日本科学教育学会研究会研究報告
Online ISSN : 1882-4684
ISSN-L : 1882-4684
38 巻, 2 号
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表紙・目次
発表
  • 内藤 真人
    2023 年 38 巻 2 号 p. 1-6
    発行日: 2023/12/09
    公開日: 2023/12/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

    本研究では,図形領域での社会的価値観に着目した授業の一例として,子どもたちが,身の回りにある誰かが作った形や物などについて批判的に考察することを取り入れた算数の授業の具体を示すことを目的とする.そのために,先行研究を基に,身の回りの物の形を批判的に考察する際に働く3つの力(①日常生活の中にある算数を見つけ「形を認める力」,②図形を構成する要素などに着目して「考察する力」,③日常生活に照らし合わせ社会的価値観を表出しながら「検証する力」)や子どもの思考過程を明確にし,お金を題材に授業を実践した.

    その結果,子どもたちは,図形の構成要素や機能性などに着目してお金が円であると形を認めたり,他の図形と比較をしながら考察したり,それを日常生活と照らし合わせながら,利便性や安定性の社会的価値観を表出し,使用者と製造者の両方の視点から多角的に検証したりすることができ,このような授業を行うことで3つの力が子どもたちに身に付くと考える.

  • 下村 勝平, 坪内 ちひろ
    2023 年 38 巻 2 号 p. 7-10
    発行日: 2023/12/09
    公開日: 2023/12/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

    本稿の目的は,算数科の学習における等周長の図形の面積に関する誤概念に焦点を当て,周長と面積には比例関係が成り立たないことを体感し,周の長さと面積の関係の理解を促す教材開発を行うことである.そのために,まずは先行研究を概観することを通して誤概念が形成される要因と学習指導上の課題が小学4年の面積の単元に大きく影響を受けていることを捉えた.次に,小学4年で扱われる面積の単元に焦点をあて現行の教科書を比較することから,単元導入場面において周長と面積の関係の理解を促す可能性を見出し,ゲームの性質を取り入れることから教材開発を試みた.そして,開発した教材を用いた授業を構想し,対象者に先行的に行ったプレテストより,面積の単元を学習する以前にも等周長の図形の面積に関する誤概念を有する児童が多くいることが明らかとなった.

  • ~教員を対象とした質問紙調査の結果から~
    池田 遼太, 辻 宏子
    2023 年 38 巻 2 号 p. 11-14
    発行日: 2023/12/09
    公開日: 2023/12/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

    国内外の調査の結果によれば,日本の児童・生徒の,算数・数学に関わる力は高いといえる.しかし,TIMSS2019による質問紙調査の結果からは,数学の有用性や学ぶ価値を感じられていないことが課題として挙げられている.本研究では,このような現状の背景として,教師の算数・数学の授業での指導や重要視していることが影響していると推察する.そこで,質問紙調査を実施し,これらを明らかにすることを目的とする.中学校数学科教師を対象とした質問紙調査の結果から,指導に関して意識していることや重要視することは概ね過去の研究と同様であると考えられる.また,「数学を学ぶ価値を実感させること」を重視している教師は,「既に習ったことを子ども自身で新しい問題の状況に適用する」という指導を意識している割合が高い傾向が見られるが,有意差はみられず,指導との関連性を明らかにするために,さらに詳細な調査が必要である.

  • 古賀 竣也, 大谷 洋貴
    2023 年 38 巻 2 号 p. 15-18
    発行日: 2023/12/09
    公開日: 2023/12/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

    高等学校段階で統計教育を展開する際には,従来は数学科と情報科の連携が指摘されてきた.そのため,統計的リテラシー(統計情報を適切に解釈し評価する能力)の育成を図る際に,これらの教科で学習が展開されることが想定される.しかし,統計教育はそれらに限定されるわけではない.高等学校学習指導要領解説国語編の記述を踏まえると,高等学校国語科「論理国語」でも統計的リテラシーの学習が可能であることが推察された.本研究では,「論理国語」の教科書(13冊)の分析を通して,教科書にどのような統計的リテラシースキルが含まれ,それらのスキルがどのような場面で発揮されるように構成されているのかを整理し,「論理国語」でどのような統計的リテラシーの学習が展開できるのかについて考察した.結果として,「論理国語」の教科書から様々な統計的リテラシースキルが抽出でき,信頼性の高い統計資料を根拠として,それに基づく主張や前提を含めた統計情報に対して,主張を特定したり主張の信頼性を評価したりする学習などが展開できると考えられた.

  • 原田 菜月, 御園 真史
    2023 年 38 巻 2 号 p. 19-24
    発行日: 2023/12/09
    公開日: 2023/12/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

    本研究では,「正負の数の四則演算」において,UDLに基づいて,計算の考え方について複数のオプションを提供する教材を開発し,それを用いて授業実践を行い,計算に対する意識がどのように変化するのか,また,複数の考え方を提示した場合,生徒はどの考え方を選択し,その選択がどのように変容していくのかを明らかにすることを目的とした.この結果,「できるだけ計算が簡単になるように工夫するようにしている」,「計算は楽しい」で有意な上昇がみられ,「計算をするのに時間がかかってしまう」と「計算をしても,その答えがあっているのか自信がもてない」で有意な低下がみられた.また,正負の数の加法の計算の考え方について,複数の考え方をオプションとして提示した場合,学習が進行するにつれて,認知的なコストが生じる計算の意味に依拠するなどの考え方よりも,形式的に処理できる考え方を選択するようになる生徒が多いことがわかった.

