日本科学教育学会研究会研究報告
Online ISSN : 1882-4684
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37 巻, 2 号
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表紙・目次
発表
  • ―化学基礎における生徒の調査結果より―
    豊田 彩子, 今村 哲史
    2022 年 37 巻 2 号 p. 1-6
    発行日: 2022/12/03
    公開日: 2022/12/01
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    主体的・対話的で深い学びの実現のために,21世紀型スキルなどで挙げられている批判的思考力の育成は重要である.そこで本研究では,高等学校化学基礎の授業を通して生徒の批判的思考態度の実態を明らかにすることとした。まず,化学基礎において批判的思考態度の明示的な指導やワークシートを用いた授業を計画・実践した.そして,生徒の変容について批判的思考態度に影響を及ぼす5因子を基にした質問紙を作成し調査を行った.この結果から,批判的思考態度に影響を及ぼす5因子の,「データ収集・解釈の重視」において,必要な情報を適切に解釈し,まとめようとする態度が身についた.さらに,他の因子に関しても生徒の変容が少しずつ見られるようになり授業の効果が見られた.また,「理科は難しいけど楽しい」という結果から,批判的思考態度の育成が,理科を意欲的に学ぼうとする態度の育成に繋がる効果も期待できることがわかった.

  • ―米国科学教科書の例をもとに―
    瀬谷 匡史, 今村 哲史
    2022 年 37 巻 2 号 p. 7-10
    発行日: 2022/12/03
    公開日: 2022/12/01
    研究報告書・技術報告書 フリー

    科学教育の世界的な潮流として,STEM/STEAM教育への関心が高まってきている.本研究では,米国の中等(前期)科学教育におけるSTEM教育の基盤にある考え方と取り組みについて明らかにすることとした.具体的な方法としては,米国中等科学教科書“SCIENCE Fusion”(第6-8学年用)を対象とし,21世紀型スキル育成の考え方とSTEMの内容について調べた.教科書“Matter and Energy”の内容から,STEM授業においては,エンジニアリングデザインプロセス(EDP)の9つの段階にもとづいて学習するようになっていることがわかった.また,日本の中学校理科教科書についてSTEMに関連した内容を調べ,特に化学かいろの内容を取り上げ,エンジニアリングデザインプロセス(EDP)にもとづいた学習活動について提案した.以上のことから,日本の中学校理科へのSTE/STEAM教育の導入が可能であり,その具体的な授業展開についても明らかにすることができた.

  • 板橋 夏樹
    2022 年 37 巻 2 号 p. 11-14
    発行日: 2022/12/03
    公開日: 2022/12/01
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    本研究は,小学校段階でのエネルギー概念の導入を検討するための基礎的知見を得るための一環として,エネルギーをテーマとした小学生向けの学習漫画『ドラえもん科学ワールド エネルギーの不思議』に掲載された4つのエピソードを事例に,エネルギーに関する登場人物の台詞の表現とその特徴について分析した.その結果,以下のことが明らかになった.(1)共起ネットワークによる分析から,エネルギーと関連付けられた言葉は「熱気球,ダイナミック,役に立つ,便利,遊べる,車,新しい,遊べる,ママ」等のような日常生活に関するものであった.(2)液体のような流動的なもの,燃焼に必要な燃料としての資源,保存できずに消滅してしまうもの,また,ある形態から別の形態に変換できるもの,としてエネルギーが表現されていた.

  • 齊藤 智樹
    2022 年 37 巻 2 号 p. 15-20
    発行日: 2022/12/03
    公開日: 2022/12/01
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    This study aimed to depict the structure of integrative STEM education. Referring to literature from the period when discipline-based education was actively discussed, the paper argues the nature of the structure, its three-dimensional view, and the differences depending on the structures of teaching and learning. As a result, it is shown that there is a need to reconsider the boundary between Inter- and Trans-disciplinary STEM education and to redefine the classification.

