動物実験において脳保護効果があるとされた薬物も, 実際の臨床においては有効性が乏しいことが多いのが現状である. 麻酔関連薬のなかで, 脳保護効果があるとされている薬物には, 局所麻酔薬のリドカイン, β受容体遮断薬, α
2受容体刺激薬のデクスメデトミジン, ケタミン, Rhoキナーゼ阻害薬, スタチン (HMG-CoA還元酵素阻害薬) などがあげられる. 今回はそのなかで, リドカイン, デクスメデトミジン, β遮断薬に焦点を当てた.
1. リドカイン: 動物実験においては脳保護効果の報告が多数みられる. 前脳虚血や局所脳虚血においても脳保護効果があり, アポトーシスを抑制した報告や虚血時のグルタミン酸濃度の低下の報告もある. 臨床例では, 心臓の弁置換術を受ける患者に術中から術後に持続投与した時に術後の認知機能を改善した報告がある.
2. デクスメデトミジン: 鎮静薬として臨床使用されているが, 動物実験においては脳保護効果の報告が多数みられる.
3. β遮断薬: 動物実験では, プロプラノロール, カルベジロールの報告がある. われわれは, 短時間作用性β遮断薬の脳保護効果をラットで検討してきた. 臨床例では, プロプラノロールとアテノロールを急性脳梗塞に使用した際に, β遮断薬により死亡率が増加した. しかし, β遮断薬投与群ではより高齢で重症の患者が多かった報告がある. 最近では, 重症頭部外傷受傷患者において, β遮断薬服用患者では死亡率が減少し, 予後を改善した報告がある.
本稿では, われわれの研究結果を交えて, これらの薬剤の脳保護効果に関して報告する.
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