  • 森川 貴文, 福田 博人
    2023 年 38 巻 2 号 p. 25-30
    発行日: 2023/12/09
    公開日: 2023/12/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

    数概念の発達を大局的視点のもとで捉えようとする先行研究では,「算術から代数への展開」という角度から取り組まれることが多く,その背景として,内容的には小学校算数と中学校以上の数学とを区別する指導内容の一つとして「文字(変数)」が挙げられると述べている.さらに,数概念の発達は「離散量から連続量への展開」という角度からも取り組まれており,実際に離散量・連続量が中学校数学の教科書においてどのように扱われているのか,教科書分析を行った.また,「数と式」領域指導の意義の一つに,文字がとり得る値の集合について理解することが述べられている.しかし,それは二元一次方程式と一次関数の接続において意識されているとは言い難い.なぜなら,先行研究や中学校数学の教科書において,本来離散量として扱われるべき事象を連続量として扱っているためである.したがって本研究では,二元一次方程式と一次関数の接続において,解のとり得る値の集合を生徒に意識させる教材を開発した.

  • 樋口 翔太, 渡辺 雄貴
    2023 年 38 巻 2 号 p. 31-36
    発行日: 2023/12/09
    公開日: 2023/12/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

    数学教育において,概念的知識の重要性が指摘されている.概念的知識の習得に有効な教授方略の1つに,PS-Iが挙げられる.しかし,先行研究においてPS-Iの有効性は学習者の特性に依存することが指摘されている.そこで,本研究では,PS-Iによる授業実践を日本の高校生に対して行い,学習者特性,PS-Iの学習効果及びエンゲージメントの関係を検討した.本研究では学習者特性として,数学への態度と失敗観に着目した.その結果,(1)PS-Iによる授業は,日本の高校生に概念的知識・手続き的知識を習得させることができた,(2)PS-Iによる授業での取り組みの質は,普段の授業での取り組みの質と比較して有意に高かった,(3)学習者の数学に対する自信とPS-Iによる学習効果に有意な正の相関があった,(4)PS-Iにおける学習者の取り組みの質は,数学への態度及び失敗に対する肯定的な捉え方と有意な正の相関が示された.

  • 暑さ指数を題材として
    石橋 一昴, 上ヶ谷 友佑, 服部 裕一郎
    2023 年 38 巻 2 号 p. 37-42
    発行日: 2023/12/09
    公開日: 2023/12/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

    本稿の目的は,暑さ指数 (WBGT) に関する夏休みの保健だより作りを通じて,中学生が社会における自らの位置をどのように変化させるのかを明らかにすることである.本稿では,この調査のために,社会批判的モデリングの実践アプローチに基づいて,中学生が社会における自らの位置を変化させ得る授業および課題を設計した.先行研究を整理すると,批判的数学教育においては,「同心円モデルを描いてその中心に子どもを置き,子どもたちに社会における自らの位置を学ばせること」が重要視されているが,批判的数学教育の理念に基づいているはずの社会批判的モデリングの先行研究では,その点が十分に考慮されていないことを指摘した.結果として,保健だより作成後には,「WBGTを特に夏の日常生活で重要な指標・指針と捉えている」,「WBGTを科学的あるいは社会的に信頼できるものと捉えている」,「WBGTは気温以外の変数も考慮しているものと捉え直している」,「WBGTは私達の身を守るために大切である」の4通りのWBGTとの主体的な向き合い方が例証された.

  • 朝倉 彬, 山本 夏菜子, 十九浦 美里
    2023 年 38 巻 2 号 p. 43-46
    発行日: 2023/12/09
    公開日: 2023/12/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

    探究学習は高等学校では重要な位置付けとなり,特にSSHでは「課題研究」の実施が最重要となっている.しかし,課題研究等の探究学習を理数系に落とし込ことは難しく容易ではない.さらに興味関心も重要な要素にも関わらず,女子生徒の理数系への興味関心の低さは現在も改善する必要がある.本研究では,期間や手法を限定した理数系探究活動を通して,探究学習における学習行動や理数系の興味関心の変化を分析した.その結果,短期間かつ単純な手法や内容に絞って実施しても,探究学習としての学びとして成立すること,理数系の興味関心が向上することが示唆された.

  • ~小学校第三学年における二等辺三角形を作る活動を事例として~
    小泉 泰彦
    2023 年 38 巻 2 号 p. 47-52
    発行日: 2023/12/09
    公開日: 2023/12/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

    本稿は,類推による問題解決の過程におけるベースの捉え方の変容について分析し,その過程や契機を探求することを目的とする.この目的を達成するために,まず,ベースの捉え方の変容を分析する枠組みを,比較に関する先行研究を基に設定した.そして,小学校第3学年の算数科における折り紙で二等辺三角形を作る活動を事例とし,「切り目を変えても二等辺三角形を作ることができるか」という問題を児童が解決する過程を観察した.児童の発話を分析した結果,ベースとターゲットで対応するような関係において同じ役割を果たす要素を探る活動が契機となって,ベースの捉え方が変容した可能性があることが示唆された.また,枠組みを用いた分析の結果,契機となる活動にあたる発話を観察できるような工夫が求められるという課題も明らかになった.

  • 下村 岳人, 下村 早紀
    2023 年 38 巻 2 号 p. 53-56
    発行日: 2023/12/09
    公開日: 2023/12/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

    本稿では,子どもの志向的状態に影響を与えたと考えられる場面を抽出することから,志向性を傾向させる要因について考察することを目的とした.そこで,小学校第6学年の分数の除法単元における調査を計画,実施するとともに,J.R.Searleが展開した志向性理論を視座とすることから,抽出児童として児童KAを選定し分析及び考察を行った.グループ活動での話し合いの様相についての分析結果をもとに,分数÷分数の計算の仕方を対象とした際の志向的状態に影響を与えた要因として,他者との相互行為を通すことからの比例的推論にみる妥当性の担保,教師によるイニシエーションとそれに対するリプライのモニタリングの2点を指摘した.

