日本臨床麻酔学会誌
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36 巻, 3 号
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原著論文
  • 大岩 彩乃, 寺田 享志, 落合 亮一
    2016 年 36 巻 3 号 p. 271-279
    発行日: 2016/05/14
    公開日: 2016/07/07
    ジャーナル フリー
    本研究は婦人科腹腔鏡手術において心拍変動(HRV)および圧受容体反射感受性(BRS)を同時測定し,気腹手術における自律神経機能変化を明らかにした.HRVは心電図のR-R間隔変動から低周波成分と高周波成分の積分値の比であるLF/HF比を交感神経活動の指標として測定し,BRSは血圧上昇/低下に対する圧受容体応答で生じる徐脈/頻脈反射の指標としてBRS-up/downを測定した.麻酔導入前,気腹前,気腹3分後および頭低位2分後の時点でLF/HF比は1.1,0.5,1.2および0.6と変化し,気腹時に著明な交感神経優位状態が確認された.BRS-upは各時点で12.2,8.2,9.0および34.7ms/mmHgと変化し頭低位時に圧受容体応答の亢進を確認した.気腹時の交感神経活動の亢進と頭低位に伴う圧受容体応答亢進は急激な頻脈・徐脈を生じると推察され,循環管理上再認識する必要がある.
症例報告
  • 小西 康貴, 長谷 洋和, 出口 亮, 髙田 真二, 宇野 幸彦, 澤村 成史
    2016 年 36 巻 3 号 p. 280-285
    発行日: 2016/05/14
    公開日: 2016/07/07
    ジャーナル フリー
    52歳肥満患者の直腸癌に対し頭低位砕石位にて腹腔鏡下低位前方切除術が施行された.術直後から左下腿背側の疼痛および腫脹が出現し,翌朝には血清CPKが14,028 IU/Lと上昇した.急性下腿コンパートメント症候群を疑い,筋内圧を測定すると43mmHgと高値ではあったが,症状と組織灌流圧から判断し筋膜切開は施行せず保存的に管理した.術後10日目に症状改善し,歩行リハビリテーションを開始すると疼痛および腫脹に加え,一過性の知覚障害が出現したが,術後45日目には改善し,退院となった.下腿コンパートメント症候群の保存的管理では,急性期だけでなく回復期まで,筋膜切開を考慮した注意深い経過観察が重要である.
  • 小野 雄介, 水田 幸恵, 河﨑 翔, 白水 和宏, 辛島 裕士, 外 須美夫
    2016 年 36 巻 3 号 p. 286-290
    発行日: 2016/05/14
    公開日: 2016/07/07
    ジャーナル フリー
    6カ月の男児.先天性高インスリン血症(focal type)に対し膵頭部切除術を行った.出生時血糖は24mg/dLで,出生直後から糖液投与が開始されたが,その後も低血糖出現など血糖管理に難渋し,糖投与の増量やインスリン分泌抑制薬の投与といった,厳密な血糖管理を必要とした.術中の糖投与速度・インスリン投与量は血糖測定により適宜調整し,低血糖・異常高血糖の出現はなく無事に手術を終えた.先天性高インスリン血症患児に対する手術では術中に血中インスリン濃度が大きく変化するため頻回の血糖測定と糖投与速度調節を必要とする.
  • 栗原 正人, 深田 祐作
    2016 年 36 巻 3 号 p. 291-296
    発行日: 2016/05/14
    公開日: 2016/07/07
    ジャーナル フリー
    76歳の男性.脳梗塞に対し左浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術が予定された.遠位弓部に径56mmの胸部大動脈瘤を指摘されたが,胸部手術により脳梗塞の増悪が予想されるため,頭部手術が優先された.麻酔管理中の血圧変動を抑える目的で,scalp block(頭皮ブロック)を併用した全身麻酔で管理した.超音波ガイド下に左大後頭神経・左小後頭神経・左大耳介神経ブロックを行った.さらに,全身麻酔導入後に左右眼窩上神経および滑車上神経・左頬骨側頭神経・左耳介側頭神経ブロックをランドマーク法で行った.Scalp blockの併用により,手術侵襲による血圧上昇の抑制と同時に,高用量の麻酔薬による血圧低下も回避することが可能であった.
  • 岡村 圭子, 市川 順子, 小高 光晴, 金子 吾朗, 大野 まり子, 小森 万希子
    2016 年 36 巻 3 号 p. 297-304
    発行日: 2016/05/14
    公開日: 2016/07/07
    ジャーナル フリー
    症例は78歳の女性,弓部大動脈全置換術,大動脈弁置換術,冠動脈バイパス術が予定された.術中の出血量4,500mLに対して,赤血球濃厚液46単位,新鮮凍結血漿(FFP)40単位,血小板濃厚液60単位を投与した.術後1日目に抜管したが,refilling時期に胸水が貯留し,非侵襲的陽圧換気,ネーザルハイフローの使用,利尿剤,カルペリチドの投与が必要であった.大量出血時のフィブリノゲン補正にFFPを投与したが,フィブリノゲン濃度が高くないゆえに大容量が必要となり,過剰輸液になった可能性がある.術後肺障害防止や迅速な止血のために,クリオプレシピテート,濃縮フィブリノゲン製剤の使用が望ましい.
