日本科学教育学会研究会研究報告
Online ISSN : 1882-4684
ISSN-L : 1882-4684
38 巻, 3 号
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表紙・目次
発表
  • 藤森 隼一, 中村 直樹, 浅田 稜二, 松尾 海, 伊藤 冬樹
    2024 年 38 巻 3 号 p. 1-4
    発行日: 2024/03/09
    公開日: 2024/03/06
    研究報告書・技術報告書 フリー

    中学生の溶解概念については,誤概念の形成が報告されている.本研究では,蛍光色素を用いた授業実践を行い,授業で使用した学習カードおよび授業前後に実施した質問紙を分析した.溶解直後の均一性を理解している生徒は,授業前から多く存在することが分かった.これは,小学校第5学年「物の溶け方」に均一性が移行したことによる効果であると考えられた.しかしながら,一定時間経過後の均一性については,多くの生徒が下部モデルで理解していることが分かった.これは,蛍光色素を用いることで改善された.このことから,蛍光色素の使用が一定時間経過後の均一性概念形成に有効であると考えられた.以上より,中学生の溶解概念形成において,一定時間経過後の均一性の理解が課題であり,蛍光色素の使用はその改善に有効であることが示唆された.

  • 廣田 真暖, 杉山 雅俊, 佐々木 智謙
    2024 年 38 巻 3 号 p. 5-8
    発行日: 2024/03/09
    公開日: 2024/03/06
    研究報告書・技術報告書 フリー

    本研究では,中学校理科授業の話し合い活動において生徒から発話される質問の内容を明らかにすることを目的とした.特別な学習指導法による介入を行aわない理科の通常授業における話し合い活動を対象とした.記録した音声から質問を抽出し,議論における意味内容に注目しながらカテゴリーを作成した結果,6種類の上位カテゴリーと3種類の下位カテゴリーが抽出された.また,先行研究で低次の質問と指摘されている事実を問うような単純な質問が,生徒の話し合い活動の議論を進行する上で一定の役割を担っていることが示唆された.

  • 杉山 雅俊
    2024 年 38 巻 3 号 p. 9-12
    発行日: 2024/03/09
    公開日: 2024/03/06
    研究報告書・技術報告書 フリー

    本研究の目的は,教師志望学生を対象として,教育実習で実施した授業の振り返り活動を実施し,他者との関わりを通じて理科授業観を自覚化することの可能性を試行的に検討することであった.活動後の学生の振り返り内容を手がかりとして,活動の成果と課題を検討した.その結果,他者との関わりを通じた振り返り活動の成果として,これまで自らの言葉で言語化することが難しかった理科授業観を明瞭にすることや,これまで必ずしも自覚的とは言えなかった理科授業観を自覚化することを可能にしたこと,他者の考え方を自らの理科授業観を省察する材料にすることを目指すような役割を担っていたこと,自らの理科授業観の再確認や再構築に寄与したことを提示した.また,課題として,振り返り活動の価値を積極的に意味づけ,認知的な広がりや深まりに目を向けるよう促すこと,同一単元・内容の授業というベースを整えることを提示した.

  • 渡辺 信, 青木 孝子
    2024 年 38 巻 3 号 p. 13-16
    発行日: 2024/03/09
    公開日: 2024/03/06
    研究報告書・技術報告書 フリー

    数学教育の最近の傾向は公式に頼って問題が解ければよいと考えている。公式を覚えることが数学であるという考え方が,数学を考える楽しさを失わせてしまった。この公式を覚えることを,図形の面積,分数計算と2次方程式の解を求めるときの公式の使い方に見たい。また,同時に教科書では数学的な厳密性の説明を試みることによって,数学を難しく厳密にし過ぎている。教科書を読んだ後に書かれていることが理解できないままに,公式を活用する。はじめから厳密な数学の説明は避け,公式を作り出すことを,とりあえずあいまいなままになって,数学の公式依存を止めたい。数学嫌い解消と公式のみの活用で試験で高得点になることとは違う。

  • 石井 康博
    2024 年 38 巻 3 号 p. 17-20
    発行日: 2024/03/09
    公開日: 2024/03/06
    研究報告書・技術報告書 フリー