  • 王 彦博, 徳野 稀太, 岩崎 誠司, 稲垣 成哲, 楠 房子
    2023 年 38 巻 2 号 p. 57-62
    発行日: 2023/12/09
    公開日: 2023/12/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

    現在,科学博物館は教育の場でありながら,現行の展示や学習方法に課題がある。そこで,本研究では,AR(拡張現実)技術を活用し,体験者により深い学びと体験を提供する.提案手法は主にARによる個人体験強化と端末間通信ARを使用した相互体験強化である.具体的な提案例は二つある.その一つ目は個人体験強化を重視し,ダーウィンフィンチの生息域をARで学ぶ「Finch’s Map」である,二つ目は,相互体験の強化を重視した「Finca」では,ダーウィンフィンチの進化を体験者による相互コミュニケーションで学べるポログラムである.本研究では2つの実施手法や結果・考察を整理し,提案手法の評価や有効性の検証を行い,科学博物館の展示や学びにおけるARのポテンシャルを明らかにする.

  • ダイ シンイ, ダイ イコウ, 岩崎 誠司, 稲垣 成哲, 楠 房子
    2023 年 38 巻 2 号 p. 63-66
    発行日: 2023/12/09
    公開日: 2023/12/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

    本研究は、マルチモーダルインタラクション技術を利用し、来場する子どもたちの展示感覚体験を豊かにするとともに、子どもたちがインタラクティブなエンターテイメント学習をより効果的に行えるように支援することを目的としている.そこで、国立科学博物館でのダーウィンフィンチ展示に対する教育支援デザインを実施した.触覚と聴覚インタラクションを基に、ダーウィンフィンチの食性および身体構造に関する知識の内容の2つのゲームを設計した.そして、実際にワークショップを実施し、その結果を報告する.

  • 坂口 武典, 福田 博人
    2023 年 38 巻 2 号 p. 67-70
    発行日: 2023/12/09
    公開日: 2023/12/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

    本稿では,諸外国や日本でも推進されつつある.STEM/STEAM教育について整理するとともに,我が国が目指す教育において,日本型STEM/STEAM教育の成立に向けた取り組みへの手がかりを探った.結果として今後のSTEM/STEAM教育の課題について,統合の度合いに関わる課題を考察した.

  • ―中学校理科教員を事例として―
    木村 優里, 辻 宏子, 森田 裕介
    2023 年 38 巻 2 号 p. 71-74
    発行日: 2023/12/09
    公開日: 2023/12/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

    本研究の目的は,STEAM教育の実践や導入における教員自身の意識や認識とその変容を明らかにすることである.そこで,STEAM教育を実践することになった中学校理科教員を対象に半構造化インタビューを実施し,SCATを用いて分析した.その結果,STEAM教育の実践や導入における教員の意識として,導入当初の困惑を乗り越える様子や,実践の課程でSTEAM教育のポイントを見出す様子が見出された.また,学習が深まるにつれて感じる支援の難しさ,及び,その際に必要とされる具体的な授業サポートの在り方などが示された.

  • 松岡 雅忠, 實藤 匠汰
    2023 年 38 巻 2 号 p. 75-78
    発行日: 2023/12/09
    公開日: 2023/12/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

    時計反応とは,一定時間後に溶液全体が瞬間的に色変化する化学反応を指す.化学デモンストレーションとして人気があるほか,反応速度を算出する実験もよく実践される.本研究では時計反応(ランドルト反応)を,対象物を定量する実験へと発展させることを試みた.まず,2種類の試薬水溶液のモル濃度と色変化までの時間との関係を調査し,適切な反応条件を模索した.そして,モル濃度と時間のグラフをもとに,濃度未知のヨウ素酸カリウム水溶液の濃度を推定する実験教材の開発を行った.高校生を対象とする模擬授業では,ヨウ素酸カリウム水溶液のモル濃度を大まかに見積もることが可能であることが判明した.

    高等学校の生徒実験における未知試料を対象とする定量実験としては,反応前後の質量変化,中和滴定,酸化還元滴定などがあげられるが,呈色までの時間変化に着目する定量実験は,反応速度に関する学習事項の深化につながるだけでなく,グループでの話し合いを取り入れた学習活動を行う上でも適していると考えられる.

  • ―国際科学論文の構成理解への挑戦―
    中村 隆, 新井 しのぶ, 石田 靖弘
    2023 年 38 巻 2 号 p. 79-84
    発行日: 2023/12/09
    公開日: 2023/12/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

    本研究は小学生第4学年を対象に,昆虫(カイコ)の観察を通して進化について学習した実践報告である.この実践は3つの手立てで行われた.まず,第3学年時の理科「昆虫を育てよう」において,カイコを約半年間飼育した.観察において取り入れた視点として「祖先型昆虫から適応進化したのが現在の昆虫」という進化の概念を児童に伝え,昆虫の進化の視点を捉えた観察・飼育を行った.次に,第4学年国語科「くらしの中の和と洋」において,分類の視点を入れた説明的文章に取り組んだ.最後に,観察対象であったカイコの進化に関する研究が特集された番組を視聴した.さらに,その視聴内容について書かれた国際科学論文の構成と内容を読む体験を通して,「国際学論文と国語科の説明的文章の共通点」や「英語論文は研究したことを世界に発信するための方法であること」等に児童が気付くことを目指した.この実践を通して,児童が昆虫の姿を進化の産物として捉えるとともに,観察したことを論文としてまとめるまでが研究であることを捉えることを目指した.

  • 川崎 弘作, 雲財 寛, 中村 大輝, 中嶋 亮太, 橋本 日向
    2023 年 38 巻 2 号 p. 85-90
    発行日: 2023/12/09
    公開日: 2023/12/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

    本研究では,生命領域における探究の特徴を踏まえた学習指導が知的謙虚さの育成に有効か否かを明らかにすることを目的とした.このために,小学校第6学年「植物のからだのはたらき」において授業実践を行った.その結果,量的分析から,知的謙虚さ得点の平均値が実践後に向上していたと判断できる結果が得られなかった.このため,生命領域における探究の特徴を踏まえた学習指導が知的謙虚さの育成に有効であるとはいえないと判断した.その一方で,本研究の成果と先行研究の知見を比較することを通して,知的謙虚さの育成に関する新たな視点として,「自身の考えが誤っている可能性を常に疑い続ける学習」が有効であるという示唆を得ることができた.

