JAXAでは国産航空機の競争力強化のため,開発した航空機を競合機に先駆けて市場投入できるよう航空機開発高速化を実現する基盤技術開発を進めている.このうちの実機空力特性予測技術では,経験則などのノウハウベースの実機空力特性予測から,解析ベースでの忠実な実機空力特性予測への移行を目指す.JAXAでは,航空機開発において主力となるCFD及び風洞試験の改善点洗い出しのための実機の空力特性を計測する技術の開発と,風洞試験データに現状で可能な限りの補正を施し,より高精度なデータに改善するための各種バイアス補正技術の開発の2系統の研究開発を進めている.実機の空力特性取得技術として,主翼変形量計測,静的空気力計測,PSP計測による主翼上衝撃波位置計測の3技術,さらに風洞試験でのバイアス補正技術としてのスケール効果補正技術のそれぞれについて,開発目的や技術概要を述べ,現状技術を用いた適用例も示す.
たんぽぽ計画は惑星間を微生物が移動していると考えるパンスペルミア説を検証するために行っている.国際宇宙ステーション日本実験棟曝露部にExHAMを設置して行っている.本稿では微生物捕集実験と,微生物曝露実験の背景と目的,これまでに得られた成果について報告する.
現実の最適設計問題の多くは多目的問題となることが一般的である.航空機・宇宙機のシステム設計においても同様であり,特に空力・構造・制御などの多分野にわたった評価を行う必要があることが多い.こうした問題について,多目的進化アルゴリズムの適用が活発であり,国内外で多くの研究事例がある.しかしながら,設計者が欲しい性能を実現するための多目的進化アルゴリズムの実用的な運用については,経験を要する部分が多い.そこで,本解説記事では,実際の設計に活用できる多目的最適化法について,特に,多目的進化アルゴリズムの適用に着目し,設計問題の定式化,多目的解の評価法などについて解説する.また,複数デブリ投棄衛星の会合軌道設計問題に適用した事例を紹介する.
本稿では60wt%過酸化水素水を推進剤とした一液式及び二液式の推進系を紹介する.一液式では超小型衛星に搭載された推進系について報告し,宇宙実証で得た知見を基に改良を行ったことも合わせて述べる.二液式では現在の開発状況と課題について述べる.一液式では既に軌道上実証を果たしているが,現在は推力プロファイルの再現性と即応性を向上させることを目指している.スラスタの改良によって立上り遅れは0.5秒程度にまで改善され,また比推力は89秒を達成した.二液式では60wt%過酸化水素水の分解生成物にエタノールを混合させて着火することで,安定した燃焼を実現した.一方でチャンバ圧が上昇しておらず,燃焼室内の半径方向の温度勾配が急峻であって,燃焼室全体の温度が上昇していない.これは触媒層での分解と噴霧器での噴霧が不十分であるためであると推定している.以上より,一液式・二液式のいずれにおいても触媒層の再設計が必要であることが課題となる.
C-2輸送機は,昭和45年に初飛行したC-1輸送機の後継機として国際平和協力活動の対応など自衛隊の各種任務を,より早くより効率的に遂行するために開発された国産の輸送機である.本機の機体各種系統(操縦系統,油圧系統,降着系統,推進系統,燃料系統,空調・与圧系統及び搭載・しゃ下系統)は,長時間飛行に対応した高信頼性,耐故障性の確保及び乗組員のワークロード低減に配慮したシステム仕様を設定するとともに,同時開発を行ったP-1固定翼哨戒機との共用化も考慮した.また,各種の試験を実施し,設計データの取得及び設計検証を行った.本稿では,本機の機体各種系統設計について,その設計方針及び特徴並びに開発段階で実施した機体各種系統に関する各種試験の概要について紹介する.
平成28~30年度文部科学省宇宙航空科学技術推進委託費航空人材育成プログラムに「実機飛行を通した航空実践教育の展開」が採択され,全国の大学生に実機飛行実習を通して活きた航空教育を提供する機会が得られた.平成29年11月に開催された第55回飛行機シンポジウムにて,同年9月に実施された実機飛行実習の報告ならびに関係者による話題提供,意見交換を行ったので,報告する.