  • 菊池 蒼雅, 久坂 哲也
    2022 年 37 巻 2 号 p. 21-24
    発行日: 2022/12/03
    公開日: 2022/12/01
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    本研究の目的は,中学校理科の定期テストを対象に項目反応理論(IRT)に基づいて分析を行い,項目困難度や項目識別力から改善が必要な問題の特徴を見いだすことである.中学校第一学年で実際に実施された2つの期末試験(計85問)を対象に,項目反応理論の前提となる一次元性と局所独立性について検討を行った結果,2つの仮定を満たすことができたため項目困難度や項目識別力について出題の観点や解答形式ごとに算出した.その結果,選択式問題の項目識別力がやや低いことなどが示された.それらについて選択肢の内容に着目すると,実際は4択問題であっても文脈からほぼ自動的に2択まで絞られる問題が散見された.したがって,選択式で思考の結果のみを問うのではなく,思考の過程を問う問題に改善することで項目識別力が上がると推察された.

  • 紺野 ひな, 岡田 菜月, 福士 祥代, 藤原 歩, 平安名 盛達, 安川 洋生
    2022 年 37 巻 2 号 p. 25-28
    発行日: 2022/12/03
    公開日: 2022/12/01
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    教育学部の実験科目において,市販の乾燥ウミホタルを出発材料としてDNA粗抽出液を調製し,ミトコンドリアDNAにコードされる遺伝子のPCR実験を指導した.受講生が増幅した遺伝子のうちCOII遺伝子について結果を確認したところ,乾燥ウミホタルには部分的に塩基の異なる個体が混在していることが推測された.そこで,あらためて16個体の乾燥ウミホタルについてDNA粗抽出液を調製し,COII遺伝子の全長(702bp)をPCR増幅してシーケンシングし塩基配列を比較した.その結果,塩基配列が完全に一致したのは5個体であり,他の11個体についてはどの個体も1ヶ所以上の塩基置換がみとめられた(計18ヶ所).その内の2ヶ所についてはアミノ酸の変化を伴う置換であった.乾燥ウミホタルはPCR法や遺伝子の突然変異について学ぶ教材として有用かもしれない.

  • 趙 セイタク, 海老 春香, 楠 房子, 稲垣 成哲
    2022 年 37 巻 2 号 p. 29-32
    発行日: 2022/12/03
    公開日: 2022/12/01
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    近年,自然環境に関する関心の増大を踏まえて、植物園等における教育活動が注目を集めている.もともと,植物園は,植物資源を保護する役割を重視する一方で,植物及び植物に関連する事項への教育機能の充実を図ってきた.本研究では,ゲーム性と教育性を組み合わせた自然教育園内の「親子参加型AR宝探しゲーム」を提案した.本ワークショプでは,AR技術を用い,デバイス上に映された現実空間に,植物に関する多様なARコンテンツ情報を付加し,植物園で新たなゲーム体験を生み出すことができる.国立科学博物館附属自然教育園を対象にして,親子ペアの参加による評価実験を行った.その結果,参加した親子ペアは,提案したゲーム環境の中で協調的に活動するとともに,楽しく植物の知識を学んだことが明らかとなった.本報告では,「親子参加型AR宝探しゲーム」のデザインプロセスとともに,成果物としての「親子参加型AR宝探しゲーム」について,その概要を述べる.

  • ~「水溶液の性質」における“結晶”に着目して~
    反畑 爽, 笠井 香代子
    2022 年 37 巻 2 号 p. 33-36
    発行日: 2022/12/03
    公開日: 2022/12/01
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    GIGAスクール構想による1人1台のデジタル端末が全国の小中学校で整備され,令和元年の「中学校教材整備指針」において3Dプリンタが含まれるようになったりするなど,教育現場のデジタル環境の改革が進んでいる.本研究では,デジタル端末や3Dプリンタ教材を活用して,中学校理科「水溶液の性質」の7回の授業実践を行った.この7回の授業において4つの工夫を行った.1つ目は,毎時間の授業の振り返りを,Chromebookを利用して行ったことで,2つ目は毎時間の授業にデジタル教科書を利用したことである.3つ目は再結晶の実験での結晶の顕微鏡観察でChromebook 端末によるコリメート法を導入したことである.4つ目は“結晶”の語句を学習した際に,3Dプリンタで作成した結晶の外形の模型を配付したことである.授業の振り返りを分析して,どの回でも”理解できた”あるいは“よく理解できた”の回答の割合が8割前後であり,全体として理解度が高い授業であった.

