EQCM法は,水晶振動子の共振周波数変化から溶液中で電極反応に伴う質量変化を測定する手法である.ナノグラムオーダーの質量変化をその場測定できるため,電極反応機構解析に非常に有用である.本稿では,EQCM法の原理と腐食研究への適用例,測定の注意点について解説する.
吸収式冷凍機内において,モリブデン酸塩が鋼の重要な腐食抑制剤として使用されているが,濃厚LiBr水溶液中での溶解度が小さく沈殿しやすいという問題がある.本研究では,モリブデン酸塩の沈殿抑制剤として亜硫酸塩の使用を提案するとともに,それが鉄の初期不働態化挙動に与える影響について調査する.また亜硫酸塩の作用が,より強い不働態化剤である硝酸塩によってどのように影響されるかについても調査する.亜硫酸塩の添加は硝酸塩併用の有無によらず鉄の腐食量を減少させ,鉄表面に形成する酸化物層(MoO2,Fe3O4)の形成を促進する結果となった.結論として,亜硫酸塩は吸収式冷凍機においてモリブデン酸塩濃度と鉄の腐食を制御するための有効な添加剤といえる.
リン脱酸銅管の応力腐食割れに及ぼす湿度および酸素濃度の影響を調べるために,C‒リング試験を高湿度,低湿度,低酸素の3条件で実施した.高湿度条件の相対湿度,酸素濃度はそれぞれ100%,20%とした.低湿度条件での容器内空気の湿度は,乾燥剤を用いることで相対湿度90~95%を維持した.低酸素条件では,容器内空気を窒素ガスで置換し,暴露試験中は酸素濃度を5%未満に保った.応力腐食割れは高湿度および低酸素条件の両方で発生するが,発生までの時間は低酸素条件のほうが高湿度条件よりも長かった.低湿度条件では,1週間後の試料にも応力腐食割れや粒界腐食は生じなかった.湿度を下げることによって,リン脱酸銅管のSCC発生を抑える効果があることが明らかになった.
本研究では腐食環境中の応力-腐食-拡散性水素量の関係を明確化するために,市販の高張力鋼を用いて,pH2水溶液浸漬腐食中でCLTを実施したときの腐食速度および拡散性水素量について電気化学インピーダンス法および水素昇温脱離分析によって評価した.その結果,応力増加に伴い新生面が生成するために腐食速度が増加することが明らかになった.一方,応力増加に伴い拡散性水素量が増加した.特に塑性変形により転位・欠陥にトラップされる水素量に著しい増加が見られた.また,応力は腐食速度よりも拡散性水素量に強い影響を与えることが示唆された.
有機溶媒中におけるAlの腐食事例を紹介する.N-Phenyl-1-Naphtylamineを約2%含むPolypropylene Glycol Monobutyl Ether(PGME)中で,Alが短時間に激しい腐食を起こした.調査の結果,Alの腐食媒は主成分であるPGMEそのものであることが判明した.Alは,PGMEが持つOH基のHと置き替わり,有機Al化合物を形成してPGME中に溶け込み,PGMEから離れたHは水素ガスに変化した.腐食状況,原因調査の経緯と結果,および腐食再現実験の結果を紹介する.