JAXAでは,これまでに実現されていなかった超低高度(軌道高度300 km以下)を継続的に飛行する超低高度衛星システムの研究を進めてきた.超低高度衛星は,従来の地球観測衛星(軌道高度600~800 km)と比較して地表面との距離が短くなるため,観測分解能の向上や観測センサの小型化・低消費電力化が図られ,災害監視,地球環境観測,サイエンスなどの様々な分野への応用が期待される.一方で,大気抵抗により生じる軌道高度低下の補償や衛星表面の材料劣化に影響する原子状酸素が多く存在するという課題がある.JAXAでは将来の超低高度衛星実用機の実現に向けてこれらの技術課題に対応するために,超低高度衛星技術の実証及び原子状酸素等の超低高度環境データの取得を目指して,超低高度衛星技術試験機(SLATS : Super Low Altitude Test Satellite)の研究開発を実施した.SLATSは2017年12月に打ち上げられ,2019年4月より約6カ月間かけて計画したミッションを達成した.
HTV搭載小型回収カプセル(HSRC)は,国際宇宙ステーション(ISS)からのサンプル回収をミッションとした実証機であり,2018年11月に飛行実証に成功した.本稿ではHSRCの航法誘導制御系の設計開発及び飛行結果を紹介する.我が国には誘導制御を前提としたカプセル型再突入機の開発経験がないため,HSRCでは,飛行中の荷重倍数の低減及び定点誘導のための揚力誘導技術がキー技術の一つとなった.この技術は,飛行中にカプセルに加わる揚力をバンク角により調整し,重力方向の沈下率及び飛行距離を制御する.HSRCでは誘導則に実時間予測積分を採用し,不確定性に対するロバスト性を向上させた.航法誘導制御系の設計評価はモンテカルロ・シミュレーション(MCS)と並行して,クリティカルな懸念点に関してはそれぞれに特化した解析を実施することで行われた.実飛行結果から,設計した航法誘導制御が正常に動作し,目標とした揚力誘導技術の獲得に成功したことを示す.