最新の旅客機において空港進入時の主たる騒音源になっている機体騒音に対し,FQUROHプロジェクトでは,低騒音化の設計技術確立を目標に,JAXA実験用航空機「飛翔」を実証機として2017年に飛行実証試験を実施した.そこで得られた高精度な騒音計測データを用いて,設計の基盤となる空力音響風洞試験とCFDの検証を実施し,技術の確立を進めた.その後,研究活動は旅客機での実用化を目指してリージョナルジェット機を対象にした研究開発,そして海外企業とも連携した研究開発へと進んでいる.本稿ではプロジェクト立ち上げからその後の状況を振り返り,FQUROHプロジェクトで得られた成果と意義を確認するとともに,引き続き旅客機の機体騒音低減技術の確立に向けて研究活動が進んでいる状況を紹介する.
JSASSは我が国の航空宇宙技術の発展史を形成する画期的な製品および技術を後世に伝え,航空宇宙技術の発展に資するために航空宇宙技術遺産制度を創設した.第54期理事会で航空宇宙技術遺産制度委員会を設立し制度設計と並行して選考作業を行い,定時社員総会で第一号の認定を行った(日本航空宇宙学会航空宇宙技術遺産,https://branch.jsass.or.jp/isan/).本特集では,航空宇宙技術遺産認定制度および第一号に認定された技術について紹介する.
エイヤフィヤトラヨークトルやメラピ火山の噴火時,ヨーロッパや東南アジアにおいて航空輸送が著しく混乱した.我が国には活火山が数多く存在しており,大規模な火山噴火が発生した場合,航空輸送に甚大な影響を与えることが想定される.このような背景の中,筆者らは大規模火山噴火リスクに対する航空機避難問題を定式化し,各航空機避難時間の総和を最小化する最適化モデルを構築した.構築したモデルは緊急オペレーションとして,噴火の影響を受ける航空機の避難先空港の割り当てと空港の駐機容量の一時的緩和を考慮できる.本研究ではCARATS Open Dataから航空機の位置座標を抽出した.またAIS Japan航空路誌情報から各空港に駐機できる最大航空機数を算出した.航空機の避難先の組み合わせの最適化にはメタヒューリスティック手法である遺伝的アルゴリズムを用いた.ケーススタディとして桜島噴火を想定した航空機避難シナリオの分析を行った.
航空機運航において,到着予定時刻(Estimated Time of Arrival: ETA)の予測精度は,風予測誤差に大きく影響される.本稿では,風予測誤差の影響を緩和し,ETAの予測精度を向上させるため,確率的風予測手法を提案し,巡航速度誘導則に適用する.確率的風予測では,多数の数値気象予報を行うアンサンブル予報を用いて,風を確率的に推定することで,ETAを高精度に予測する.そして,速度誘導則では,所定の許容範囲内で目標の到着時刻を満たす最適速度を決定する.本稿では,数値シミュレーションにより,確率的風予測を適用した速度誘導則の性能及び有効性を評価する.確率的風予測を適用することで,典型的な飛行管理装置に比べ,ETA予測精度が向上し,目標の到着時刻を満たすための不必要な速度変更回数を低減することができるため,航空交通管制による軌道予測性の向上や,燃料消費量の削減効果が期待される.