Zairyo-to-Kankyo
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70 巻, 12 号
選択された号の論文の22件中1~22を表示しています
展望
寄書
事故直後の収束を図った取り組み
解説
  • 深谷 祐一
    2021 年 70 巻 12 号 p. 381-391
    発行日: 2021/12/10
    公開日: 2022/02/04
    ジャーナル フリー

    2011年3月11日,日本の東北地方の太平洋岸でマグニチュード9.0の壊滅的な地震が発生した.これに伴う津波により福島第一原子力発電所の核燃料冷却機能が失われ,炉心溶融に至った.これが福島第一事故の概要である.燃料冷却のための非常措置として,原子炉及び使用済燃料プールに海水が注入された結果,機器の腐食に関する様々な課題が生じた.本稿では,まず事故直後に顕在化した腐食の課題と対策活動について説明する.ここでは,原子炉及び使用済燃料プールへの適用が検討された様々な腐食抑制手法とその選定過程,適用時期,適用した結果について詳述している.事故の収束後,福島第一原子力発電所の廃炉作業が4つの技術課題(使用済燃料プールからの燃料取り出し/燃料デブリ取り出し/汚染水対策/廃棄物対策)に基づいて進められている.本稿では,これらの技術課題の解決にあたって顕在化した腐食の課題,及び将来起こり得る潜在的な腐食の課題についても概説する.

  • 山本 正弘, 本岡 隆文, 佐藤 智徳
    2021 年 70 巻 12 号 p. 392-395
    発行日: 2021/12/10
    公開日: 2022/02/04
    ジャーナル フリー

    東京電力福島第一原子力発電所(1F)の事故後の腐食対策としてヒドラジン(N2H4)の添加が実施された.N2H4は高温では化学的に脱酸素を起こすが,常温ではその反応が遅くなることが知られていた.しかしながら,γ線照射がこの脱酸素反応を促進する可能性があった.そこで,N2H4を含む溶液でのγ線照射試験を実施し,γ線照射により,N2H4を添加した純水並びに人工海水の双方で溶存酸素濃度が減少することを明らにした.またその結果はγ線のラジオリシス計算からも確認した.これらのデータは,1Fの防食対策に対して科学的な根拠を与えることとなった.

  • 渡邉 豊
    2021 年 70 巻 12 号 p. 396-401
    発行日: 2021/12/10
    公開日: 2022/02/04
    ジャーナル フリー

    2011年3月11日に発生した福島第一原子力発電所事故への対応として,原子炉ならびに使用済燃料プールに大量の海水および淡水が注入された.本来は高度な水質管理下にある原子力発電設備に大量の海水および淡水が注入されるという世界でも初めて経験する状況に対して,大学,学会・公的研究機関,プラントメーカ,水処理メーカ等から委員を募って「福島第一原子力発電所腐食対策検討会」が設置され,比較的状況が明らかとなっていた使用済燃料プールを対象として腐食問題への対策方法を検討した.検討会では,使用済燃料プールの安全機能に直結する主要な機器・構造物を抽出し,機器ごとに,考慮すべき腐食モード,発生可能性,対策を検討した.本稿では,検討の考え方と検討結果の概要を述べる.

  • ―境界要素法による解析―
    宮坂 松甫, 早房 敬祐
    2021 年 70 巻 12 号 p. 402-408
    発行日: 2021/12/10
    公開日: 2022/02/04
    ジャーナル フリー

    使用済燃料プールへの海水の注入は,燃料集合体を支える燃料ラックとバウンダリーとしての機能を持つプールライナーの腐食のリスクを高める.アルミニウム合金製ラックとステンレス鋼製ライナーの導通により,ラックの異種金属接触腐食が懸念され,一方,ライナー側は防食される可能性がある.境界要素法解析によって,これらのマクロセル挙動を考察した.冷却水の導電率が高くかつ微生物の影響を考慮する場合,ラックに最大数mm/yの腐食増が予測されたが,導電率の低下によって腐食は大幅に低減した.ラックの健全性を維持するために,水質浄化による導電率低減および微生物対策が重要であることが定量的に明らかにされた.