  • コミュニティ・アイデンティティ・規範を手がかりに
    下平 剛司
    2023 年 38 巻 2 号 p. 91-96
    発行日: 2023/12/09
    公開日: 2023/12/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

    科学の健全な発展のためには,科学や研究における適切な行動規範,研究倫理が重要である.科学の行動規範や研究倫理は記述的であり,それらを包括して理解するための理論的枠組みの検討は研究倫理に関する議論を深めるための重要な基礎的作業である.本研究では科学の営みとその倫理の関係性を捉えるための理論的枠組みを模索し検討するために,科学における倫理的行動について定式化を行った.倫理や規範に関する行動(文化形質)と,科学コミュニティへの所属・アイデンティティの認識に焦点を当てて定式化し,これらの関係性についてマトリクス形式での整理と解釈を検討した.また,倫理的立場の違いや規範とアイデンティティの衝突について議論できる可能性や,科学的活動のプロジェクトにおいて倫理的行動を取るための方策の議論やシミュレーション研究への発展の可能性など,本研究の発展可能性について検討した.

  • 達成されたカリキュラムに基づいて
    浅越 天真, 福田 博人
    2023 年 38 巻 2 号 p. 97-102
    発行日: 2023/12/09
    公開日: 2023/12/07
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    数学観研究は一定の成果を残し収束している.しかし,数学嫌い・数学離れという数学教育における課題に対して,数学観の視点からその原因を明らかにしようとする研究や生徒にどのような数学観の涵養が目指されているかを考察するものはみられない.そこで本稿では生徒に今後,涵養の目指される数学観に関する一提案をすることを目的とする.近年の数学観研究は個人の価値観を前提としたものが多く見られるが,生徒に涵養される数学観は数学それ自体を問題の中でどのように捉えようとするかであろう.こうした数学観を全国学力・学習状況調査の解答類型の分析を通して明らかにした.また,今後,涵養の目指される数学観を考察するにあたり,現在涵養の目指されている数学観を「指導と評価の一体化」に向けた学習評価に関する参考資料を分析し明らかにした.結果として,意図されたカリキュラムと達成されたカリキュラムの間での差異は見られなかった.分析を通して考察された数学観をもとに今後涵養されるべき数学観の一提案を行った.

  • 文化に焦点を当てて
    花房 和輝, 福田 博人
    2023 年 38 巻 2 号 p. 103-108
    発行日: 2023/12/09
    公開日: 2023/12/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

    今後の社会において,文化の持つ役割・機能は大きく,文化を大切にする社会を構成することが必要であり,そのためには,文化を大切にする心を育てる必要があるとされている.また平成29・30・31年改訂の学習指導要領において伝統や文化に関する教育の充実を図ったとされている.しかし,教育内容の主な改善事項として挙げられたのは,国語や社会,音楽,家庭、技術,保健体育のみであった.そこで本稿では,数学教育における文化を尊重する活動を明らかにし,日本の伝統文化である折り紙を用いた教授・学習の数学教育的意義の同定を目的とする.現在の数学教育で行われている文化を尊重する学習を明らかにするため,学習指導要領の分析を行った.その結果として,数学における文化を尊重する学習は,九九と伝統文様のみであった.その結果を踏まえ,文化を尊重する教育のより一層の充実を図ることができることと幾何と代数の統合学習もできることの2点があると結論付けた.

  • ~低学年「数と計算」における開発~
    臼井 悠馬, 辻 宏子
    2023 年 38 巻 2 号 p. 109-112
    発行日: 2023/12/09
    公開日: 2023/12/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

    算数科における数学的概念や性質を理解するために,挿絵や書記言語の形式でメタファー表現が用いられてきた.変化する状況に適応するために,これからはデジタル教材としての活用が必要と推察されるものの,メタファーをデジタル教材として活用する研究は見られない.本研究では,児童が数学的概念を分かりやすく捉えるデジタル教材の作成とデジタル教材におけるメタファーの働きについて考察した.先行研究を通して,メタファーの捉え方について明らかにした.今後のメタファーとは体験的・動作的であるという観点が必要であると考え, それらを踏まえたデジタル教材を作成した.教材の実用性や,より分かりやすい教材を作成することが今後の課題である.

  • 山田 明日可
    2023 年 38 巻 2 号 p. 113-116
    発行日: 2023/12/09
    公開日: 2023/12/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

    本稿の目的は,Masonらのいう敵の納得を主眼に据え,他者の議論に目を向ける教材を開発するとともに,そのような教材が認識主体に与える影響について考察することであった.そこで,他者への意識に関する先行研究を概観することから,他者の考えを推測することを可能とする教材の開発を行うとともに,そこでの教材をもとに,調査を行った.調査結果の分析からは,設問1において19名の子どもが,正答のB(2/3m)を選択していることが確認された.また正当のBを選択した児童のうち,2/6m から2/3mに変更した児童を対象にインタビュー調査を行った.分析の結果からは,どちらとも設問2において他者の考えを推測することで,自身の考えを改めた様子が確認された.教材を通して他者の考えを推測させる機会をつくることは,自身の考えを改める機会を与えることにつながるものと推察した.

  • 中野 ひかる
    2023 年 38 巻 2 号 p. 117-120
    発行日: 2023/12/09
    公開日: 2023/12/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

    本研究は,算数科における子どもの言説の変化の過程にみる,援助要請者の「評価」に特徴づく援助提供のあり方を特定することを目的とするものである.そのために,小学校第5学年「面積」単元における授業を計画・実施し,分析を行った.分析は,Sfardの提唱するコモグニション論を視座とすることから,児童の所属するディスコース・コミュニティ(D.C)や子ども個人の数学的ディスコースの変化について捉え,援助要請の内容についてはNelson& Glorの調査結果より分析の観点を得ることとした.さらに,援助要請者の援助に対する「評価」については,援助要請の終結と継続からみとることとした.調査の結果,児童の語りの変化の過程においては,援助要請をして求められている情報量との整合性と,援助要請者と同様の言葉を用い,新たな言葉の使用を提示する援助提供が,援助要請の終結と継続につながることを指摘した.

