著者らは,三点曲げスプリング鋼の遅れ破壊がショットピーニングあるいは酸化物セラミックの溶射によってどのように抑制できるかを調べた.はじめに,ピーニングされたバネ鋼の特性と遅れ破壊感受性におよぼす水素供給法(水素チャージ法)について調べた.次に,通常の曲げ試験片の浸漬試験法(CIT)で下限界歪を決める方法を評価する.そのあと,水素を吸蔵させた試験片に段階的にひずみを増加させながらAEを測定して遅れ破壊下限界歪を測定する方法(SSI-AE method)を提唱する.水素チャージ法と試験片の強度レベルによって,ピーニングによる抑制効果がみられる場合と見られないケースを紹介し,CITとSSI-AE法における問題点と有利性を議論した.ショットピーニングが遅れ破壊に対する有効な抑制対策にならない場合については,導電性チタニア溶射による水素侵入量の抑制を試み,いかにこの方法が下限界歪を改善できるかを実証した.
模擬淡水における炭素鋼の腐食形態に及ぼす金属カチオンの影響を表面観察と分析により調査した.走査型電子顕微鏡を用いて試料の表面及び断面の形態を観察した.X線光電子分光分析と断面のオージェ電子分光点分析の結果から,Zn2+を含む溶液中で形成された腐食生成物にはZn化合物が含まれていることが示唆された.
アコースティックエミッション(AE)法を用いて腐食した鋼製ボルト締結体の破断強度を評価した.鋼製ボルト締結体に対して,NaCl水溶液を用いて異なる期間腐食促進試験を行い,試験中のAEモニタリング及び腐食試験後に引張試験を行った.腐食したボルト締結体の破断強度とAE信号の発生数に相関が見られた.次に,検出されたAE波形のパラメータと腐食状態の関連性を評価した結果,腐食が進展したボルトではガイド波L(0,1)モードの強度が強く現れ,周波数スペクトルのピーク値が低いAEが発生する傾向が見られた.また,腐食が進展したボルト締結体では,最大振幅値が大きなAEが多く検出された.すなわち,振幅や周波数などのパラメータからボルトの破断強度を推定できる可能性を示した.
本研究では,亜鉛めっき鋼板の腐食進行に伴う防食機構の変遷が鋼板中への水素侵入におよぼす影響を明確化するため,乾湿繰り返し腐食環境下における亜鉛めっき鋼板中への水素侵入挙動と腐食に伴う表面状態変化を測定した.その結果,鋼板表面を被覆する亜鉛めっきが腐食し,基材鋼板の露出する面積が増加することで水素透過電流が増加した.さらに基材鋼板の露出面積が増加し亜鉛めっきの残存量が低下すると水素透過電流は低下した.