Optimization : MDO)とは,複数の領域(サブシステムや設計分野)から構成されるシステムの設計を数値解析により最適化する工学技術である.MDOでは,各領域の設計や応答が相互に影響しつつシステム全体の性能が決まることを最適化問題において定式化し,すべての領域の設計を統合的に最適化する.設計開発の初期段階においてシステム全体のMDOを実施することで,優れた設計解が得られるとともに,領域間の相互依存関係を無視した場合に発生しうる設計の手戻りを回避できることが期待される.本稿では,宇宙往還機の概念設計を具体例に用いつつ,MDOに関する汎用的な考え方や手順,最適化問題の定式化手法を解説する.機体設計と飛行軌道設計の間に複雑な相互依存関係がある空気吸い込み式エンジン搭載型宇宙往還機においても,MDOにより効果的な概念設計が可能であることを示す.
防衛装備庁(当時 防衛省技術研究本部)及び川崎重工業株式会社は,防衛装備庁大型機開発において,実機レイノルズ数での風洞試験が可能なヨーロッパ遷音速風洞(ETW)及び国内で最大能力を有する防衛装備庁千歳試験場三音速風洞にて,高速におけるレイノルズ数効果確認を目的とした全機風洞試験を実施した.試験結果から様々なレイノルズ数効果が明らかになり,これらは大型機開発の空力設計確認の検討等に反映することができた.また三音速風洞では,ETWと同一の風洞試験模型,レイノルズ数及びよどみ点圧条件で試験を実施し,対応データを取得した.両風洞におけるデータの対応は良好であり,三音速風洞は今後のレイノルズ数効果の研究及び機体開発に十分有効であることが示された.本稿は,当風洞試験についてその概要をまとめたものである.
パルス型プラズマスラスタ(Pulsed Plasma Thruster : PPT)は固体推進剤を用いた電気推進機の一種で,軽量・低コスト・高信頼性などの特徴をもつため,超小型衛星に適した推進機の1つである.本研究室では長年にわたりPPTの研究開発に取り組み,PPTの性能向上や構成要素が性能に与える影響の評価,様々な用途に対応が可能なPPTのラインナップ化などを行ってきた.その成果をまとめ,超小型衛星搭載に向けたミッション検討を行ったので報告する.
国際宇宙ステーション「きぼう」利用簡易曝露実験装置ExHAMを利用した炭素質ダストの宇宙曝露実験は,年老いた星周環境で凝縮したダストが星間空間に至り次世代の星形成活動に寄与するまでの過程で被る物性変化を調べることを目的とする試みである.本実験では,未同定赤外バンド担い手の同定に焦点をあて,実験室で合成するダストである膜状急冷炭素質物質をはじめとして,約30種の実験試料を1年間,国際宇宙ステーションの軌道環境に曝露し,曝露前後の物質の赤外分光特性や物性変化の調査を実施している.この記事では,本曝露実験の概要と進捗状況を示すとともに,主要な実験試料の1つである膜状急冷炭素質物質に焦点をあて,宇宙環境曝露実験前後での赤外線吸光スペクトルの変化に関する初期成果の一部を紹介する.