  • 箕矢 明音
    2023 年 38 巻 2 号 p. 121-124
    発行日: 2023/12/09
    公開日: 2023/12/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

    本研究の目的は,小学校第6学年における投影的な見方に関する実態を把握するとともに,投影的な見方の育成を目指した学習指導を提案することである.そこでまず,小学校の最終年度にあたる第6学年82名を対象に,本研究で作成した質問紙調査を実施した.分析からは,円柱の真横と正面から見える形を描く問題の正答率はどちらも52.4%に留まる結果となり,曲線部分をもつ図形の認識に困難性がある様子が確認された.以上の結果を踏まえ,3次元のものを2次元にかき落とす前段階としては,曲線や凹凸が含まれる立体を平面でよむことができる教材が必要であるとの考えから,「湧き出し型」の視点活動を取り入れた学習指導を提案した.

  • 小林 杏, 辻 宏子
    2023 年 38 巻 2 号 p. 125-128
    発行日: 2023/12/09
    公開日: 2023/12/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

    建造物や身の回りのものには黄金比や白銀比が含まれているということが明らかにされている.ロゴマークやキャラクター等,人々に好まれるものにも比率が含まれることが多いと言われている.それらを実際に測定し,検証した.その結果から,人がものを好むときに心理的に比率を用いていることがうかがわれる.そこで本研究は,「人がキャラクターを好む際に,特定の比率との関連性があるのではないか」という仮説について検証する.研究方法として,キャラクター作成の実験を実施し,作成されたキャラクターに潜む比率の傾向等を分析する.また作成後に,先行研究を基にした,人の意識下にある比率について説明した上で,質問紙調査を実施し,この結果を分析する.その結果として白銀比が好まれる傾向が見られた.一方で,キャラクター作成で白銀比を好む傾向が見られた対象の質問紙調査では特筆した結果は見られなかった.

  • 升谷 有里, 下村 岳人
    2023 年 38 巻 2 号 p. 129-132
    発行日: 2023/12/09
    公開日: 2023/12/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

    本稿の目的は,算数科教科書における「もと」という言葉に係る分析を通すことから,算数科における「もと」という語の使われ方の特徴について指摘することである.本研究の目的を遂行するために,算数科教科書における「もと」という言葉の使われ方について,「もと」という言葉の種類と,学年及び領域を観点とした分析を行った.それらの分析を通すことから「もと」という語の使われ方の特徴として,教科書会社ごとの比較を通すことから,①教科書会社によって「もと」という語の使用頻度及び,使われ方に違いがあること,②算数科における「もと」という語の使用は主に第2学年から始まり,特に数と計算の領域において「初めの(original)という意味でのもと」が多用されていること,③算数科において「基準(base)という意味でのもと」が,学年の上昇に伴って多用されるようになり,特に変化と関係の領域において多用されていること,の3点を指摘した.

  • 紙本 裕一, 福田 博人
    2023 年 38 巻 2 号 p. 133-138
    発行日: 2023/12/09
    公開日: 2023/12/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

    本稿は,算数・数学科教科書に含まれる文章表現の意味理解の限界が存在するのかどうかを明らかにすることが目的である.分析の結果,教科書の90%は中学3年で,理論上理解できるものの,残りの10%については他教科の教科書や,これまでに使用した算数・数学科教科書を使っても理論上意味理解ができないものが残ることが明らかとなった.他教科の教科書やこれまでに学習した算数・数学科教科書を使って本文の意味理解を進めるとき,小学6年でも20%程度の語が理解できないことが明らかになった.つまり,他教科の教科書を活用しても,算数・数学科教科書に含まれる文章表現を一字一句理解することはできない.

  • ―小学校第4学年における平行四辺形認知の段階を高める学習を事例として―
    板垣 大助
    2023 年 38 巻 2 号 p. 139-142
    発行日: 2023/12/09
    公開日: 2023/12/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

    本稿では,平行四辺形認知を高める場面におけるグループ学習での相互作用を社会数学的討議という概念で捉え,社会数学的討議が成立したグループの様相からその成立要件を事例的に明らかにすることを目的とし,小学校第4学年の児童に対して授業を行った.6グループのうち2つのグループが社会数学的討議として抽出され,その発話から成立要件が事例的に3点明らかにされた.

  • 松本 大輝, 森田 直之, 荒 伸太郎, 村山 高志, 會田 雅一, 藤本 生, 金子 雅彦, 菅原 久法, 久保 剛
    2023 年 38 巻 2 号 p. 143-146
    発行日: 2023/12/09
    公開日: 2023/12/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

    東京都立科学技術高等学校(以下,本校)は平成13年に開校し,令和3年に文部科学省のスーパーサイエンスハイスクール(SSH)第3期に指定され,文部科学省,国立研究開発法人科学技術振興機構,東京都教育委員会の支援を受けながら,『課題研究』を中心とした課題解決型授業,教科横断型授業について開発を行っている.本校は令和6年度より従来の『科学技術科』に加え,新たに『創造理数科』を開設し,「理数系分野の幅広い素養と情報活用能力を活かして,新しい価値を生み出すことのできる人材の育成」を目指す.そのためには理科・数学に関する理論的な学習をより一層深いものにするだけではなく,探究活動を充実させた『科学技術科』と『創造理数科』が併置されているという特色を最大限活かしたカリキュラムの開発が必要である.本研究では,現段階で開発されているカリキュラムの具体的な実践方法,そして今後の展望について考察をする.

