医療用金属材料の耐食性評価のために分極試験やインピーダンス試験などの電気化学測定が行われている.また,生体内の様々な生化学的および機械的腐食因子の影響や金属表面と細胞の相互作用の解明のためにも電気化学法が用いられている.得られた結果は,既存の医療用金属材料だけではなく新しい材料の耐食性および生体機能向上に用いられる.本稿では,典型的な生体内腐食因子の影響の検討のために行われた電気化学測定を紹介する.
高レベル放射性廃棄物の地層処分における炭素鋼オーバーパックを対象とした深部地下環境における腐食挙動のモニタリング手法の現状と測定事例を概説する.電気化学インピーダンス法を用いた室内試験による腐食モニタリングに関する研究事例に基づき,電極配置などの代表的な測定方法を紹介する.また,地下研究施設における工学的スケールでの原位置試験において腐食モニタリングが試みられており,その方法と現状の測定結果について述べる.
共焦点レーザー顕微鏡を備えたマイクロ電気化学計測システムを適用することで,炭素鋼のパーライト中の孔食発生挙動を高い精度でその場観察することができた.その結果,パーライトを構成するフェライト中で孔食が発生し,ラメラー構造に沿って進行することが明らかとなった.セメンタイトは,孔食初期において溶解せずに残存した.
溶射材料のAlにSiを添加することにより,Al溶射(TAS)の皮膜欠陥での素地鋼の腐食を抑制できる可能性があると考えた.Al-5SiあるいはAl-12Si 合金を溶射し,鋼素地に至る円盤状の人工欠陥を加工した鋼板試験片を作製した.比較のため,純度の異なる2種類のAlならびにAl-5Mg合金溶射皮膜の試験片を作製した.沖縄での屋外暴露試験後,欠陥部に生成したさび層と素地鋼界面の電荷移動抵抗をEISで検討した.Al-5SiやAl-12Siが溶射された試験片の同界面の電荷移動抵抗は,AlやAl-5Mgと比較し高かった.大気腐食によって皮膜から溶出するSiやAlの作用により,保護性に優れたさび層が形成されたと推測される.Al-5SiおよびAl-12Siの溶射皮膜は,鋼素地への密着強度の点でもAlやAl-5Mgと比較し優れていた.
車載電子機器を対象に促進性の高い腐食試験方法について研究した.銀配線を形成した回路基板を,シリコーンで封止した筐体内部に格納しSO2,H2S,S8のそれぞれのガスを単独で用いた試験を行った.SO2試験は3300 ppm/90℃/80%RH,H2S試験は60 ppm/90℃/80%RHとし,S8試験は4 ppm/90℃/<10%RHとした.銀配線の腐食速度を測定した結果,これらの試験の中でS8試験が最も促進性の高い腐食試験であることが分った.高い促進性はS8の銀に対する高い腐食能力に加え,S8のシリコーンに対する高い透過性によることが分かった.この結果を基に硫黄腐食の促進試験として,S8ガス試験を提案する.
住宅内環境における塗装鋼板の長期暴露試験結果の報告は極めて少ないことから,鉄鋼系プレハブ住宅で広く使用されているPb フリーカチオン電着塗装鋼板の住宅内環境中における長期暴露試験を実施し,膨れ幅,赤錆幅,赤錆面積率,最大腐食深さの測定を行った.これらの評価・解析結果から,塗膜上と塗膜下の腐食には良好な相関のあることが明らかになり,塗膜上の腐食外観観察から塗膜下の腐食の拡がりや深さを推定しうる可能性が見出された.一方,住宅内環境における環境因子のうち,年平均相対湿度と塩付着量が塗膜下の腐食挙動に対して影響が大きいことが分かった.