日本臨床麻酔学会誌
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40 巻, 7 号
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原著論文
  • 松田 千栄, 大瀧 千代, 久利 通興, 山本 俊介, 藤野 裕士
    2020 年 40 巻 7 号 p. 559-564
    発行日: 2020/11/15
    公開日: 2020/12/24
    ジャーナル フリー

    単一施設における帝王切開後1週間以内の頭痛の頻度と原因を後ろ向きに調査した.帝王切開後の頭痛の発生率は18.0%であった.頭痛の内訳は一次性頭痛が42.4%,硬膜穿刺後頭痛が41.5%,妊娠高血圧症候群による頭痛が15.3%であった.帝王切開後の頭痛は,硬膜穿刺後頭痛だけではなく,一次性頭痛や妊娠高血圧症候群など他の原因においても生じることを認識し,痛みの性状,随伴症状,血圧上昇を十分に観察し,適切な鑑別診断を行うことが重要である.

  • 佐藤 眞理子, 内藤 祐介, 位田 みつる, 惠川 淳二, 川口 昌彦
    2020 年 40 巻 7 号 p. 565-571
    発行日: 2020/11/15
    公開日: 2020/12/24
    ジャーナル フリー

    周麻酔期看護師(perianesthesia nurse:PAN)は全国的に広がりを見せつつあるが統一された業務内容が存在せず,各施設で独自に運用しているのが現状である.そのためPANの業務を周知し,他職種からフィードバックを受けることが重要である.今回,多職種を対象にPANの活動に対する賛否,実施する行為の不安度,今後期待する業務などについてアンケートを実施した.対象は357人,回収率は69%であった.PANの活動に87%が賛成であった.しかし外科医の78%はPANの業務内容を理解していないことが判明した.今後の活動を行うにあたり,アンケート内容を日々の業務に反映していく必要がある.

症例報告
  • 山田 ことの, 孫 慶淑, 岡崎 純子, 磯野 史朗
    2020 年 40 巻 7 号 p. 572-576
    発行日: 2020/11/15
    公開日: 2020/12/24
    ジャーナル フリー

    症例は75歳女性.14年前に末梢型慢性血栓塞栓性肺高血圧症と診断され,薬物治療抵抗性の肺高血圧が持続していた.S状結腸癌を指摘され,腹腔鏡下S状結腸切除術が予定された.術前の右心カテーテル検査で重症肺高血圧を認めたため,バルーン肺動脈形成術を施行し,肺高血圧の改善を得た後に手術を行った.術中は動脈血二酸化炭素分圧-呼気終末二酸化炭素分圧較差を循環動態の指標として麻酔管理を行い,特に合併症なく終了した.慢性血栓塞栓性肺高血圧症患者の非心臓手術は慎重な周術期管理を要する疾患ではあるが,適切な術前評価と治療介入を行うことにより,安全に手術中の全身管理を施行することが可能であった.

  • 中新 恭平, 中本 あい, 清水 雅子, 堀田 有沙, 吉川 範子, 大平 直子
    2020 年 40 巻 7 号 p. 577-582
    発行日: 2020/11/15
    公開日: 2020/12/24
    ジャーナル フリー

    症例は69歳,女性.左主気管支と左上葉の2つの腫瘍に対し同時切除が予定された.外科チームの要請により,左側臥位で右胸腔からの左気管支形成術が行われた.左肺(非開胸側)での換気が不可能であった間,高頻度ジェット換気(high-frequency jet ventilation:HFJV)を用いて右(開胸側)片肺換気を約2時間行った.左側臥位での右片肺換気は酸素化と術野の点で不利であるにもかかわらず,良好な視野と最大421mmHgのPaO2が得られた.この症例では,両肺を有する患者においても,HFJVを用いることで上側肺での片肺換気が可能かもしれないことが示された.

  • 佐藤 曾士, 加古 英介, 中根 昇吾, 大國 希, 永井 梓, 祖父江 和哉
    2020 年 40 巻 7 号 p. 583-587
    発行日: 2020/11/15
    公開日: 2020/12/24
    ジャーナル フリー

    高度の開口障害と頬部穿孔のため意識下挿管が適応と考えられたが,精神遅滞のため困難であると判断した患者に対して,少量のフェンタニルおよびデクスメデトミジンによる鎮静下で気管切開を行った1例を経験した.患者は36歳,男性.左側頬部皮膚の有棘細胞癌に対して,気管切開術,頬部悪性腫瘍切除術,左側全頚部リンパ節郭清術,遊離外側大腿皮弁移植術が予定された.呼吸抑制が軽微なデクスメデトミジンで鎮静し,少量のフェンタニルと局所麻酔下に気管切開を行った.本症例では呼吸・循環動態の変動なく管理し得たが,患者の精神遅滞の程度によっては術前評価が十分に行えないこともあり,症例に応じた適切な気道管理法を選択すべきである.

