PEFC環境におけるステンレス鋼セパレータからの鉄の溶出挙動を調査するために,SUS304をpH 3.0および3.2の硫酸酸性溶液中で100 h定電位分極した際の溶出金属量をICP-MSで定量した.pH 3.2の場合はアノード酸化された鉄のうち90%以上が腐食生成物としてステンレス鋼表面に留まった.一方でpH 3.0では約75%が溶出することが明らかとなった.このことはセパレータのおかれる環境のpHが3.0を下回った場合に,鉄の溶出によるMEAの汚染が強く懸念されること,一方pH 3.2以上では析出した酸化鉄によるICRの増加が懸念されることを示唆している.
PEMFC用セパレーターを炭素系材料(流路形成材)とアルミニウム(ガス隔離板)を組み合わせてつくることを想定し,PEMFC生成水を模擬した希薄な硫酸塩およびフッ化物水溶液中におけるアルミニウムの腐食挙動を検討した.浸漬試験の結果によれば,純水中と比較し,1 ppmのフッ化物はアルミニウムの腐食量を増加させたのに対し,1 ppmの硫酸イオンはむしろ腐食を抑制した.
熱化学水素製造法(ISプロセス)の硫酸分解反応容器を想定した高温硫酸分解ガス環境下において,ステンレス鋼及びNi基合金の耐食性評価を実施した.その結果,100時間の腐食試験ではSiを2.4%含有したNi基合金は,腐食速度が小さく,優れた耐食性を示したほか,Alを3%含有したフェライト系ステンレス鋼(3Al-Ferrite)は,腐食速度が指標とするSiCの腐食速度(0.1 mm/year)を下回る優れた耐食性を示した.一方,3Al-Ferriteの腐食生成皮膜と同じコンセプトで,Al2O3皮膜を材料にプレフィルミングしたNi基合金の腐食速度は,3Al-Ferriteに対して大幅に大きくなった.これらの酸化皮膜/母材界面の断面でEPMA分析を行った結果,2.4Si含有Ni基合金ではSi酸化皮膜が形成されていたが,長時間の腐食試験中にSi酸化皮膜に欠陥ができ,腐食環境から酸化皮膜を介して母材粒界へのS侵入が確認された.一方で3Al-Ferriteでは,薄い均一なAl2O3皮膜が形成されており,粒界へのS侵入は確認されなかった.またAl2O3皮膜をプレフィルミングしたNi基合金では,Al2O3皮膜に欠陥ができ,母材粒界へSが侵入していた.3Al-Ferriteに生成した腐食生成皮膜とプレフィルミングしたAl2O3の違いをX線回折で解析した結果,3Al-Ferriteの皮膜はα-Al2O3のみからなるのに対し,プレフィルミングしたAl2O3はα-Al2O3とγ-A2O3が混在していることが分かった.これらの結果により,3Al-Ferriteの良好な耐食性は,緻密なα-Al2O3が早期に母材表面に均一形成されたことによるものと推察される.
すきま腐食の発生,進展メカニズムを最新のin-situ機器を使って検討してきた結果の総合論文である.In-situ測定は腐食挙動の直接観察,半導体センサによるpH測定,ラマン散乱分光による錯体測定である.すきま腐食はその進展挙動からStage I~Stage IVの4段階に分けることができる.いずれもすきま内における水和,錯体形成(加水分解およびクロリド錯イオン)と密接な関係があることを明確にした.また,再不働態化がすきま内での水素発生をカソード反応とする腐食によるpH上昇に基づくことを明らかにした.発生は準安定孔食が起因となっていることも明確化した.
これらの結果に基づき再不働態化電位測定および自然電位を進展速度に変換する試験法を提案した.発生についてもすきま腐食発生下限界電位を判定できる測定法の可能性を示した.