微生物が関与する腐食速度の上昇機構を解明する目的で,海水に暴露したType 329J4Lステンレス鋼に対するカソード電流の測定ならびにバイオフィルムの生物学的解析を行った.自然海水中で試験片をあらかじめ0.1 V vs. SHEに保持した後に,0.1 V vs. SHEで測定したカソード電流密度は0.3~3μA/cm
2で推移した.一方,自然浸漬条件下で自然海水に暴露した後の0.1 V vs. SHEにおけるカソード電流密度は,測定の初期段階では1μA/cm
2以上であったが,12 h以内に0.1μA/cm
2以下の値にまで低下した.0.2 V vs. SHEでの自然海水への前処理暴露後に0.2 V vs. SHEで測定したカソード電流密度は,測定の初期段階および最終段階のいずれにおいても約2μA/cm
2であった.自然浸漬条件下で自然海水へ前処理暴露後,0.2 V vs. SHEで測定したカソード電流密度は,測定の初期段階においては1μA/cm
2以上,測定最終段階では0.1μA/cm
2以下であった.0.3 V vs. SHEで測定を行った場合のカソード電流密度の平均値は,0.3 V vs. SHEでの自然海水への前処理暴露後においては約0.2μA/cm
2,自然浸漬状態での自然海水への前処理暴露後においては0.01μA/cm
2以下であった.人工海水に暴露後のカソード電流密度は,0.1, 0.2および0.3 V vs. SHEのいずれの電位で測定した場合でも0.01μA/cm
2以下であった.自然海水中において0.2 V vs. SHEの電位条件下で形成されたバイオフィルムに対して,変性密度勾配ゲル電気泳動法試験で検出された DNA 塩基配列データは,自然浸漬条件下で形成されたバイオフィルムに検出されたデータと異なった.以上より,カソード条件下では特定の微生物が選択的に鋼表面に付着し,このような微生物がカソード電流を増大させた結果として腐食速度が上昇すると結論づけられる.
抄録全体を表示