現状の健全性評価/燃料デブリ取り出しに向けた取り組み
解説
  • 田中 徳彦, 石岡 真一, 紺谷 修
    2021 年 70 巻 12 号 p. 409-415
    発行日: 2021/12/10
    公開日: 2022/02/04
    ジャーナル フリー

    福島第一原子力発電所の事故後のRPVおよびPCVの構造健全性を評価するため,PCV内滞留水を模擬した希釈人工海水中において浸漬腐食試験を実施した.取得した腐食試験データに対する放物線則近似結果などをもとに,燃料デブリ取り出しまでの期間として事故後40年間の1~3号機のRPVおよびPCV主要機器の腐食減肉量や地震応答解析による荷重条件などを考慮した構造健全性評価を実施し,問題のないことを確認した.

  • 田中 重彰, 石岡 真一, 高守 謙郎
    2021 年 70 巻 12 号 p. 416-420
    発行日: 2021/12/10
    公開日: 2022/02/04
    ジャーナル フリー

    東日本大震災の時点で福島第一原子力発電所1~4号機の使用済燃料プール(SFP)に保管されていた燃料集合体は海水注入や建屋の損傷により生じたガレキの混入によって通常とは異なる環境履歴を経ている.そのため,SFPから取り出された使用済燃料を使用済燃料共用プールで長期保管するためには,それらの環境履歴が燃料集合体の健全性に及ぼす影響を評価することが不可欠である.燃料集合体について,構造健全性及び被覆管密封性の観点から健全性が維持されると評価された.

  • 金子 哲治, 藤井 和美, 高守 謙郎
    2021 年 70 巻 12 号 p. 421-426
    発行日: 2021/12/10
    公開日: 2022/02/04
    ジャーナル フリー

    福島第一原子力発電所の原子炉格納容器に対する腐食抑制技術の一つとして,防錆剤添加を検討した.各種防錆剤候補について,浸漬腐食試験,防錆剤途中添加試験および電気化学測定による耐局部腐食評価を実施した.各種評価試験の結果に基づき五ホウ酸ナトリウム,タングステン酸ナトリウムおよびリン酸塩系防錆剤二種を選定した.さらに,選定した防錆剤について,管理要領を定めた.

  • 小澤 正義, 明石 正恒
    2021 年 70 巻 12 号 p. 427-430
    発行日: 2021/12/10
    公開日: 2022/02/04
    ジャーナル フリー

    東京電力株式会社福島第一原子力発電所(1F)の炭素鋼の使用環境における腐食挙動に係る知見を拡充するため,東京電力株式会社が公表した水質データを用いて水質変化挙動の解析を行い,その解析結果に基づいた1FのSFP冷却系模擬環境下における炭素鋼鋼管の実規模腐食試験を行った.また,海水から淡水(希釈海水含む)における静止水及び鋼管内の流水条件に適用可能な均一腐食進展予測モデルを提案した.

    本稿ではこれらの海水及び淡水環境中の炭素鋼の腐食挙動評価に関するこれら一連の研究について概説する.

  • 藤原 和俊
    2021 年 70 巻 12 号 p. 431-435
    発行日: 2021/12/10
    公開日: 2022/02/04
    ジャーナル フリー

    福島第一原子力発電所の使用済燃料プールでは,非常冷却措置として一時的に海水等が注入されたため,様々な腐食に起因するリスクへの対応が課題であった.炭素鋼主体の冷却水配管で主に考慮しなければならないのは,塩分を含む流水中での腐食である.本報では,海水成分を含む流水中での炭素鋼の腐食挙動に関する関連の研究を解説した.希釈人工海水中では,試験時間とともに炭素鋼の腐食速度が大幅に低下し,流速による腐食挙動の違いは比較的小さい.現在の使用済燃料プール冷却系の水質においては,硝酸ナトリウムや五ホウ酸ナトリウムなどの無機腐食防止剤の添加は,炭素鋼の腐食抑制に効果があると考えられる.但し,腐食制御に必要な臨界濃度に対する流速の影響は,両者で異なり,亜硝酸イオンの臨界濃度は流速の影響を受けるが,五ホウ酸イオンの臨界濃度は流速の影響を受けにくいと言える.水の浄化は,さまざまな流動条件下で炭素鋼の腐食抑制に効果があると考えられる.

