本稿では,コンクリート分野における電気化学測定法について解説する.コンクリート内部の鉄筋の腐食は,自然電位法,電気化学インピーダンス法を用い,また,コンクリート内部の環境評価として,塩分濃度およびpHを測定する方法について,基礎原理と手法を説明する.さらに,具体的なコンクリート部材における鉄筋の腐食について上記の方法で測定し,得られる結果を説明する.最後に,実橋における電気化学測定の適用例を紹介する.
本研究では,試験溶液として採用した酸化剤含有沸騰45 mass% NaOH水溶液(424 K)中においてFeの浸漬試験を行い緻密な皮膜を形成させる浸漬時間の探索を行うこと,ならびに形成した皮膜に対する室温でのD2Oの浸透挙動を明らかにすることを目的とした.その結果,以下の知見が得られた.試験溶液中に0.4 ks以上浸漬したFe表面にはFe3O4が検出され,21.6 ksまでは浸漬時間の増加とともに皮膜厚さが放物線則に従って増加した.試験溶液中にFe を1.2 ksもしくは3.6 ks浸漬して形成したFe3O4皮膜にD2O浸透試験を行った結果,いずれの皮膜に対しても,浸透時間が1000 ksまでは,浸透時間の増加とともにD2O浸透量が増加し,それ以上の浸透時間ではD2O浸透量が定常値を示した.また3.6 ks浸漬して形成した皮膜に対する定常D2O浸透量の方が大きい値を示した.D2Oの浸透時間と浸透量の関係をFickの拡散方程式に基づいて解析した結果,1.2 ksおよび3.6 ks浸漬して形成したFe3O4皮膜に対するD2Oの拡散係数がそれぞれ5.1×10-15 cm2・s-1および9.9×10-15 cm2・s-1と算出されたため,本Fe3O4皮膜に対するD2Oの拡散係数は5.1×10-15~9.9×10-15 cm2・s-1の範囲に存在すると推定された.
高温高純度水中におけるステンレス鋼のすき間内で発生する局部腐食現象のメカニズムを解明するため,すき間内溶液の導電率をIn-situ測定する手法(センサー)を開発し,すき間内環境と局部腐食との関係を分析した.センサーは,高純度アルミナで絶縁した直径約250μmのステンレス鋼製電極をすき間形成材に埋め込み,電気化学インピーダンス法により,電極直下における局部的な溶液導電率,κcrevを取得するものである.SUS316Lステンレス鋼のテーパー付きすき間内に複数のセンサーを設置し,温度288℃,圧力8 MPa,純酸素飽和した高純度水中において,κcrevの時間変化を100 h計測した.すき間の間隔(g)が約59.3μmの位置ではκcrevは8~11μS・cm-1であり,288℃純水の導電率(3.7μS・cm-1)との差は比較的小さく,試験後に局部腐食は見られなかった.一方,g ≈ 4.4μmの位置におけるκcrevは,実験開始直後から上昇を続け,約70 hで最大値約1600μS・cm-1を示し,試験後にこの位置の近傍で粒界を起点とした局部腐食が発生した.得られたκcrevの値と,すき間内で生成した酸化物の安定性を考慮した熱力学平衡計算結果は,すき間内溶液のpHが3.53まで酸性化しうることを示した.以上のことから,バルク水が高純度であってもすき間内においては溶液の酸性化が進行し,その結果,局部腐食が発生したと結論された.