研究の目的は,ショットピーニングされたType-316ステンレス鋼の190℃の熱時効による圧縮残留応力の緩和や材料特性の変化を調べることである.Type-316鋼は使用済み核燃料の乾式貯蔵容器(キャニスター)用材料として使われる予定である.応力緩和比:m(時効後の応力を時効前すなわちピーニングした状態の応力で除した値)は,35,000時間時効後も0.8よりも大きいことが判った.また,表面硬化のような材料特性の変化は,190℃の時効では小さく,粒界割れは35,000時間時効後も起こらないことがわかった.一方,前報で報告したように,340℃の時効では激しい粒界割れが起こっていた.
海洋環境における鋼構造物において,海水や海塩粒子による鋼材の腐食の問題は非常に重要な問題で,この腐食によって構造物そのものの寿命が決まると言っても過言ではない.そこで,海水に対して優れた耐食性を有するチタンを本体の鋼材に被覆することで,この構造物全体の耐久性を大幅に向上させた海洋構造物が建設されている.一方,チタンの海水に対する耐食性は実験室レベルでは確認されているが,実海域で長期にわたる暴露による確認試験は殆ど報告されていない.そこで,(国研)土木研究所が,1984年に開始した「高耐食性金属被覆防食法等の海洋暴露確認試験」に,構造体として特殊部位となる隙間部及び溶接部を有するチタン被覆鋼管試験体を製作し,耐久性確認試験を行った.
この約30年の暴露試験の結果,チタンそれ自体だけでなく,隙間部や溶接部といった特殊部位においてもその健全性が確認された.