紹介
  • 市川 順子, 甲田 正紀, 西山 圭子, 小高 光晴, 有山 淳, 小森 万希子
    2020 年 40 巻 7 号 p. 588-591
    発行日: 2020/11/15
    公開日: 2020/12/24
    ジャーナル フリー

    2018年に当院で施行したオートプシー・イメージング(Ai)は220件で,主に心肺停止後の死因究明のために用いていた.Aiにより死因が究明できたのは放射線科医が読影した64件のうち11件,放射線科医に読影を依頼しなかった156件のうち40件であった.Aiによって死因が特定できた疾患では出血性病変,大きな梗塞性病変が多かった.術後に施行されたAiは調査期間以降に2例あったが,いずれも死因究明に至らなかった.Aiでの死因特定率が低いのは,死因で多い急性心不全などの原因となる冠動脈血栓や心筋虚血などの小さな梗塞性病変の評価が難しいからだ.死因が究明できなかった169件が検視となった.

〔日本区域麻酔学会〕 症例報告
  • 大石 理江子, 小原 伸樹, 三部 徳恵, 小幡 英章, 黒澤 伸, 村川 雅洋
    2020 年 40 巻 7 号 p. 592-596
    発行日: 2020/11/15
    公開日: 2020/12/24
    ジャーナル フリー

    星状神経節ブロックは頭頚部,肩から腕にかけての痛みに対する治療法として有用性が認められているが,血腫等の合併症を生じることがあり,特に抗血栓薬を内服している患者においては施行の可否を慎重に検討しなければならない.胸鎖乳突筋深部のfasciaリリースは星状神経節ブロックに近い効果を得られると言われており,星状神経節ブロックよりも合併症を起こす可能性は低いと思われる.本症例では上肢の閉塞性動脈硬化症による痛みに対して胸鎖乳突筋深部のfasciaリリースを行い,痛みの程度が改善した.Fasciaリリースは,上肢に痛みを訴える患者の治療の選択肢の一つに加えられても良いかもしれない.

日本臨床麻酔学会第39回大会 教育講演
  • 竹中 元康
    2020 年 40 巻 7 号 p. 597-603
    発行日: 2020/11/15
    公開日: 2020/12/24
    ジャーナル フリー

    がんサバイバーの増加に伴いがんの重要な治療手段である手術を受ける患者も増加している.これら患者は,時にがん自体による身体機能・栄養状態の変化や術前化学療法・放射線治療などによる呼吸・循環器系,肝・腎系などの機能障害,血液生化学検査値の異常,さらには頭頸部照射による挿管困難などの合併など特殊な状態を有しており,その評価・管理には十分な注意が必要である.さらに,がん患者は,周術期にオピオイドを中心とした鎮痛薬を使用する場合も多いため,麻酔科医は手術時に選択する麻酔薬・方法やオピオイド(免疫系への影響など)のがんへの影響についても知識を有しておく必要がある.

日本臨床麻酔学会第39回大会 シンポジウム ─遷延性術後痛─
  • 須藤 貴史
    2020 年 40 巻 7 号 p. 604-608
    発行日: 2020/11/15
    公開日: 2020/12/24
    ジャーナル フリー

    情動,心理は遷延性術後痛と関連することはよく知られている.特に術前からの抑うつや不安は発症リスクファクターと認められている.動物実験では心理的ストレスが抑うつ症状をもたらすとともに,脊髄のマイクログリアなどの神経炎症や中枢性感作に関与する細胞群を活性化し,その後の術後痛の増強や,回復遅延に関与すると報告されている.周術期の認知行動療法は遷延性術後痛の予防策として一定の効果を示す可能性がある.抗うつ薬は遷延性術後痛の疼痛治療薬として一定の効果は認められるものの,予防効果については定まった結論は出ていない.介入の心理面への効果検討を含めた,多角的な遷延性術後痛のメカニズムの解明が必要とされている.

