「はやぶさ」は,世界で初めて地球圏の月以外の天体において着陸と離陸および試料採取と回収にいたるシーケンスの実施に成功し,小惑星への往復飛行,着陸,サンプリング,サンプルリターンの一連の技術獲得を果たした.また各種近傍観測データならびに回収サンプルの分析により,小惑星の構造・組成・生成過程等について画期的な知見をもたらした.「はやぶさ」で得られた工学的,理学的知見は,「はやぶさ2」および 現在開発中のDESTINY+,MMXに発展的に継承され,深宇宙小天体からのサンプルリターン探査技術面で我が国が世界のTOPを走り続けることを可能としている.
宇宙航空研究開発機構(以下,JAXA)航空技術部門では,航空分野のみならず幅広い分野の企業・学界・エアラインの有識者からなる外部委員会による検討を経て,JAXA航空技術部門が目指す航空利用社会の将来像と重点課題,及びその実現に向けた個別具体的な研究開発課題とその取り組み方策を取りまとめた.本報では,重点課題の一つであるCO2排出低減技術についてJAXAの研究開発を報告する.現行の航空機形態については,機体の抵抗低減,エンジンの高効率・軽量化及び小型高出力化に関する研究開発を取り上げる.これらの技術は燃費低減に寄与することから,産業界と連携して早期に社会実装が期待されるものである.長期的視点から,持続可能な航空燃料,航空機の電動化,水素航空機に関する研究開発が実施されている.これらは新しい航空技術を創成する可能性を秘めている.
宇宙と地球をケーブルでつなぎ,物資輸送を行う宇宙エレベーターは,低コストかつ大容量な宇宙輸送を達成し,宇宙輸送を革新し得る技術として注目されている.これまでの宇宙エレベーター研究の多くは地球の赤道上とケーブルを接続する赤道上宇宙エレベーターが対象であった.一方,地球の有緯度地帯にアンカー(アースポート)を設置する非赤道上宇宙エレベーターが近年注目されている.非赤道上宇宙エレベーターは,宇宙エレベーター建設候補地の拡大や静止軌道上の宇宙機との衝突回避,さらには宇宙線の影響緩和などの望ましい特徴を有する反面,ケーブルの変形や運動が複雑になる問題がある.それらの影響を事前に予測するには非線形性を考慮した高精度の数値シミュレーションモデルが必要とされる.ここでは高精度な数値解析を達成する上で必要な特徴について論じ,高精度数値解析手法の一つである非線形有限要素法を用いた非赤道上宇宙エレベーターの動的解析とその結果について解説する.