気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM-C : Global Change Observation Mission-Climate)は,地球規模での気候変動の観測を目的とした人工衛星であり,2017年12月に打ち上げられた.搭載した多波長光学放射計(SGLI : Second-generation Global Imager)は近紫外から熱赤外域(380nm~12µm)を15種の波長帯ごと(19チャンネル)に測定することができる.JAXAではこれら観測データをもとに計算した雲,エアロゾル,地表および海面の温度,クロロフィル濃度,植生,雪氷等のプロダクトを無償で公開している.本稿では「しきさい」観測データの種類や特徴のほか,宇宙航空研究開発機構で取り組んでいる「しきさい」データの利用実証の内,特に有望な漁業,気象,防災(火山,火災)および農業分野について紹介する.
平成29年4月に開催された日本航空宇宙学会第48期年会講演会において,空気力学部門の活動の1つとして「実フライトレイノルズ数への空気力学の挑戦」と題する企画セッションを実施した.この企画は近年大いに盛り上がっている国産航空機の開発と,それに伴うフライトテストの重要性に刺激を受けて立案されたものである.風洞試験と計算空気力学,それにフライトテストに関連する合計14の講演が行われ,大型輸送機から生物飛行に至る,様々なレンジのフライトレイノルズ数における話題が取り上げられた.本セッションの目的は,フライトレイノルズ数に係わる諸課題とその解決策の現状を把握することだけでなく,将来,我が国が航空機開発において世界と競争してゆくための方策を議論することにあった.そのため,全講演の終了後に時間を設け,参加者全員でフライトレイノルズ数に係わる空気力学の将来について討論を行った.本稿は,その討論会に先だって行われたアンケートの集計結果と討論結果をまとめたものである.
将来の単通路航空機の構造部材に,軽量で力学的特性にすぐれた炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を適用するには,低コスト,かつ高い生産レート(約70~100機/月)に対応できるCFRP部材生産技術が必要とされており,従来のオートクレーブ成形とは異なる生産性が高く,かつロバストな部材生産技術を新たに開発する必要がある.そこで本プロジェクトでは「高生産性・高信頼性脱オートクレーブCFRP構造部材の知的生産技術の開発」の課題のもと,(1) 革新的プリプレグ真空圧成形技術の開発,(2) CFRPモジュール設計とブロック一体化工法の融合技術の開発,の2つのCFRP部材成形技術の開発を推進した.本報では,これらの開発状況および成果について纏めて報告する.
近年,JAXA内外のさまざまなミッション要求(小型,軽量,高性能,低コスト化等)により,人工衛星への民生用部品の採用が検討されつつある.このような状況下において,長期間軌道上で運用する人工衛星等の搭載機器に鉛フリー部品を使用することが見込まれる.鉛フリー部品の実装において最も大きな課題は錫ウィスカであり,錫ウィスカは導電性のため電子回路の短絡不具合に繋がる恐れがあることから,非修理系の人工衛星では致命的となり得る.本軌道上実証評価では,錫ウィスカに対し地上での評価・検討により得られた錫ウィスカ抑制対策の有効性を,国際宇宙ステーション(ISS)「きぼう」日本実験棟の簡易曝露実験装置(ExHAM)を利用した軌道上実環境により最終確認することを目的とする.本実験名をWHISKERと呼称し,平成29年度より軌道上実証評価を開始している.本報告では計画概要と1年目の進捗状況について報告する.