    算数科における文章題解決において,子どもにとって状況把握の難しさが課題の一つに挙げられている.課題の背景には文章題の表現から数式に変換する際に変換等必要な段階が存在するという認知の側面,さらに文章題の表現を踏まえて生起する状況を根拠とせずに,表現に含まれる数値および演算に導くキーワードを根拠として解決するといった学校自体のもつ文化的側面が要因として指摘されている.筆者は文章題解決に対して挿絵の提示での効果の有無が検討したが,授業者が作成した挿入絵に対しては気づきが十分には認められなかった(石井,2008).しかし,いくつかのコマで構成される漫画の提示により,子どもが文章題課題の状況をつかみわかることに結びついたという研究が見られる(島根県松江教育センター,1989・1990)そこには視点が存在していることが考えられる.そこで本稿では,漫画と視点との関係について検討していく.

  • 石橋 一昴, 平田 篤史
    2024 年 38 巻 3 号 p. 21-26
    発行日: 2024/03/09
    公開日: 2024/03/06
    研究報告書・技術報告書 フリー

    日本の学校教育における統計教育と情報教育に対しては,数理・データサイエンス・AI教育の推進に当たり,両者を横断させながら基礎的な資質能力を育成することが期待されている.しかしながら,その具体的な方策は模索中である.そこで本稿では,日本の高等学校段階に焦点化して,イギリスの学校教育における統計教育と情報教育から,その実現に向けた示唆を得ること目的とした.結果として,各教科からは,プログラミング言語や生成系AIに応じた資質能力・学習内容の設定,数学・統計的な内容の活用を対象とした大学入試制度の充実と改革,倫理に関する教育の充実が挙げられた.また横断的な学びの視点からは,数学科において統計的な内容を学び,それを情報科において活用するという役割を明確にした形での横断的な学びの設計が挙げられた.

  • ―小学校理科「かげと太陽」の単元を事例に―
    齊藤 徳明, 和田 一郎
    2024 年 38 巻 3 号 p. 27-32
    発行日: 2024/03/09
    公開日: 2024/03/06
    研究報告書・技術報告書 フリー

    国内外において,子どもの科学的説明の構築の重要性が高まっている.本研究では「不必要な認知的負荷を最小限に抑えるための原則(Mayer,2009)」の視点から,理科授業におけるICT利活用を通じて子どもの科学的説明の構築を促進することを試みた.主張(質問や問題への答えや結論)および根拠(主張を支える科学的なデータ)のそれぞれを有する説明を科学的説明として捉えた.これを促進する視点として「不必要な認知的負荷を最小限に抑えるための原則」の5つ(一貫性の原則,信号伝達の原則,冗長性の原則,空間連続性の原則,時間的連続性の原則)に基づき,授業実践を行なった.事例的分析の結果,理科授業において教師が「不必要な認知的負荷を最小限に抑えるための原則」の5つの視点からICTを利活用することによって,子どもの認知的負荷を低減させ,科学的説明の構築を促進することが示唆された.

  • 鈴木 進, 和田 一郎
    2024 年 38 巻 3 号 p. 33-38
    発行日: 2024/03/09
    公開日: 2024/03/06
    研究報告書・技術報告書 フリー

    自由試行とは,自然事象に対して子どもが自由に活動を行い,気付きを得ていく活動であり,この活動の中で生まれた自然事象に対する認識から問いは形成されるのである.すなわち,活動を通じて多様な気付きを得た先には,それに応じた問いが形成されることが想定される.また自然事象に対する子どもの認識は表象と称され,表象を形成することが自然事象に対して気付きを得ることに機能すると考えられる.そこで本研究では,子どもが自由試行を通じて,どのような種類の問いを形成するのかの実態を明らかにすることと,その形成過程において表象がどのように機能するのかを捉えることを目的とした.これに関して小学校第5学年理科「振り子の性質」における事例的分析を行った結果,自由試行における子どもの活動に応じて形成されやすい問いがあることや,活動に固有の問いがあることが明らかとなった.さらに,活動を通じて形成された表象が機能することで問いの形成が促され,子どもが見出した仮説に対して一般化を図ることで「どのように」で示される問いが形成されることが示唆された.