  • 阿部 博志, 有賀 智理, 渡邉 豊
    2021 年 70 巻 12 号 p. 436-440
    発行日: 2021/12/10
    公開日: 2022/02/04
    ジャーナル フリー

    福島第一原子力発電所(1F)の格納容器(PCV)内において,潜在的な課題となり得るガンマ線照射環境下における喫水部腐食を対象として,実験により腐食挙動の把握ならびに予測に資する腐食データを取得した.当該環境を模擬した腐食試験により,水膜効果と照射効果が重畳することで腐食が加速されることが明確に示された.腐食加速機構の観点からは,喫水部では雰囲気からの酸素供給が顕著であること,そのため水の放射線分解によって生成される過酸化水素の濃度が高くなること,の両方が寄与したと考えられた.

  • 加藤 千明, 山岸 功, 佐藤 智徳, 山本 正弘
    2021 年 70 巻 12 号 p. 441-447
    発行日: 2021/12/10
    公開日: 2022/02/04
    ジャーナル フリー

    ゼオライト粒子は福島第一原子力発電所(1F)の汚染水等の浄化のためのセシウム吸着塔内で用いられている.使用後のセシウム吸着塔は敷地内で保管されているが,ステンレス鋼製胴部の局部腐食が懸念された.この腐食リスクに対し,γ線による影響データを照射下電気化学試験装置で取得した.また,内溶液の変化状態を実規模サイズのモックアップ試験装置で検討した.それらの結果から,ゼオライト粒子の存在により放射線分解で発生する過酸化水素が分解され,γ線照射下によるステンレス鋼の腐食電位の貴化が抑制されると共に,ゼオライトに吸着した放射性Csの崩壊熱によって残水中の塩化物イオンの濃化も生じないことを明らかにした.これらの結果は局部腐食発生リスクが小さく抑えられることを示した.

  • 秋山 英二, 大森 惇志, 味戸 沙耶, 北條 智彦, 小山 元道
    2021 年 70 巻 12 号 p. 448-456
    発行日: 2021/12/10
    公開日: 2022/02/04
    ジャーナル フリー

    ラジオリシスにより生成する酸化剤を模擬してオゾンを導入した環境で腐食センサを用いて腐食モニタリングし,湿潤な気相中の炭素鋼の腐食に及ぼすガンマ線照射の影響を検討した結果を解説する.腐食速度は相対湿度とオゾン濃度とともに増加した.これは,オゾンの還元反応と水への溶解反応が酸素より容易で,カソード反応を促進したことによる.オゾンを導入は照射を模擬した非照射環境での腐食加速試験として有効と考えられる.

  • 佐藤 智徳, 小松 篤史, 中野 純一, 山本 正弘
    2021 年 70 巻 12 号 p. 457-461
    発行日: 2021/12/10
    公開日: 2022/02/04
    ジャーナル フリー

    福島第一原子力発電所(1F)の原子炉格納容器(PCV)は,事故後,放射線環境下で海水成分を含む腐食環境にさらされた.放射線環境下では,水の放射線分解により過酸化水素が生成する.そこで,PCV主材料である炭素鋼の照射下腐食試験が実施され,N2パージは照射下でも腐食を抑制することが確認された.また,照射下での炭素鋼の腐食は,非照射と同様に酸素と過酸化水素の拡散限界電流の和で決定されることが確認された.

  • 井上 博之
    2021 年 70 巻 12 号 p. 462-467
    発行日: 2021/12/10
    公開日: 2022/02/04
    ジャーナル フリー

    ガンマ線照射下の塩化物水溶液中での鉄鋼の全面腐食への各種環境因子の影響について筆者のグループの実験結果を中心に解説する.放射線照射下では水の放射線分解によって生成した酸素および過酸化水素によって鉄鋼の腐食が促進される.塩化物の濃度に応じて照射下での腐食速度は増加する.大気雰囲気での腐食速度はArガス雰囲気と比較し大きい.N2ガス雰囲気での腐食速度は,大気およびArガス雰囲気の中間の水準となる.Arガス雰囲気下ではpHが8近傍で腐食速度は極小,10近傍で極大となる.放射線照射下では,溶液中のBrイオンは微量であっても腐食を大きく促進する.純鉄ならびにSQV2A低合金鋼,SGV480炭素鋼の照射下での腐食速度は同等である.