  • 小学校第4学年「人の体のつくりと運動」における「Argu-made」の導入
    松山 友香, 神山 真一, 舟生 日出男, 山本 智一
    2023 年 38 巻 2 号 p. 147-150
    発行日: 2023/12/09
    公開日: 2023/12/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

    咀嚼について,科学的根拠を活用しながら判断することが重要である.松山・山本(2023b)は,「人の体のつくりと運動」の単元において,科学的根拠に基づいた咀嚼の判断を促す授業を開発・実践し,咀嚼に対する意識の向上と日常生活への反映について課題を指摘している.本研究では,この指摘を受け,⑴学習活動で検討したことを活用しやすくして,アーギュメントの構成を支援すること,⑵意見を交流しやすくして,理由付けの吟味を促すこと,⑶実験結果を共有しやすくして,証拠の比較を促すことという指針を設定し,それらを支援するシステム「Argu-made」を開発した.本稿では,「Argu-made」を導入した授業デザインを提案する.

  • 山野井 貴浩
    2023 年 38 巻 2 号 p. 151-154
    発行日: 2023/12/09
    公開日: 2023/12/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

    本研究では,進化の理解を評価する尺度開発のレビューを基に,自然選択の理解を評価する6つの尺度に注目した.それらの尺度を,開発の時系列に沿って紹介することで,開発の変遷を明らかにした.

  • 牧澤 遼, 加納 圭
    2023 年 38 巻 2 号 p. 155-158
    発行日: 2023/12/09
    公開日: 2023/12/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

    内閣府や経産省,文部科学省等の調査において今後の教育におけるSTEAM教育の重要性が指摘されている.その実現のためには学校だけでなく企業を含めた社会全体で支援することが必要であるものの,現段階では学校教育と企業の連携が不十分であるとされている.本研究では企業と学校の連携が不十分である課題について企業の担当者側の連携意欲と連携が進まない要因について調査した.その結果,学校との連携に関する意欲と,企業と学校との接点,場の拡大に関する設問に加えて,今後のプログラム改善のモチベーションに関する設問との相関があることが明らかになった.結果より企業と学校との連携を拡大するためには,過去の調査で指摘されている要因だけでは無く企業の担当者側へも働きかける必要があることが明らかになった.

  • 森田 直之, 石川 信太郎, 保坂 勝広, 渡邉 博道, 幕田 斗那加, 藤森 晶子, 巻木 大輔, 佐藤 敬崇, 齊藤 拓也, 藤川 孝, ...
    2023 年 38 巻 2 号 p. 159-162
    発行日: 2023/12/09
    公開日: 2023/12/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

    東京都立科学技術高等学校(以下、本校)は,平成13年に開校し,令和3年に文部科学省のスーパーサイエンスハイスクール(SSH)第3期に指定され,文部科学省,国立研究開発法人科学技術振興機構,東京都教育委員会の支援を受けながら,課題解決型授業,教科横断型授業について開発をしてきている.しかし,『課題研究』を中心としたカリキュラムが開校以来,構築されてきており,『課題研究』の研究テーマが外部評価において高い評価を受けることが多くなってきている。その反面,『課題研究』では,必ずしも希望したテーマ設定ができるとは限らないため,一部の生徒には主体的な学びが誘発および持続されないことがあり,『課題研究』を進める上で、どのような生徒であっても主体的な学びをもたらすために2017年から1年次に『科学技術探究』という学校設定科目を設置し,生徒が「主体的に学ぶ態度」の誘発と2年次より始まる『課題研究』における「主体的な学び」の持続をさせる仕組みづくりを行ってきた.本研究では,『課題研究』における「主体的に学ぶ態度の誘発と持続」をテーマに行ったカリキュラムの開発および授業実践について考察・報告する.

  • ―複線経路等至性アプローチを用いた軌跡の描出―
    荒谷 航平, 小川 博士, 小野寺 かれん, 川崎 弘作, 工藤 壮一郎, 三浦 広大
    2023 年 38 巻 2 号 p. 163-168
    発行日: 2023/12/09
    公開日: 2023/12/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

    本研究の目的は,複線経路等至性アプローチ(TEA)を用いて,ある科学教育研究者を事例に科学教育研究者の現在に至るまでの経路を描き出すことである.本研究では,研究協力者として主に量的研究手法を採用してきた科学教育研究者1名を選定した.半構造化面接で得られたデータをもとに,大学学部3年次の【研究室配属】から,大学教員となり,質的研究の方法論に関する読書会に参加した上でなお,【自分では質的研究をしないと考える】までの経路を描き出した.その経路は,指導教員や研究室の後輩,異なる研究方法論を採用する研究者との対比を通して,ただ一人の科学教育研究者であり続けるために自らが研究の道を進み始めた原点を再発見する過程であり,比較的初期に構築された価値観や信念が強固に維持されていく過程であった.

  • 舟橋 友香, 新井 しのぶ, 雲財 寛, 岡部 舞, 下平 剛司, 田中 秀志, 中村 大輝
    2023 年 38 巻 2 号 p. 169-172
    発行日: 2023/12/09
    公開日: 2023/12/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

    研究方法論への理解は,目的に応じた研究方法の選択のみならず,科学教育研究における豊かな研究者コミュニティの醸成にとって重要である.本研究では,主として量的研究方法を用いている1人の若手研究者が馴染みのない質的研究方法を学ぶ過程に着目し,その過程で生じる研究者の変容を事例的に明らかにしていく.これにより,科学教育研究者が異なる研究方法論を学ぶという営みは,当該の研究方法に対する理解を得ることのみならず自身にとって馴染みのある研究方法論の輪郭を省みる行為となること,共に学ぶ他者の存在とその属性及び自己の研究経験がもつ属性が大きく影響しうること,個人の文脈を超えて研究者コミュニティが豊かになることに資する気づきを研究者にもたらす可能性があることを指摘する.

