腐食促進試験は,「腐食の促進」と「実際の沿岸環境における大気腐食の再現性」を両立する必要がある.しかし,一般的なNaCl水溶液を用いた複合サイクル試験では,亜鉛の腐食生成物のうち,gordaiteが生成せず,鋼/亜鉛の腐食速度の比は,実際の屋外環境の値と比べて過小となる.逆に,人工海水を使用して複合サイクル試験を実施した場合,腐食生成物には多くのgordaiteが含まれ,鋼/亜鉛の腐食速度の比は実際の屋外環境の値に比べて過大となる.そのため,これらの溶液では亜鉛の耐食性は過小評価もしくは過大評価される.そこで沿岸域における亜鉛の大気腐食挙動を再現するための新しい試験溶液について検討した.この新しい試験溶液を用いることで,沿岸地域における亜鉛めっき鋼やジンクリッチペイントの耐食性をより正確に評価することができる.
本研究では,表面観察,深さ測定,電気化学インピーダンス法,分極測定を用いて,種々の土壌含水率の模擬土壌中における亜鉛の腐食挙動を調べ,亜鉛の腐食形態および腐食速度におよぼす土壌含水率の影響を評価した.その結果,土壌含水率が80%以上の高含水率では,亜鉛の平均腐食速度は低い値を維持し,土壌含水率による腐食速度の変化はあまり認められなかった.一方,低含水率では平均腐食速度は著しく増加し,土壌含水率50%でピークを示した.また,含水率80%以下では,含水率の低下とともに腐食形態が不均一になり,腐食深さが大きくなることが示された.土壌含水率が腐食形態と腐食速度におよぼす影響について,模擬土壌環境における亜鉛表面のO2のカソード還元反応と亜鉛のアノード反応の変化に基づいて考察した.