  • 端 邦樹
    2021 年 70 巻 12 号 p. 468-473
    発行日: 2021/12/10
    公開日: 2022/02/04
    ジャーナル フリー

    東京電力福島第一原子力発電所の汚染水中の腐食環境の評価においては,建屋内が放射線環境下にあるため,水の放射線分解(ラジオリシス)により生成するH2O2等の酸化剤の影響を考慮する必要がある.ラジオリシス過程及びそれにより発生する酸化剤の生成量は水質や放射線の線質などに依って変化する.そのため,この10年間,水の放射線分解に寄与しうる様々な要因(海水成分,酸化物の表面の作用,α核種等)を対象に研究が進められてきた.本稿では,汚染水中の腐食環境のより深い理解に繋げるため,これらの要因のラジオリシスへの影響について解説する.

技術資料
総合論文
  • 大谷 恭平, 加藤 千明
    2021 年 70 巻 12 号 p. 480-486
    発行日: 2021/12/10
    公開日: 2022/02/04
    ジャーナル フリー

    気液交番環境における炭素鋼の腐食について検討してきた結果の総合論文である.

    気液交番環境で液膜に覆われる炭素鋼の表面に形成した鉄さび層の断面観察および分析より,気液交番環境で炭素鋼には外側から赤さび層(γ-FeOOH),クラスト層(Fe3O4),内部結晶(Fe3O4),内部鉄さび層から成る多層の鉄さび層が形成することを見出した.この多層構造の鉄さび層および液膜に起因して酸素還元反応は常時水中に浸漬された場合よりも加速された状態を維持していたため,炭素鋼の腐食速度は増大したと考えられる.

    気液交番環境における炭素鋼の腐食速度に及ぼす海水成分の影響の調査より,純水から200倍希釈人工海水までの薄い濃度領域では人工海水濃度の増大に伴って腐食速度は加速し,20倍希釈から無希釈人工海水までの濃い濃度領域では濃度の増大に伴って腐食速度は減少することを見出した.人工海水に含まれるMgやCaイオンが反応界面に析出して表面を覆うことで酸素還元反応が抑制されたため,濃度の高い人工海水中で炭素鋼の腐食が抑制されたと考えられる.

廃止措置までの腐食課題
解説
  • 鈴木 俊一
    2021 年 70 巻 12 号 p. 487-490
    発行日: 2021/12/10
    公開日: 2022/02/04
    ジャーナル 認証あり

    福島第一原子力発電所の廃炉を完遂するためには,30年以上の長期にわたる構造物の維持管理が重要であり,特に腐食による劣化評価並びにその対策が重要である.

    本論文では,廃炉工程全体を俯瞰した上で,原子炉圧力容器,原子炉格納容器,汚染水2次廃棄物及び燃料デブリの保管・収納容器,並びに,放射性廃棄物の処理・処分プロセスにおける腐食事象の課題を紹介するとともに,これらの事象に対する対応概念について種々の専門家の意見も踏まえて議論する.

  • 若井 暁, 平野 伸一, 上野 文義, 岡本 章玄
    2021 年 70 巻 12 号 p. 491-496
    発行日: 2021/12/10
    公開日: 2022/02/04
    ジャーナル 認証あり

    福島第一原子力発電所は,2011年3月11日に発生した地震に関連する東日本大震災の影響により廃炉が進められている.事故以前から腐食に関する対策は十分に取られ,事故後も速やかに対策が立てられ,適切に管理することで大きな腐食事故事例は発生していない.一方で,事故当時に行われた海水注入や連続的に建屋内に入り込んでいる地下水との接触によって微生物の影響が継続的に発生している.この様な観点と最新の微生物腐食研究の知見から,福島第一原子力発電所で起こりうる微生物腐食リスクについて整理する.

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