  • 中原 久志, 上之園 哲也, 森山 潤
    2023 年 38 巻 2 号 p. 173-176
    発行日: 2023/12/09
    公開日: 2023/12/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

    本研究の目的は,学校教育現場におけるSTEAM教育の実践にあたって,TechnologyとEngineeringの概念や位置づけについての一助となる考察を行うことである.文献等の知見から,①Technologyや技術は,目的達成のための個々の手段・手法やその結果であること,②Engineeringは,複数のTechnologyを組織してより大きな目的を実現する行為であること,③Engineeringと工学は重なる部分はあるものの,同様に捉えることは難しいこと,④EngineeringをEngineering ScienceとEngineering Design Processに分けて定義することで,学校教育におけるSTEAM教育への援用として位置づけやすいこと等が明らかとなった.

  • ―ROSE(2003)とROSES(2023)の比較―
    岡部 舞, 長沼 祥太郎, 中村 大輝, 川崎 弘作, 石飛 幹晴
    2023 年 38 巻 2 号 p. 177-182
    発行日: 2023/12/09
    公開日: 2023/12/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

    本研究は,現在,日本で行われているROSES(Relevance of Science Education-Second)のデータを用いて,中学3年生の科学への興味の男女差が,前回調査のROSE(2003)からどのように変動したかを明らかにすることを目的としている.比較した結果,ROSE調査からROSES調査の20年の間で科学への興味は全体的に増加傾向であると推察された.また,男女差に着目した場合,女子が興味を示す項目としては医学・医療や疑似科学等に関する項目であり,男子が興味を示す項目としては,理科学習における化学分野,科学技術等に関する項目であった.これらの傾向はROSEと同様の傾向であり,特に大きな変動はないことが推察された.

  • ―国際調査ROSEとROSESの比較を通して―
    長沼 祥太郎, 岡部 舞, 中村 大輝, 石飛 幹晴
    2023 年 38 巻 2 号 p. 183-186
    発行日: 2023/12/09
    公開日: 2023/12/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

    ROSES(Relevance of Science Education-Second:第2回国際科学技術関心度調査)は,15歳段階の生徒の理科や科学,科学技術に関する情意面を調査する国際比較調査プロジェクトである.本研究では,現時点までに日本で集めたデータを用いて,生徒を理科好嫌度に関して4つの群(理科好き群,隠れ理科好き群,理科嫌い群,消極的理科好き群)に分類し,その割合が2003年の前回調査(ROSE)からどれほど変化したか,STEM職業に対する意識に関して,4群の回答にどのような変化があるのか比較を行った.その結果,男女ともに理科好き群,隠れ理科好き群が微増し,理科嫌い群が微減していた.一方で,STEM職業に対する意識は,理科好き群,隠れ理科好き群において,全体的にマイナス方向への変化が見られた.

  • ―作図の位置づけに着目して―
    三橋 可奈
    2023 年 38 巻 2 号 p. 187-190
    発行日: 2023/12/09
    公開日: 2023/12/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

    本研究の目的は,明治に排斥された和算について,当時盛んだった算額の図形問題の特徴や和算の文化的背景を考察することで,数学教育における,それらの特徴を反映した算額の図形問題の活用の在り方を明確に示すことである.ある算額の図形問題から問題や解法の特徴を考察し,和算における文化的背景と関連付けて算額の図形問題一般の特徴を見いだすことで,算額の図形問題の活用の在り方を明確にすることを試みた.その結果,算額の図形問題に関わる作図の位置づけに特徴を見いだすことができ,その特徴をもとにして,はじめから正確な作図を行うことが難しい図形について,一度図形をある程度正確に描き,図形の性質を考察した末に正確に作図できるようになるといった,和算における算額の図形問題に対する取り組みを反映させた,現在の数学教育における算額の図形問題の活用の在り方を主張した.

  • ―「一次関数の活用」を事例に―
    綿谷 一恵, 舟橋 友香
    2023 年 38 巻 2 号 p. 191-194
    発行日: 2023/12/09
    公開日: 2023/12/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

    学校教育においては,現実場面における問題を数学を用いて解決できる力の育成が求められている一方で,そのような教材を多忙な学校現場で初めからすべて作成するのは難しい現状がある.そこで本研究では,数学教科書の問題を出発点として,現実場面との接続を意識した問題解決に取り組める教材へ再教材化すること目的とする.その際,学習者の経験から活動や思考が創出される程度を示す真正性に着目し,「一次関数の活用」を事例として,生徒が数学的表現を現実の問題解決に活用することを可能とする教材へと修正・改善する.

    提案する教材では,解答が複数個ある問題場面に作り変えることで,学習者による問題場面の解釈の多様性を創出していく点に特徴がある.これにより,提示された問題場面の状況を現実と照らして考える活動を実現し,数学的表現を活用できることや現実の問題解決に学んだ数学を生かせることに学習者が気付いていく授業設計ができる可能性を提示する.

  • 下村 早紀, 下村 岳人
    2023 年 38 巻 2 号 p. 195-198
    発行日: 2023/12/09
    公開日: 2023/12/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

    実践者がいかにして理論を生成していくのかという提案は,数学教育研究における理論と実践の往還を思考するうえで新たな側面を照らし出すものと考える.そこで本研究は,算数科における実践者による理論生成の過程をその技法とともに提案することを目的とする.第3学年の分数学習に焦点を当て,研究アプローチとしてM-GTAを採用した.授業の逐語録及び子どものワークシート記述について分析を行い,分析結果からは,子どもが分数を理解していくプロセスとして,9つのカテゴリー,7つのサブカテゴリー,29の概念を生成することができた.また,その概念の相互関係からカテゴリーを生成し,結果図及びストーリーラインとして練り上げた.