  • 酒井 菜々子, 大手 孝之, 栁沼 優作, 和田 一郎
    2024 年 38 巻 3 号 p. 39-44
    発行日: 2024/03/09
    公開日: 2024/03/06
    研究報告書・技術報告書 フリー

    現行の学習指導要領では,問題解決の過程を通して既有のイメージや素朴な概念などを,より妥当性の高いものに更新していくことが求められている.以上を踏まえ,Wetzels et al.(2010)の指摘する前知識の活性化モデルを援用し,問題解決の過程を通じて子どもが既有知識を活用して新たな概念を作り上げていくプロセスを捉えていくことを目的とした.そこで,小学校第5学年「流れる水の働きと土地の変化」を事例に,考察の記述分析を行った.次に,子どもは他者との関わりの中で概念を構築していくことが考えられる.そこで,事例的分析Ⅱでは,Schmidt(1982)の指摘に基づき,新たな概念を作り上げていくプロセスを他者との相互作用を加味して捉えていくことを目的とし,小学校第4学年「ものの温度と体積」を事例に,分析を行った.

  • 磯邊 奈津美, 水越 一貴, 水落 芳明
    2024 年 38 巻 3 号 p. 45-50
    発行日: 2024/03/09
    公開日: 2024/03/06
    研究報告書・技術報告書 フリー

    本研究では,小学校第3学年理科の学習において,学習者がお互いの画面をリアルタイムで閲覧可能なCSCLシステムであるedutabに,学習者相互が「いいね!」をすることができるボタンを実装した効果及び自己有用感に関する効果を検証した.その結果,多くの学習者は「いいね!」機能を肯定的に捉えていることが明らかになった.質問紙調査の結果,実践前と実践後において自己有用感に関する質問紙全体の有意な向上は見られなかったが,質問項目ごとの分析の結果から,クラスの人を頼りやすい環境になることが示唆された.また,発話プロトコル分析の結果では,一覧モニター画面において,学習者一人一人の画面の内容を推察できる学習デザインの必要性や,「いいね!」された理由が学習者にフィードバックされるような授業の検討が重要であると考えられる.

  • 堀舘 秀一, 舟生 日出男, 清水 由朗
    2024 年 38 巻 3 号 p. 51-56
    発行日: 2024/03/09
    公開日: 2024/03/06
    研究報告書・技術報告書 フリー

    本研究の目的は,コンピュータ画面上で岩絵具特有の質感を擬似的に体験し,その特徴の理解を促すためのデジタル岩絵具描画ツールを開発することである.先行研究で洗い出した4つの基本機能と操作要素(描線・消線,描線サイズ変更,アンドゥ・リドゥ,プリセット画像の読み込み,パレットと選択したテクスチャ名の表示,成果物の保存など)を実装したWebアプリケーションとしてデジタル岩絵具描画ツールを開発し,教職志望の大学生を被験者として,その操作性と学習効果に関する評価実験を実施した.質問紙による調査を通して,実装した基本機能と操作性についての有効性を確認するとともに,検討すべき新たな課題が明らかとなった.また,岩絵具の特性についての理解や学びの深まりなどの学習効果について確認することができた.

  • 反畑 爽, 笠井 香代子, 進藤 勇作
    2024 年 38 巻 3 号 p. 57-62
    発行日: 2024/03/09
    公開日: 2024/03/06
    研究報告書・技術報告書 フリー

    GIGAスクール構想による1人1台のデジタル端末が全国の小中学校で整備されたり,令和元年の「中学校教材整備指針」において3Dプリンタが含まれるようになったりするなど,教育現場の改革が進んでいる.本研究では,ICTや3Dプリンタ教材を活用して,中学校2年理科「酸素がかかわる化学変化」「気象の観測」の授業実践を行った.ICTの活用では,生徒が1人1台所有しているChromebookを使用して,Googleクラスルームを活用し,実験の結果や考察の共有をGoogleジャムボードで行ったり,毎時間の振り返りをGoogleフォームで行ったり,他にも様々な場面で使用した.3Dプリンタ教材の活用では,3Dプリンタで作製した原子の模型を配付して組み立てる活動を行ったり,実験の補助器具として使用したりした.また,生徒を対象に,Chromebookの活用に関するアンケート調査を行い,現在のChromebookの活用の実態の分析を行った.

