本稿は,宇宙輸送・宇宙機システム等の設計開発の効率化や信頼性向上を実現することを目的に,急速に進歩するコンピュータに支えられてその重要性を増し続けている情報・計算工学技術の活用と,その展開についての我々の取り組みの一部を紹介するものである.特に,ロケット及び人工衛星等を対象とした,数値シミュレーション技術,モデルベース及びデータサイエンス技術,それらの活用による設計開発の効率化や信頼性向上に関する取り組みについて,その具体的な事例とともに紹介する.さらに,情報・計算工学技術を活用した新たな取り組みとして,より一層の高い信頼性・安全性の実現を目指した,ソフトウェアエンジニアリング技術を活用した設計検証の合理化,近年研究が盛んな人工知能関連技術を活用した取り組み等について紹介する.
国際宇宙ステーションISSからの物資回収をおこなうHTV搭載小型回収カプセル(HSRC)の熱空力設計では,極超音速から亜音速までの広い気流条件下における流体現象を正確に予測し,様々な因子ばらつきに対応できるロバスト設計が不可欠であった.本研究では,流体シミュレーション(CFD)解析を,主流とRCSジェットとの熱流束・空力干渉,非定常後流中の熱防護(TPS)シェル挙動,ベンティングによる内外差圧・内部入熱特性,及び高空落下試験に対する横風クライテリア設定などの広い熱空力設計問題に対して適用し,ロバスト設計をおこなった.HTV7/HSRCミッションの概要と成果,構築した設計評価法と得られた設計知見について示した.更に,提案した改良設計の有効性を飛行後評価の結果により示した.
HTV搭載小型回収カプセル(HSRC)は日本初の揚力飛行を行う再突入カプセルとして開発され,2018年11月に低軌道からの大気再突入を実施し物資回収ミッションを達成した.HTV小型回収カプセルは以前計画されていた回収機能付加型HTV(HTV-R)カプセルとほぼ相似形状であること,小型でありながら軽量アブレータを用いていることなどの特徴があり,それらに対応した空力データベースを整備する必要があった.そこで,ここでは空力データベース整備に際しての方針・概要を説明するとともに,更なる空力データベースの高精度化及び将来の再突入機空力設計に資する目的で,再突入飛行データから得られたトリム角,空力係数の他RCSジェット干渉力を整理し,空力データベースとの比較を紹介する.