高温水溶液中における電気化学測定について解説した.基本は常温の電気化学と変わりがないが,オートクレーブを用いる電気化学測定で最も注意を要するのは,参照電極の選択と,測定された電位の標準水素電極電位への変換である.参照電極として銀-塩化銀電極を例に挙げ,内部参照電極型と外部参照電極型に分けて,それぞれの取り扱いについて説明した.高温水溶液中での分極曲線の測定例も紹介した.
高温高純度水環境での応力腐食割れ発生試験方法に対する既存の規格はほとんどないことから,原子力発電プラントに用いられる金属材料を対象とした応力腐食割れ発生試験方法の規格化を進めている.単軸引張定荷重試験方法の腐食防食学会規格JSCE S 1501を制定するとともに,逆U曲げ試験方法の日本工業規格JIS G 0511を改正した.さらに,この活動で検討した技術的内容をISO規格に反映することを試みている.
自動車のエンジンルーム内に装着される,加硫されたゴムダクトより放出されるS8ガス分析手法について研究した.分析手法にGC-MSとHPLCを選定しガス分析を行った結果,HPLCはS8ガスを検出でき,定量分析が可能であることを明らかにした.一方,GC-MSはS8ガスを検出できなかった.これは,S8ガスをカラムに注入した後にS8ガスはカラムに滞留し,質量分析計に到達できないためと推定した.
高温の模擬淡水中における金属カチオンによる軟鋼の腐食への影響を浸漬試験と電気化学インピーダンス分光法(EIS)により調査した.浸漬試験から,金属カチオンにより腐食速度は影響をうけること,Zn2+を含む模擬淡水中の腐食速度が最も低ことが明らかとなった.走査型電子顕微鏡(SEM)により腐食試験前後の試料表面形態変化を観察した.電荷移動抵抗(Rct)とXPSの結果から,Zn2+に由来する層が鋼表面に存在し,この層の存在が不働態皮膜の耐食性の理由であることが示唆された.
デカメチレンイミン(CH2)10NHはC-N-C結合角が環の歪によって120°近くに変形したN原子のπ-電子化した非共有電子対のために有効なインヒビターであることが提唱されている.本報において,このsp2混成軌道構造のN原子が軟らかい塩基に分類され,裸のFe表面が軟らかい塩基に属するために,安定な化学吸着結合を作り,その結果,高い抑制効果をもたらすものと結論する.
塗装鋼構造物において,雨水が滞水する部位や結露する部位では,複数の塗膜傷部が電気的に短絡することで,相互干渉しながら腐食が進行する.本研究では滞水環境を対象として,径の異なる塗膜傷間が相互干渉する場合の鋼材電気化学機構を検討することを目的とした.そのために,複数の電極を有するモデル試験体を製作して,その電極間の腐食電流を測定した.この測定結果から径の異なる電極が存在する場合には,径の大きい側と小さい側の電極がそれぞれアノードとカソードに固定されることで,腐食が進行することを明らかにした.また,電極径がある程度小さい場合,近接する電極の面積比とマクロセル腐食の電流密度には,線形の相関関係があることを示した上で,これらの関係を定式化した.