薄い液膜下における鋼の腐食に及ぼす腐食抑制剤(以下「抑制剤」と略記する)の影響を調査した.抑制剤として0.5 mmol L-1モリブデン酸ナトリウムと0.5 mmol L-1乳酸アルミニウムを10 mmol L-1 NaCl溶液に添加して用いた.サイフォン式膜厚制御セルを用いて試料上に1.0~0.2 mmの厚さの液膜を形成し電気化学測定を実施した.動電位分極測定では,拡散限界電流(jlim)及びアノード電流(janode)を測定し,抑制剤添加による変化を調べた.抑制剤添加によるjlimの変化は見られなかったが,janodeは減少したことから用いた抑制剤はアノード反応を抑制することが示された.また,電気化学インピーダンス測定では,溶液に試料を完全に浸漬させた場合と比較して,液膜下においてインピーダンスの挙動が異なることから,液量に応じて抑制剤の保護層の形態が変化することが示唆された.
氷点下におけるアルミニウム合金と炭素鋼の電気化学挙動に及ぼす温度の影響を酸素飽和の20 mass% NaCl溶液を用いて調査した.炭素鋼の浸漬電位は温度の低下に従って貴側に変化したが,アルミニウム合金のそれは温度により変化しなかった.本実験条件において明確な酸素拡散限界電流を測定した.酸素拡散限界電流は温度に関係なく,A6061<A1050<炭素鋼の順になった.炭素鋼の酸素拡散限界電流は温度の低下により僅かに小さくなったが,アルミニウム合金では殆ど変化しなかった.電気化学インピーダンス分光法(electrochemical impedance spectroscopy,EIS)測定結果から,低温になると炭素鋼のEIS挙動が変わることが示唆された.
化学プラントの安全・安定した運転のために,非金属材料の損傷を対象とした損傷機構を判定・評価するための人工知能の導入について検討を行った.既存の非金属材料の損傷事例を収集し,データクレンジングを行い,決定木分析を行った.さらに,過学習の有無についても検討した.その結果,ある程度の事例数がある機構については,損傷機構を判断するための条件の抽出や,起こり得る損傷の予測等が可能になると考えられる.
塗装を施したタングステン(W)添加鋼を腐食試験に供し,生成した鉄さびの解析を行い,さらに,検証実験としてFe3O4の人工合成実験,鉄さび膜の膜電位測定および電気化学測定を行い,塗膜膨れ抑制に対するWの効果および作用機構を検討した.その結果,WはFe3O4の微細化および鉄さび膜へのカチオン選択透過性付与による腐食因子の透過抑制,ならびにWの難溶性酸化物による地鉄の溶解反応抑制によって,地鉄の腐食を抑制し,塗膜膨れを抑制すると考えられる.
マルテンサイト系ステンレス鋼の脱不働態化pH(pHd)におよぼす塩化物イオン,酢酸イオンおよびMo添加の効果をアノード分極測定およびXPSによる皮膜解析を用いて検討した.塩化物イオンの増加は,皮膜の部分破壊を促進し,活性態から不働態への遷移を不鮮明にした.酢酸イオンの増加はpHdを上昇させ,不働態化に負の影響因子として作用した.Mo添加は,高濃度酢酸イオン環境において,pHdを低下させ不働態皮膜形成を促進したと考えられた.