  • -第6学年「線対称・点対称」の学習を事例に-
    土井 孝文
    2023 年 38 巻 2 号 p. 199-204
    発行日: 2023/12/09
    公開日: 2023/12/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

    本稿の目的は,学習者が新たな数学的概念を学ぶ際に,言葉としての定義が導入されてから受動的な使用に至るまでにみるプロセスの特徴を事例的に明らかにすることである.そのために,スファードのコモグニション論を援用し,第6学年の算数科授業において,線対称・点対称という概念を学ぶ際にみる「言葉の使用」を分析した.その結果,スファードの示す4段階モデルのうち,第1段階である言葉の受動的な使用に至るまでに,学習者は豊かな相互行為を形成している様相が浮かび上がった.具体的には,定義が導入される前であっても,既習の内容や経験をもとにした言葉が表出し,受動的な使用へと漸次的に学びが進行することを明らかにした.これにより,学習者から表出する言葉を契機として,学習者同士が言葉に意味を付与していくプロセスを重視した定義の導入に関する授業を設計することの必要性を指摘した.

  • - 1人1台端末を活用して -
    河田 勇希, 御園 真史
    2023 年 38 巻 2 号 p. 205-210
    発行日: 2023/12/09
    公開日: 2023/12/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

    本研究では,高等学校数学II「図形と方程式」において,構想・見通しを立てる活動をGeoGebraおよびJamboardを活用して取り入れた授業の開発と実践を行い,その効果を数学に対する意識がどう変化したかという観点で検証した.その結果,生徒の数学の学習に対する意識改善の兆候がみられ,問題を解いた過程を振り返る意識が否定的な状況から肯定的な状況へと有意に好転した.さらに,生徒の数学の学習方略においては,解法暗記から,協働的な学び,複数の解法を考える,試行錯誤するといった方略の良さを見出す生徒が複数現れた.

  • 山口 智美
    2023 年 38 巻 2 号 p. 211-214
    発行日: 2023/12/09
    公開日: 2023/12/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

    日本では理科が成立した明治時代から西洋科学に基づく合理的主義的科学観と,自然を愛するといった心情を育てる日本固有の土着的な科学観が併存してきた(小川2006;文部科学省,2008).農業高校での農作物の栽培や植物や動物などの自然に触れる体験は,高校生の自然への愛着感や農業への関心を育み,成長著しい植物の存在や収穫の喜び,達成感を仲間と経験する過程により自己肯定感の向上がもたらされることが想定される.また,農業を通じて自然との心理的なつながりが強まることで,自然や科学への関心が高まり地球規模の環境問題についての課題解決意識の醸成に結び付いている可能性がある.本研究ではこのような問題関心から,農業高校で様々な体験学習をした高校生に質問紙調査やインタビュー調査を行い,自然への愛着感や農業への関心,自然や科学への関心、環境的行動(環境に責任ある行動)などについての変容が見出せるかSCATを利用した質的研究を行った.

  • 森 沙耶, 奥本 素子, 江本 理恵
    2023 年 38 巻 2 号 p. 215-218
    発行日: 2023/12/09
    公開日: 2023/12/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

    科学館の展示物は体験型・参加型であるハンズ・オン展示が主であり,近年はデジタル機器を用いてよりインタラクティブな体験を提供するデジタルハンズ・オン展示も増えている.科学館利用者の多くは家族連れであり,家族で展示を体験する際に親は学習者としてだけではなく,ガイド役やファシリテーター役を担うことがわかっており,その役目を果たすためには科学館の支援が必要とされている.本研究ではデジタルハンズ・オン展示であるAR Sandboxを用いて,その展示体験の様子を主に親子の会話分析から明らかにすることを目的とし,保護者のファシリテーターとしての役割への支援としてどのような方法が考えうるか検討した.その結果,展示物の滞在時間が短いほど親の発話に相槌やオウム返し,展示物に関する背景知識や解説のカテゴリが多く,滞在時間が長いほど展示物の中の注目すべきポイントを提案したり,子どもに問いかけをするカテゴリが多いことがわかった.

  • リスク重視傾向の変化過程の検討
    口羽 駿平, 山口 悦司, 坂本 美紀, 山本 智一, 原愛 佳, 近江戸 伸子, 村山 留美子, 俣野 源晃, 澁野 哲
    2023 年 38 巻 2 号 p. 219-222
    発行日: 2023/12/09
    公開日: 2023/12/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

    筆者らは,科学技術の社会問題としてのゲノム編集を題材に,ゲノム編集魚の開発・販売に対して,それらのリスクとベネフィットのトレードオフを考慮した意思決定を目指す小学生向け教育プログラムの開発と評価を行っている.本研究においては,リスク対策を考案する学習活動を経験した後でも意思決定時にリスクを重視する傾向があったことの要因を探索するために,意思決定におけるリスク重視傾向の変化過程を検討した.具体的には,プログラム内で計3回実施した意思決定時のリスク重視傾向の変化パターンを抽出するとともに,プログラム終了後に実施した児童への面接調査の回答に基づいて,その変化過程の背後にあるリスクに対する児童の認識を事例的に分析した.児童が評定したリスク重視傾向を分析した結果,次の4つの変化パターンが抽出された.(1)リスク重視が持続,(2)非リスク重視からリスク重視へ変化,(3)非リスク重視が持続,(4)リスク重視から非リスク重視へ変化.変化パターンごとにリスクに対する児童の認識を事例的に分析した結果,プログラム終了後において非リスク重視であった児童はリスク対策によってリスクを軽減できると認識していた一方で,リスク重視であった児童はリスク対策ではリスクを軽減できないと認識していたことが示された.

  • 中村 大輝
    2023 年 38 巻 2 号 p. 223-228
    発行日: 2023/12/09
    公開日: 2023/12/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

    学校現場の業務量が増加する中で,学力調査の実施負担を軽減することは喫緊の課題である.本研究では,調査の対象となる教科の学力得点が教科への態度得点と相関を持つことに着目し,質問紙によって得られる態度得点の情報を利用して教科の学力を推定する方法を検討した.全国学力・学習状況調査の個票データを用いたシミュレーションの結果,教科への態度を補助変数とする一般化回帰推定量(Generalized Regression Estimator)を利用することで,従来よりも効率的に誤差を減らすことができることが示された.これは,現在の調査方法よりもより少ない調査学校数で同程度の精度を実現できる可能性を示唆している.

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