我が国おける腐食確率と極値統計研究の発展について述べる.増子 曻先生の1972年の解説「腐食と確率」に端を発して,腐食科学と防食工学分野において極値統計の理論と応用についての研究が進展した経緯について述べる.腐食にみられる種々の確率分布およびガンベル分布による局部腐食深さの最大値推定や面積依存性解析ならびにワイブル分布による応力腐食寿命分布解析についてふれる.
増子教授は画像解析を腐食分野へ真っ先に持ち込んだ研究者の一人である.彼の業績を振り返るとともに,画像解析を応用した研究の発展と現状,および将来展望について解説した.明暗解析やパターン認識,色解析などによって,さびの組成や分布,あるいは水溶液中のpHやイオン濃度の分布が測定できるようになってきている.ハイパースペクトルカメラなどの新しい技術によって,それらの分布をより正確に捉えられる可能性がある.また,コンピュータの性能の向上に伴い,AIの応用が容易になり,色だけでなく表面性状(テクスチャー)なども加味して,人の感覚に頼らない,腐食状況の把握ができるようになろう.
増子 曻先生からは数多くのことを学んできた.その一つに腐食問題に対する熱力学的な取り扱い方法に関することがある.そこで,先生から教わった腐食問題に関する熱力学的な取り扱いについて簡単に説明する.最初に表面の熱力学に関する取扱いである.水溶液の表面では表面張力の影響を受けていろいろな現象が起きるが,それらを表面の水蒸気圧の変化ととしてとらえることで説明できることを示した.次に電位-pH図を用いた腐食問題の解釈について示した.とりわけ特徴的な速度論的な考察につなげる方法について示した.最後に,先生が若いころに起草して未発表であった原稿を付けた.
鉱石から金属への精錬,金属の耐食性や表面処理,金属からさびへの変化などのみならず,日本人が築き上げた文化・伝統なども含め,幅広い教養を披露された故・増子 曻教授は,独創的な手法で「さびの基礎研究」に取組み,それらの物理化学的特性を,1970年前後に世界に先駆けて明らかにされた.その成果に学びながら,著者らは耐塩害性を向上したニッケル系高耐候性鋼の開発に携わった.往時1980年代の著者らの思考過程を再整理しモデル化して解説する.加えて,本分野の最近の研究動向についても説明する.
日本の建材,自動車,電気の各産業分野向けの亜鉛系表面処理鋼板の開発の歴史を述べるとともに,日本で設立され,主要国で約数年ごとに開催される亜鉛および亜鉛合金めっき鋼板の国際会議,GALVATECHの創設と発展における増子 曻先生の貢献について紹介し,今後の鉄鋼表面処理開発への期待について述べる.
ステンレス鋼の耐孔食性と硫化物系介在物の電気化学特性との関係に関する最近の研究を解説する.まず,ステンレス鋼母相と介在物との界面における局部溶解挙動に及ぼす鋼母相側へのMo添加の影響について紹介する.次に,介在物の難溶性化によるステンレス鋼の耐孔食性向上技術について述べる.最後に,介在物の難溶性化以外の耐孔食性向上の方法を紹介する.