  • 濱口 眞輔
    2020 年 40 巻 7 号 p. 609-613
    発行日: 2020/11/15
    公開日: 2020/12/24
    ジャーナル フリー

    遷延性術後痛は患者の生活の質を損なう深刻な手術合併症であり,その治療では,疼痛治療医の参画した集学的治療が重要とされている.遷延性術後痛が侵害受容性疼痛の場合はアセトアミノフェン,非ステロイド性抗炎症薬,オピオイド鎮痛薬などを選択して処方する.神経障害性疼痛の場合は,ガバペンチノイド(Caチャネルα2δリガンド),抗うつ薬,オピオイド鎮痛薬を選択して処方する.また,神経支配に一致した部位に手術侵襲による痛みが見られ,薬物療法が奏功しない場合は局所麻酔薬単独またはステロイドを併用した神経ブロック,ボツリヌストキシン療法,高周波熱凝固やパルス高周波治療などによる低侵襲的な治療を試みる.

日本臨床麻酔学会第39回大会 シンポジウム ─周術期の血管拡張薬 up to date─
  • 木下 浩之, 山浦 健
    2020 年 40 巻 7 号 p. 614
    発行日: 2020/11/15
    公開日: 2020/12/24
    ジャーナル フリー
  • 川人 伸次, 曽我 朋宏, 八木 秀介
    2020 年 40 巻 7 号 p. 615-621
    発行日: 2020/11/15
    公開日: 2020/12/24
    ジャーナル フリー

    1967年にFleckensteinが冠血管拡張薬としての有効性に基づきベラパミルをカルシウム拮抗薬と初めて命名して50年以上が経過した.麻酔科領域においてカルシウム拮抗薬は,周術期の上室性不整脈の抑制,冠動脈や脳血管攣縮の軽減,高血圧のコントロールに用いられる.また,心筋保護や子宮弛緩を得るためや,低血圧麻酔にも用いられる可能性を有している.揮発性麻酔薬と静脈麻酔薬は,ともに心臓および神経細胞組織のL型電流を抑制し,カルシウム拮抗薬と相互作用を示すため注意を要する.各種配合薬の増加と脳循環・認知機能に及ぼす影響が最近の話題である.

  • 東 俊晴
    2020 年 40 巻 7 号 p. 622-629
    発行日: 2020/11/15
    公開日: 2020/12/24
    ジャーナル フリー

    交感神経ベータ受容体遮断薬(β遮断薬)は心不全や頻脈,狭心症,心筋梗塞後の患者には積極的適応のある主要降圧薬である.すなわちβ遮断薬は心保護を目的とした降圧薬であり,その心拍数抑制効果が生命予後を改善するという仮説検証がいくつか計画されてきた薬でもある.非心臓手術患者に対するβ遮断薬の周術期使用は一時期強く推奨されたが,その後周術期β遮断薬は慎重を期して使用するように学術的根拠に基づく推奨が後退している.その変化が如何にして起こったかを正しく知ることが周術期にβ遮断薬を使いこなす上で重要だと考える.本稿ではβ遮断薬の作用機序ならびに同薬の周術期介入効果に関する学術的根拠を概説する.

  • 岸 拓弥
    2020 年 40 巻 7 号 p. 630-633
    発行日: 2020/11/15
    公開日: 2020/12/24
    ジャーナル フリー

    周術期における硝酸薬はイメージとして心血管イベント発症抑制に有用であると誰もが思っていることであろう.しかしながら,これまでの臨床研究ならびにメタ解析では,心血管イベント発症抑制ならびに心筋虚血保護にニトログリセリンが有効であることは示せていない.したがって,ガイドラインでも明白な推奨はされておらず,むしろ耐性や血圧低下・過剰な前負荷軽減に対する懸念がある.ニコランジルは機序的には周術期において有効であると期待できるが,エビデンスは十分ではない.したがって,硝酸薬もニコランジルも,周術期において「なんとなく」「念のため」の使用は避けるべきである.

  • 辛島 裕士
    2020 年 40 巻 7 号 p. 634-641
    発行日: 2020/11/15
    公開日: 2020/12/24
    ジャーナル フリー

    ARB/ACE阻害薬は,降圧作用と臓器保護作用を併せ持ち,特にさまざまな臓器障害を伴う高血圧治療において積極的使用が勧められている.周術期においては,ARB/ACE阻害薬を術当日も服薬させると,麻酔下では昇圧薬不応性の低血圧をきたすことがあり,術前には中止すべきであるとの考え方がある.しかし一方で,臓器保護の観点から継続した方が良いとの考え方もあり,結論は出ていない.最近,ARB/ACE阻害薬の術前中止の可否を検討した研究内容が相次いで発表された.最新のガイドラインの情報も踏まえて概説する.

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