超小型衛星向けの推進系の開発が世界中で行われつつある中,世界初の50 kg級の超小型深宇宙探査ミッションPROCYONのように,実際に科学・探査ミッションを行うために,実証目的ではなくミッション要求を満たせるような推進系を搭載する例も出てきている.本稿では,東京大学におけるこれまでのミッション経験や検討中の将来ミッションをベースに,今後の宇宙科学・探査ミッションの例として,小天体探査・惑星探査等の深宇宙探査ミッションや,フォーメーションフライトミッションを取り上げ,今後必要となるであろう超小型推進系の性能例やその考え方を提示した.超小型衛星ミッションでは,厳しいリソース制約の中で設計を最適化する必要があるため,推進系には,スラスタ単独の性能向上以外の観点での要求が多数存在する.今後,探査機システム側との密な連携により,真に使い勝手のよい高性能な推進系の研究開発が進むことを期待したい.
実フライトレイノルズ数による風洞試験の1つとして,高レイノルズ数気流実験の重要性が広く知られている.防衛大学校低温風洞は1985年に建設され,比較的高いレイノルズ数で高亜音速を中心に翼型流れの基礎研究に用いられてきた.本風洞の運転法やシステムの改良は段階的に行われ,比較的高いレイノルズ数で翼型実験における風洞補正法などで成果を得てきた.しかし,本風洞は建設から30年以上が経過し,経年による不具合などが生じ抜本的な修理/改修が必要となっていた.このような問題の解決と本風洞のさらなる活用を目指して,現在,風洞の修理/改修や3次元模型用風洞天秤など新たな計測装置の導入に取り組んでいる.風洞運転に関する取り組みでは,これまで制御盤と電子計算機で行っていた警報システムを統一し,視認性の高いタッチパネルを導入した.これにより安全性が高く精度の良い風洞の運転が可能となった.また,新たに導入した非保温型の低温風洞用天秤では,天秤の校正方法を提案し,予備実験としてAGARD-B模型による空力試験を試みた.その結果,同低温風洞用天秤による3次元模型の空力試験の可能性が示された.
気候変動観測衛星「しきさい」に搭載している光学センサの「多波長光学放射計」(SGLI, Second generation GLobal Imager)は,近紫外(380 nm)から熱赤外(12 μm)までの波長範囲を19の観測チャネルによりカバーし,250 m分解能の1000 km以上の観測幅により全地球を約2日の頻度で連続観測する中分解能多波長広域観測光学センサである.SGLIは,環境観測技術衛星「みどり2」の後継センサとして開発をスタートし,地球環境変動観測ミッション(GCOM, Global Change Observation Mission)の2号機である「しきさい」のミッション機器として2017年12月23日にH-ⅡAロケット37号機により打上げた.2018年1月1日に初画像を取得して以降の1年間の初期校正検証を完了し,2018年12月20日より観測データを一般に公開している.本解説では,SGLIの概要やBreadboard Model(BBM),Engineering Model(EM),Proto Flight Model(PFM)という3種類のモデルを製作したセンサ開発の結果,打上げ後12カ月の軌道上初期校正検証結果について報告する.
不確かさを考慮する最適設計であるロバスト最適設計を多目的最適設計問題として定式化するとともに,その適用例を紹介する.多目的最適設計としては,不確かさをもつ設計パラメータのノミナル値(平均値)に対する設計指標と,設計パラメータの不確かさ(変動)による性能指標の低下量を,それぞれ別の目的関数に設定する.これにより,設計パラメータの不確かさが性能指標におよぼす影響をより明確に示すことができる.このことを,簡単な数値例を通して示す.次に,パレート解を正しく評価でき,かつ計算効率が高い手法として,満足化トレードオフ法による解法を示す.これは単一目的最適設計問題に帰着させる方法ではあるが,通常の加重和法と異なり,パレート面が非凸形状であってもパレート解を求めることができる.その適用例として,高精度宇宙リフレクタにおいて,副鏡調整機構の故障を考慮する設計問題を紹介する.