酸性溶液中の金属腐食に対する吸着および沈殿インヒビターの抑制機構を硬いおよび軟らかい酸塩基の法則に基づいて考察した.デカメチレンイミン(CH2)10 NHの非常に高い抑制効果がFe表面(軟らかい酸)と環の歪によるイミンのN原子(軟らかい塩基)の間の安定な化学吸着結合の生成によるものと説明した.陽イオンの静電吸着インヒビター,逆供与による吸着インヒビター,ジベンジルスルホキシド,プロパギルアルコール,ビスマスイオン,ベンジルチオシアネートの抑制作用についてもHSAB則に基づいて説明した.
耐水素脆化特性に優れる鋼板の高強度鋼版の開発には,鋼板への水素侵入挙動の明確化が必要である.大気腐食環境下では腐食反応に伴って,鋼板へ水素が侵入するが,水素侵入挙動と腐食挙動の関係,また温湿度や飛来塩分といった環境因子との関係は不明確である.そこで本研究では,水素侵入挙動と腐食挙動の関係およびこれらに与える環境因子の影響を明確化することを目的として,大気暴露環境での水素侵入量と腐食量および環境因子(温度,湿度,付着塩分量)の同時モニタリングを実施した.
その結果,付着塩分量が増加することで水素侵入,腐食速度は増加した.一方で湿度の影響については水素侵入,腐食挙動で異なり,腐食速度が湿度の増加に伴って増加する一方で,水素侵入は中湿度で最大を示した.中湿度での水素侵入量の増加は,高[Cl-]環境におけるFe3+の加水分解に伴うpH低下によるものと考えられる.
インフラ設備点検の効率化に資する技術として,大規模かつ複雑な形状の構造物を遠隔診断するための塗装型センサの研究を進めている.本報告では,亀裂検知を目的に,センサとして作製した塗膜に0.2~2.0 GHzの電磁波を伝搬させ,反射波を観測する手法を用いてセンサに発生した亀裂を模擬した傷の長さや発生位置の検出について検討を行った.実験およびシミュレーションの結果からセンサ面の一辺に対し15%程度の長さの傷を検知可能であることを確認した.
自動車の外板に用いられる電着塗装鋼板の腐食は,自動車の外観を損なうため大きな問題となる.自動車外板は様々な大気環境に曝されるため,環境因子(温度,湿度,付着塩種など)が腐食寿命に及ぼす影響を把握することは設計上重要である.電着塗装鋼板の耐食性能を短時間で判断するために,EISを用いた塗膜劣化評価を検討した.その結果,塗膜厚さ,付着塩種,冷凍過程の有無が防食性能の劣化に関与している可能性が見出された.
屋外促進暴露試験を用いて,Zn-30mass% Al溶射鋼について4年間の大気暴露試験を実施し,大気腐食性の評価を行った.X線回折結果より,屋外促進暴露試験により形成された皮膜の腐食生成物は,一般的な大気暴露試験とほぼ同一の腐食生成物を形成していた.屋外促進暴露試験による溶射皮膜の腐食量は,大気暴露試験に比べて約1.5~2.0倍程度促進した.