レアメタルであるNi,Moを節減し価格安定性を志向したステンレス鋼の開発が進められているなか,国内ではNi,Moを節減した省合金二相系ステンレス鋼SUS821L1,SUS323Lの2鋼種が2015年にJISに登録された.これら2鋼種の耐食性はオーステナイト系ステンレス鋼SUS304,SUS316Lとそれぞれ同等であり,強度は汎用二相系ステンレス鋼SUS329J3L,SUS329J4Lに匹敵する.本報ではSUS821L1,SUS323Lの材料特性についてSUS304,SUS316Lと比較して述べ,さらに適用例についても紹介する.
以前の研究において,脱気1 M HClO4中のFe表面における種々の陰イオンと有機陽イオンインヒビター,テトラブチルアンモニウムイオン(C4H9)4N+(TBA+)の吸着と腐食抑制について硬いおよび軟らかい酸塩基の法則に基づいて考察した.本研究では,1 M HClO4中のFe表面における吸着性陰イオンCl―,I―およびSH―とさらにこれらの陰イオンとTBA+の吸着挙動を検討する.陰イオンおよびTBA+の表面被覆率θをインピーダンス測定で求めた電気二重層容量から得た.非共有電子対がないTBA+は表面に静電気相互作用によって吸着した.非共有電子対を持つ陰イオンは静電吸着よりもむしろ安定な軟らかい酸塩基の作用によって化学吸着した.軟らかい塩基であるI―およびSH―のθはゼロ電荷電位Epzcに近い電位でθが最大値となった.これはEpzcにおける表面が最も軟らかい酸として作用するためである.TBA+は陰イオンが化学吸着したFe表面に静電気作用によって吸着し,高いθとなった.
ステンレス鋼表面の析出物が孔食の起点となりうることは従来からよく知られている.本研究では,フェライト系ステンレス鋼の初期発銹および孔食発生におよぼす数十nmの粒径を有するε−Cuの影響について検討した.18%Cr−3%Cuフェライト系ステンレス鋼を用いて,ε−Cuの粒径を500~700℃,1~100hの時効処理により制御し,その粒径が結晶粒内で0~51nm,結晶粒界で104~125nmとした供試材を得た.これらの供試材表面のε−Cuは,孔食電位測定において孔食電位よりも低い電位で溶解した.このε−Cuの溶解によって形成された穴が孔食電位において孔食の起点となったことが示唆された.孔食電位測定における孔食密度はサイクル腐食試験における発銹点数と類似の傾向があった.結晶粒内のε−Cuの粒径が35nm以上となる試験片の孔食密度は,35nm以下の粒径の試験片の孔食密度よりも大きかった.このことから,孔食発生に寄与しうるε−Cuの臨界粒径が存在することが示唆された.