本研究ではコストパフォーマンスに優れるアルミニウム材料防食用自己修復性塗膜開発を目指し,表面に形成したポーラス皮膜細孔を塗膜修復剤のコンテナとして利用した新しい機構による防食塗膜への自己修復性付与を行なった.この結果,作成した塗膜は欠陥形成時にも細孔より修復剤が流出することにより欠陥底部に修復構造が自動的に形成され,露出した下地金属をカバーすることで,高い耐食性が維持されることが明らかとなった.
使用済核燃料再処理溶液施設でのステンレス鋼の腐食評価として,放射性核種である237Npを含む硝酸水溶液中におけるステンレス鋼R-SUS304ULC鋼の浸漬腐食試験と分極測定を行った.328 K以上の温度では硝酸水溶液中よりも高い腐食電位を示し,過不動態域近傍となることがわかった.また,浸漬腐食試験により腐食量と分極抵抗との比較から換算係数としてk=0.018 V~0.025 Vの値を取得し,電気化学測定からの腐食量算出が可能であるかを検討した.
超薄(厚さnm台),二次元重合体の保護皮膜を不動態化したFe表面に作製した.15-ヒドロキシヘキサデカン酸イオンHO(CH2)15CO2-の自己組織化単分子層を,pH 8.49のホウ酸塩緩衝溶液中でアノード分極により作製した不動態皮膜上に,硬い酸-硬い塩基の安定な相互作用によって化学吸着させた.この単分子皮膜を1,2-ビス(トリエトキシシリル)エタン(C2H5O)3Si(CH2)2Si(OC2H5)3と反応させ,水で加水分解した.さらに,この皮膜をオクタデシルトリエトキシシランC18H37Si(OC2H5)3と反応させ,二次元重合膜とした.0.1 MのCl-を含むホウ酸塩緩衝溶液中における不動態皮膜の破壊がこの二次元重合膜で覆うことで完全に防止された.
防錆剤を含有する市販の凍結防止剤水溶液中における,鋼の防錆機構を明らかにするため,ピロリン酸Na,グルコン酸Na,クエン酸Naをそれぞれ添加した岩塩水溶液中において168時間の浸漬試験を行った.浸漬試験前後の試料重量変化では,それらの溶液中における鋼の重量減少は,岩塩のみの水溶液の場合と比較して,いずれも小さかった.ピロリン酸Naを含む溶液に浸漬した鋼試料において,試料表面のSEM観察より,腐食が抑制された部分には膜が生じており,そのEDS分析から,その膜はO,Fe,Pと少量のMg,Caを含んでいた.またFT-IR測定では,PO43-構造に対応する吸収ピークがあった.この表面に形成される膜は,既に報告のある防錆剤を含むNaCl水溶液中で生じる吸着物質による膜とは異なり,不溶性リン酸化合物の沈殿による膜と推定された.