短報
日本臨床麻酔学会第35回大会 招待講演
  • 箕岡 真子
    2016 年 36 巻 3 号 p. 308-312
    発行日: 2016/05/14
    公開日: 2016/07/07
    ジャーナル フリー
    多くの病院で日常的にDNAR指示(=Do Not Attempt Resuscitation)が出されている.しかし,患者の自己決定権の尊重が不十分であったり,また,DNAR指示の解釈が医療者個人個人で異なり,DNAR指示によってCPR以外の生命維持治療も制限されてしまい,実質的な延命治療の差し控え・中止となってしまっている可能性がある.そこで,このようなDNAR指示実践における混乱を改善するために,日本臨床倫理学会はワーキンググループを発足させ,日本中の医療機関で使用可能なDNAR指示の作成指針の雛形を発表した.当指針は【基本姿勢】【書式】【ガイダンス】よりなり,CPR以外の他の医療処置に関する具体的指示も含んだPOLST=Physician Orders for Life Sustaining Treatmentという形式を採用することにし,正式名称は「POLST(DNAR指示を含む)作成指針」とした.
日本臨床麻酔学会第35回大会 招請講演
〔第10回日本医学シミュレーション学会 学術集会〕 シンポジウム ─JAMSの歩んできた10年とこれからの展望─
  • 水本 一弘, 五十嵐 寛, 小澤 章子
    2016 年 36 巻 3 号 p. 320-323
    発行日: 2016/05/14
    公開日: 2016/07/07
    ジャーナル フリー
    2004年5月に第1回困難気道管理(Difficult Airway Management:DAM)実践セミナーを開催した.気道管理戦略の講義,手技のハンズオントレーニングと気道管理困難症例に対応するシナリオトレーニングという3部構成を初回より踏襲している.セミナー開催母体として同年DAM研究会が発足した.同会は,2005年4月の日本医学シミュレーション学会発足に伴いその分科会となり,名称もDAM世話人会となった.これまでに70回のDAM実践セミナーを開催してきた.手術室外領域のニーズも高まり,受講生も多職種へ広がっている.日本麻酔科学会の気道確保ガイドラインへの対応が急務である.
  • 松島 久雄, 湯浅 晴之, 徳嶺 譲芳
    2016 年 36 巻 3 号 p. 324-328
    発行日: 2016/05/14
    公開日: 2016/07/07
    ジャーナル フリー
    中心静脈穿刺による医療事故の低減には,より安全な手技である超音波ガイド下中心静脈穿刺の普及が急務である.そのためには,超音波ガイド下中心静脈穿刺を正しく教えることができる指導者の育成が必須である.日本医学シミュレーション学会では,本邦で初めて超音波ガイド下中心静脈穿刺の指導者養成コースを策定し,指導者の育成を開始した.これにより,標準化した指導法に基づいた穿刺手技を研修医に教育していく道筋ができた.しかし,指導者養成コースの実施には,多大な労力と費用を必要とする.さらに,教育すべき医師もおびただしい数に上る.医療安全を推進するために,日本医学シミュレーション学会のさらなる活動が求められている.
  • 森田 耕司, 小楠 敏代, 市川 美智華, 中島 芳樹
    2016 年 36 巻 3 号 p. 329-333
    発行日: 2016/05/14
    公開日: 2016/07/07
    ジャーナル フリー
    過去1990年頃には麻酔に起因する医療事故が頻発し社会問題と化したが,これらの減少に向けた組織的な取り組みの一つとして,高機能患者シミュレータ(HPS)が導入された.HPSによる訓練では事故の背景にある人的エラーや潜在エラー要因,活性化イベント,防御メカニズムについて理解し,人の行動分析(動的判断モデル)に基づく対処が重要である.日本における麻酔科関連学会においてHPSシンポジウムやワークショップが多々開催され医療安全のための社会基盤としての認知が広まったが,2005年に日本医学シミュレーション学会が設立され,さらなる啓蒙活動の場が生まれた.これらの経過を紹介し,将来計画について議論する.
  • 駒澤 伸泰, 安宅 一晃, 讃岐 拓郎, 羽場 政法, 上嶋 浩順, 南 敏明
    2016 年 36 巻 3 号 p. 334-338
    発行日: 2016/05/14
    公開日: 2016/07/07
    ジャーナル フリー
    われわれは,SED実践セミナー(セデーショントレーニングコース)を鎮静管理に関する医療安全の向上と教育を目的として開発した.開発時には,米国麻酔科学会(ASA)による非麻酔科医のための鎮静・鎮痛ガイドラインを基本として,非麻酔科医を取り巻く鎮静の現状を調査した.さらに,学習目標を各パートにおいて策定し,プレ・ポストテスト導入による学習効果の評価やアンケートを用いたSED実践セミナーによる行動変容も検討した.また,各専門領域に対するコース開発やJoint Commission Internationalへの対応も視野に入れた展開を行っている.今後も,鎮静の医療安全管理向上のための柔軟に変化し成長するコースとしてSED実践セミナーの役割が期待される.
  • 五十嵐 寛
    2016 年 36 巻 3 号 p. 339-344
    発行日: 2016/05/14
    公開日: 2016/07/07
    ジャーナル フリー
    JAMS創設から10年が経ち,その間さまざまなシミュレーションセミナーを開発し普及してきたことで,医療安全や専門医教育へ貢献してきた.各セミナーはそれぞれの委員会が開発し実践と改善を重ねてきた.さらなる飛躍のためには,教育学的観点から見た改善が望まれる.本稿では,成人教育と授業設計の観点からのセミナーの改善点に関して概説する.
デスフルランの上手な使い方(第1回)
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