  • 平野 義典, 西村 信吾, 和田 一郎
    2024 年 38 巻 3 号 p. 63-68
    発行日: 2024/03/09
    公開日: 2024/03/06
    研究報告書・技術報告書 フリー

    近年,科学的探究における思考力や表現力の育成が課題となっている.こうした課題を解決するためには,生徒の思考や表現の内実を捉える必要がある.また,子どもは心内における表現である表象を形成し,様々な形式へと変換することで思考し,それを外化することで表現を行なっている.そこで本研究では,特に化学領域における表象に着目し,表象の形成及び変換の実態を捉えることを目的とした.第一に,中学校第1学年「状態変化と熱」の予想や考察の分析をおこなった.第二に,科学的説明の一つであるアーギュメントを構築する上でどのように表象が形成及び変換されているのか,中学校第1学年「水溶液」を事例に分析を行った.

  • 阿部 共沙, 宮野 利隆, 和田 一郎
    2024 年 38 巻 3 号 p. 69-74
    発行日: 2024/03/09
    公開日: 2024/03/06
    研究報告書・技術報告書 フリー

    本研究では, Mayer(2009)が指摘した個人内の認知プロセスである「マルチメディア学習」を,小学校理科の対話過程に拡張して捉え,対話過程における認知プロセスの実態を明らかにすることを目的とした.対話過程に関しては,対話過程を様々な表現や思考内容を加味して分析している,阿部・宮野・和田(2023)の「意味形成」の要素を援用した.その結果,「マルチメディア学習の認知理論」を「意味形成」の対話過程と対応付けて捉えることができ,その対話過程における認知プロセスの実態が明らかになった.さらに,本事例を通して,板書や言葉による教師の支援に関わる知見が得られた.

  • 中野 未優, 和田 一郎
    2024 年 38 巻 3 号 p. 75-80
    発行日: 2024/03/09
    公開日: 2024/03/06
    研究報告書・技術報告書 フリー

    本研究では,小学校第3学年「かげと太陽」に関する学習を事例に,科学的モデルの構築と子どもの描画機能の自覚との関連を明らかにすることを目的とした.描画機能の自覚については,Ainsworth et al.(2015)が指摘した描画機能に着目し,科学的モデルの構築については,Zangori(2018)が構造化している科学的モデリングに着目した.これらの指摘に基づき,子どもが構築したモデルと質問紙で記述した描画の自覚を関連付けて分析を行った.事例的分析の結果,科学的モデルが構築できている子どもは,描画機能における「コミュニケーションのための描画」の機能の自覚をしている傾向が高いことが明らかとなった.また,「コミュニケーションのための描画」を自覚していることで,その自覚に基づいて科学的モデリングを進めることができ,科学的モデルの構築が促されることが示唆された.

  • 武田 舞子, 飯田 和也
    2024 年 38 巻 3 号 p. 81-84
    発行日: 2024/03/09
    公開日: 2024/03/06
    研究報告書・技術報告書 フリー

    個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実を目指した活動として「自己決定できる場面」,「地域資源や人材を活用した場面」を取り入れた地域の地形に関するパンフレット作成活動を行い,その効果を検証した.

    中学1年生「地層から読み取る大地の変化」の単元を11時間で実施し,前半の5時間では基礎的・基本的な知識の習得,中盤の4時間では前半の授業で習得した知識を活用した地域の地形に関するパンフレットづくりを行った.パンフレットづくりでは,誰とどのように何を活用しながらパンフレットを作成するのかを生徒が自由に選択しながら活動を行えるようにした.成果として地域の地形や地質の特徴と既習事項を関連付けながら学習を行うことができた.また生徒に実施したアンケートより57%の生徒はこのような学習活動に肯定的な意見を示した.

  • 飯田 和也, 岩田 真, 福之上 嘉刀, 相川 充弘
    2024 年 38 巻 3 号 p. 85-88
    発行日: 2024/03/09
    公開日: 2024/03/06
    研究報告書・技術報告書 フリー

    本研究では,箱根火山野外学習の事前指導として,3DCGを利用した地質図を開発し,野外学習の参加者を対象として授業実践を行った.先行研究から,野外学習の事前指導は,野外学習自体の学習効率を向上させる際に重要であることが示唆されている.事前指導で留意する点の1つとして,地理的要因が重要であることが示唆されていることから,本研究では野外学習を行う地域の地理的な特徴がわかるよう,3DCG地質図の開発を行った.事前学習において3DCG地質図を利用することにより,生徒は特徴的な地形に対して注目することがわかった.また,およそ半数の生徒は,対象地域の地質の違いにも着目していることがわかった.これらの結果から,3DCG地質図を用いることにより,野外学習を行う地域の地理的な特徴の理解を助けることが示唆された.

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