SUS304のすきま腐食挙動とすきま内pH(pHc)との関係を明らかにするために,定電位分極と半導体化学センサによるすきま内pHの同時測定をおこなった.
センサで測定されたpHは,金属イオンの影響を受けず,水素イオンの活量およびγH+を反映した値を示す.定電位分極によりすきま腐食が常に進行している場合,溶解した金属イオンのうち,主としてCr3+の加水分解反応やクロリド錯イオン形成に伴い,すきま内全体がpHc<0.0の極低pH環境となる.
一方,二段定電位分極法を用いた場合,すきま内の金属溶解量は二段目の電位(E2)に依存して低下し,最終的に再不働態化に至る.本研究の場合,すきま腐食進展後の再不働態化pHcは2.5~3,再不働態化電位ERは約80 mVという工学的意義の高い結果を得た.
ステンレス鋼のすきま腐食発生および進展課程におけるすきま内の環境は,水素イオン濃度や塩化物イオン濃度が高く,溶存酸素はほとんど存在しない.一方,すきま腐食が進展を停止する課程では,すきま内の水素イオンや塩化物イオンが希薄化することや,すきま外部からすきま内部へ溶存酸素が浸入し,活性状態にあるステンレス鋼が不働態化する.
ステンレス鋼のすきま腐食における再不働態化挙動を把握することは,ステンレス鋼の耐食性を把握する上で極めて重要であると考えられる.このため,不働態化pHと塩化物イオン濃度の関係を調査した.
その結果,塩化物イオン濃度の上昇や,溶存酸素濃度の低下に伴い,SUS304鋼の不働態化pHが上昇する結果が得られた.不働態化現象は,カソード電流密度がアノード電流密度のピーク値(ICRIT)を上回ったときに生じる.従って,塩化物イオン濃度の上昇に伴うICRITの上昇や,水素イオンの還元電流の減少,溶存酸素濃度の低下に伴う溶存酸素の還元電流の減少が,不働態化pHの低下に寄与したと推定される.