超小型衛星の運用の高機能化および深宇宙探査には,推進器がますます不可欠な存在となる.化学エネルギを用いて大推力を得ることのできる化学ロケットは数km/sの増速が与えられるキックモータになる.主衛星に相乗りする形で打ち上げられる超小型衛星には厳格な安全基準が求められるため,プラスチック等を燃料とするハイブリッドロケットが注目を浴びている.その中でも,端面燃焼式ハイブリッドロケットは,従来型ハイブリッドロケットを凌駕する燃焼特性および推力制御特性が期待されてきた.端面燃焼式ハイブリッドロケットは,燃料製作に困難さを有していたが,高精度3Dプリンタの台頭によって,2014年に実証に成功した.これまでの間,筆者らは数多くの燃焼実験を実施し,研究成果を国内外の学会で発表してきた.本論文では今まで得られた端面燃焼式ハイブリッドロケットの知見をまとめ,今後の課題を紹介する.
超小型深宇宙探査機EQUULEUSは,2020年にNASAのSLSによって,メインペイロードである無人宇宙船Orionの副ペイロードとして打ち上げ予定のキューブサットである.EQUULEUSのミッションの一つが太陽-地球-月系における軌道操作技術の実証である.その核となる技術が小型水レジストジェットスラスタAQUARIUSである.AQUARIUSには,軌道遷移と姿勢制御の2種類の推進性能が要求される.水を推進剤として共有利用することで,2種類の推進性能を確保しつつ,高圧ガスシステムから脱却した小型推進系が実現される.また,安全無毒で取扱い性が良い水は,相乗り打ち上げされることが多い小型宇宙機との親和性が高い.AQUARIUSのエンジニアリングモデルを開発し,探査機構体に組み込んだ状態で性能評価試験及び環境試験を実施した.小型宇宙機という特徴を生かし,探査機を丸ごと用いて推進系の作動試験を実施することで,電源系や熱系等も考慮しつつ,推進性能を統合的に評価した.本稿では,AQUARIUSエンジニアリングモデルの開発状況について概観する.
C-2輸送機の構造設計においては,重量,コスト,整備性等を考慮し,機体各所に適用する構造材料,構造様式を設定した.また,設計基準の整備,基礎荷重検討,構造強度検討及び空力弾性検討を行い必要な強度・剛性を有する機体の構造設計を実施した.構造設計の実施と並行して各種試験を実施し,その成果を設計基準類,製造図面,及び強度計算書に反映した.また,設計結果に対して各種試験を実施し,構造強度を確認した.本稿では,C-2輸送機の機体構造設計の概要及び結果について,開発の各設計フェーズにおいて実施した各種試験の成果を交えて紹介する.
バルート(Ballute)とは,バルーン(Balloon)とパラシュート(Parachute)を組み合わせた造語であり,風船のようにガスで膨らますことにより,その形状を保持することができるパラシュートのような装置である.この装置は軽量かつ大型化が可能なため,大気圏再突入飛行体の減速用デバイスとしての利用が検討されている.バルートは,再突入カプセルの後方に展開し,複数本の柔軟なケーブルでカプセルに接続することを想定している.そのため,バルートの形状や位置および姿勢は,バルートにかかる空気力により,非定常に変動する可能性があり,飛行体の空力特性に大きな影響を及ぼすことが予想される.本解説では,バルートにおける空力特性に関する研究のうち,バルートを用いた再突入飛行体の姿勢安定性に関する研究と,バルートの変形が空力特性に及ぼす影響について紹介する.
近年,欧州においても実フライトレイノルズ数域を対象とした,実機を用いたフライト試験やEuropean Transonic Windtunnel(ETW)などの高レイノルズ数低温風洞に適用可能な計測技術の開発が精力的に行われてきている.フライト試験における先進的計測技術の研究開発がEUプロジェクトAdvanced In-Flight Measurement Techniques(AIM,AIM2)として2006~2013年に行われた.著者らはDLRの感圧塗料(Pressure-Sensitive Paint : PSP)グループとしてPSPをフライト試験に適用するWorking Package(WP)を担当した.フライト試験では飛行高度による気流温度の変化が大きく,赤外線カメラを用いて温度補正を行った.その他にも高レイノルズ数風洞である低温風洞においては感温塗料(Temperature-Sensitive Paint : TSP)を用いた境界層遷移の可視化や,Particle Image Velocimetry(PIV)による流速計測,変形計測などが盛んに行われている.本論では欧州における実フライトレイノルズ数域の先進計測技術の現状について紹介する.