高放射性廃液貯槽環境における腐食挙動について,海水成分やコンクリート成分の1成分である硫酸イオンに着目した評価を実施した.SUS316Lを対象に,各種金属元素と硝酸からなる模擬高放射性廃液を用いて腐食試験を行った結果,硫酸イオンにより腐食速度が低下することを確認した.XPSなどによる分析から,材料表面における硫酸イオンに起因した化合物の生成により,アノード反応が抑制されたと考えられる.
加速試験法検討の一環としてBWR一次冷却水系での応力腐食割れ発生挙動に及ぼす硫酸塩の影響を調べるために,288℃の硫酸ナトリウム水溶液中で鋭敏化304ステンレス鋼試験片のすきま付き曲げ試験(CBB試験)を行った.30~500 ppbのSO42−添加は,深さ1 μm以上の全き裂発生数,および深さ50 μm以上の進展性き裂発生数の両者を増加させた.SO42−濃度100 ppb以下では,他の多くの観測例と同様,応力腐食き裂発生の空間分布がPoisson分布に適合したが,300 ppb以上では不適合であった.き裂発生の累積確率の新たな推定方法としてPoisson分布近似法が提示され,その有効性が確認された.Poisson確率過程モデルに基づく解析により,き裂発生寿命分布下界値aestのSO42−濃度依存性として,aest=683/[SO42−]が推定された.例えば,40 ppbのSO42−添加により,き裂発生の確率的性格を変えずにき裂発生寿命分布下界値を10分の1に短縮することができる.硫酸塩添加によるaestの短縮は,電気伝導率ではなく,SO42−そのものに依存する事象と考えられた.
使用済み燃料プール(SFP)の冷却不全または冷却水損失による重大事故が発生した場合,使用済み燃料被覆管は空気中に露出し,崩壊熱による温度上昇が起こる.そのため空気中での燃料被覆管の高温酸化の研究を行うことがSFPの安全性評価のために重要である.本研究では,燃料被覆管材料であるジルカロイ2(Zry2)およびジルカロイ4(Zry4)を用いて,温度及び空気の流量を変化させた条件における熱天秤による酸化試験を行った.熱天秤の試験では試験温度の上昇に伴い酸化速度が上昇する傾向が見られた.また,空気の流量を使用済み燃料ラック内でSFP事故時に想定される範囲で変化させた場合は,Zry2では950℃以下,Zry4では1050℃以下において,明らかな流量の酸化速度への影響は見られなかった.一方,それ以上の温度では,いずれの合金においても流量に依存して酸化速度が速くなる傾向が見られた.また,その傾向は温度が高いほど顕著に現れた.
空気中における酸化過程の詳細検討のため,酸化試験後,酸化層の詳細観察を行い,重量変化データとの比較を行った.その結果,重量変化は表面酸化膜の割れ以前の過程では,試料表面での緻密な酸化膜の成長に依存し,表面酸化膜の割れ以降の過程では,酸化膜の割れの下層での多孔質な酸化層の成長に依存することが明らかになった.