超高速インターネット衛星「きずな」(WINDS : Wideband InterNetworking engineering test and Demonstration Satellite)は平成31年2月に発生した通信異常により,打上げから11年に及ぶ運用を終了した.その間,WINDSを使用した各種通信実験を通して,超高速・大容量通信の実現に必要な技術の軌道上実証を行うとともに,商用通信衛星を利用した新たな利用分野の開拓に寄与することができた.本稿ではWINDSで実施した各種通信実験の結果を踏まえ,その成果について総括する.
人工衛星を用いた地上センサ等のデータ収集は,鳥や海洋生物などの行動範囲調査,山頂付近の川の水位センサ計測など,広く用いられている.しかし,地上端末や衛星搭載機器などが高額である問題や,無線局免許を取得する必要があるという問題などがある.そのため,地上端末や衛星搭載機器,通信費の低価格化を目指し,民生品である特定小電力無線のLoRa変調モジュールを使用したデータ蓄積中継(Store and Forward : S&F)通信機の開発を行った.開発した衛星搭載受信機は,超小型衛星TRICOM-1Rのミッションの一つとして搭載した.また,本システムの地上送信機は,ユーザが使用しやすいように,技術基準適合証明が取れている特定小電力無線局を用いて,ユーザの無線資格を不要としている.本稿では,SS-520 5号機によって打ち上げられた,TRICOM-1RにおけるS&Fシステムの構築と軌道上実験結果を報告する.
航空機周りの騒音源を把握するため,多数のマイクロホンを放射状に配置したマイクロホンアレイを構築し,位相差を考慮して波形を合成するビームフォーミング法を用いて,音圧レベル分布の算出を行った.音源とマイクロホンアレイの相対位置が固定され,その間の空気が移動する風洞試験においては,伝播過程での音波の移流や屈折,縮尺模型を用いることによる高い周波数での吸収減衰を考慮・補正する必要がある.音源とマイクロホンアレイの相対位置が時々刻々変わる飛行実証試験においては,航空機の位置を正確に把握するとともに,Doppler 効果の影響を補正する必要がある.いずれの場合にも,マイクロホンに直接風が当たることなどによって生じる自己雑音成分を除去することによって,信号雑音比を改善することが可能である.このようにして得られた高精度な音圧レベル分布は,FQUROHプロジェクトの中で設計・製作した低騒音化デバイスによる騒音低減効果を,定量的に示すことに貢献した.
宇宙機のアンテナや太陽電池パドルなどの保持解放機構は,動作時に数千GSRS(SRS : Shock Response Spectrum)の衝撃を発生させるため,宇宙機搭載機器には高い耐衝撃性が要求される.また,既存の保持解放機構は使い捨てであるか,または再使用のために製造工場へ返送してリファービッシュが必要となる.これらの課題を解決するため,宇宙航空研究開発機構(JAXA)と三菱電機株式会社(MELCO)は保持軸力10 kN級の保持解放機構である「低衝撃保持解放機構(LSRD : Low Shock Release Device)」を共同で開発した.このデバイスは保持エネルギを内部機構の運動エネルギに変換することにより,動作時の衝撃レベルを極めて低くすることができる.また,再使用時は部品交換の必要がなく,現場でのリセットが可能である.2017年12月23日に打ち上げられた超低高度衛星技術試験機「つばめ」(SLATS)の太陽電池パドル保持部に8台のLSRDが搭載され,軌道上実証に成功した.今後,本デバイスの活躍が期待される.
HTV搭載小型回収カプセル(以下,カプセル)技術実証ミッションでは,2018年11月,日本として初めて,我が国の再突入機による国際宇宙ステーション(以下,ISS)からの宇宙実験サンプルの回収に成功した.カプセルは,こうのとり(以下,HTV)7号機に搭載されて種子島宇宙センターから打ち上げられISSに輸送された.その後,ISSにて宇宙実験サンプルを搭載して大気圏に再突入,日本近海に着水し回収された.回収後,サンプルとカプセルは計画どおり筑波宇宙センターまで無事に輸送された.