本稿では電気化学測定法のうち,定電位法について解説する.クロノアンペロメトリー法に加え,腐食評価に用いられている代表的な定電位法として,不働態化金属の局部腐食発生および再不働態化の解析に用いられている方法や,非破壊で腐食速度の推定が可能な分極測定法を紹介する.
走査型振動電極法(SVET)は,金属電極近傍の腐食電流密度分布を測定するために適用される.本稿では,SVETの基本的な性能およびその応用例について解説する.システムの検出感度や分解能が,試験片-センサ電極間距離,h,振動頻度,f,および試験液の導電率,κ,などの測定条件に影響されるので,それらの条件は,測定対象,腐食速度,アノード/カソード位置などを考慮して決定されなければならない.しかしながら,最近では,画像処理技術や微小信号検出技術の開発が進んでおり,腐食測定に有益な道具として確立されるであろう.
腐食防食分野での微小電気化学測定の需要が高まっている.ここでは,走査型プローブ法の一種である走査型電気化学顕微鏡(SECM)の特徴および動作原理について簡単に説明した後,腐食防食の分野で適用されているSECM研究事例の一部を解説する.
土壌腐食は多くの環境因子が複雑に関わり進行する反応であり,環境因子が腐食速度に及ぼす影響はいまだ明らかでない.本研究では,土壌腐食の支配的な環境因子と考えられる土壌粒子径と土壌含水率に着目し,腐食速度に及ぼす影響を調査した.粒子径の細かい土壌(細粒)および粗い土壌(粗粒)を用意し,それぞれに埋設した鋼の腐食速度を交流インピーダンス法で測定した.その結果,粗粒と比べ細粒のほうがより低い土壌含水率において腐食速度が最大値を示した.鋼表面を覆う水中の溶存酸素の拡散距離と濡れ面積の兼ね合いによって最大値を示す土壌含水率は決まるが,細粒のほうがより低い土壌含水率においても濡れ面積が確保され,かつ薄い水膜が保持されているためだと考えられる.
Al 溶射鋼を亜熱帯モンスーン環境の琉球大学工学部曝露場で25 年間曝露した結果,空隙率の減少が認められるものの健全性が担保されており,溶射膜厚は必ずしも減少していなかった.さらに,下地の鉄を露出させた部分は鉄さびの上にAl2O3の被膜が生成していた.したがって,Al 溶射は環境遮断および電気防食の作用で防食されていた.
海水中において鉄の腐食は流速の上昇とともに増大するが,流速分布が存在する場合,流速差によるマクロセルが形成され,低流速部の腐食が助長され,高流速部の腐食が抑制されることによって,前者が後者を上まわる場合がある.この現象は流速差腐食と呼ばれ,通気差腐食(酸素濃淡電池腐食)の一形態であると考えられる.著者は,内部アノード分極曲線の流速依存性を検討することによって流速差腐食機構を考察した.海水中において流速と電位を変えて鋳鉄の腐食実験を行い,腐食速度から内部アノード分極曲線を導いた.内部アノード分極曲線は流速の上昇とともに貴側へ(低電流密度側へ)移動することを確かめ,これまで鋳鉄・鋼など鉄系材料の通気差腐食および流速差腐食を説明するために提案されていた仮説を実証した.