  • ―物質構造ライブラリにおける3D構造データのWebAR化の試み―
    佐々木 碧斗, 笠井 香代子
    2022 年 37 巻 2 号 p. 37-40
    発行日: 2022/12/03
    公開日: 2022/12/01
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    化学現象の理解には物質の構造の把握が不可欠である.本研究では,先行研究である結晶構造のICT教材から着想を得て,物質の構造をWeb上で3Dモデルとして表示し,既存の教材と組み合わせて物質の構造に関しての理解がより進む3Dデジタルコンテンツ教材の開発を目指す.一人一台のデジタル端末が整備された中で,誰一人取り残すことがない教育というGIGAスクール構想の理念に則り,科学教育のより一層の振興を目指すための分子やイオンの構造のWeb3Dモデル化を試みた.Web上で閲覧ができる3Dモデルは,端末の機種やOSに関わらず,model-viewerに対応しているブラウザであれば表示でき,任意の方向から自由に回転させて見ることができる.スマートフォンを用いれば,画面越しに現実世界に分子やイオンをAR表示することも可能である.これらの教材実践により,Web3Dモデルを用いることで,分子構造に対する理解が高まることが示唆された.

  • ―インターネット望遠鏡を用いた月の観察を通じて―
    田口 瑞穂, 佐藤 毅彦, 上田 晴彦, 成田 堅悦
    2022 年 37 巻 2 号 p. 41-44
    発行日: 2022/12/03
    公開日: 2022/12/01
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    月の満ち欠けの観察ツールとして,インターネット望遠鏡のWel-CAMがある.小学校教員免許状取得希望大学生に対して,授業中にWel-CAMを解説し, 1度使用させた.その後,インターネットを用いた授業連絡で使用を促した.これらを通じて,学生の月に対する意識や知識がどのように変容するのかを調査した.プレ調査とポスト調査の結果の比較では,どの項目にも有意差がなかった.Wel-CAMの使用頻度は低く,月や月の満ち欠けの起こる仕組みについての知識は増えなかった.学生に対するポスト調査の結果からは,月を見る頻度が上がったと感じた学生が15名(39.5%),月の満ち欠けに対して興味が向上したと感じた学生は25名(65.8%)いることが分かった.Wel-CAMを任意で使用させるのではなく,学習者が目的意識を持ってWel-CAMを使用する必要がある,ということが示唆された.

  • 小林 真人, 小林 弥生
    2022 年 37 巻 2 号 p. 45-48
    発行日: 2022/12/03
    公開日: 2022/12/01
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    A大学の理工系2学部の数学系基礎科目群では,数年前から独自のテキストを使い,将来の活用に備えて他分野や自然・社会活動と数学とのつながりを意識し,基礎概念の概略を掴むことに重点を置いた授業を実施している.これらの科目群では,Covid−19の蔓延に伴い対面授業が停止された期間に受講生の概念習得を援助する工夫として,遠隔授業の内容を振り返り,設問に答えるウェブ入力方式の授業内容チェック票を導入した.この論文では,1年生向け微積分学の第1・2クォータの講義で用いられたチェック票に対する正答率を分析し,概念の初期理解,利用,総合的理解など設問タイプによる傾向の違いや図的理解に対する受講生のばらつきなど概念習得の状況を報告する.

  • 渡辺 信
    2022 年 37 巻 2 号 p. 49-52
    発行日: 2022/12/03
    公開日: 2022/12/01
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    現在,社会は工業社会と情報社会の過度期にある.社会生活では至る所でコンピュータが活躍している.コンピュータ技術の発展によって,人々の考え方も変化している.この変化に最も遅れているのが学校教育であり,特にその中でももっとも遅れているのは数学教育であろう.現在の学習指導要領では電卓も使うことを認めない数学教育は数学機能がすべて数学ソフトの活用に置き換わっても変化が見られない.この改革を『大学入学試験』で強引に変えていく高大接続の弊害が見られる.数学教育の中にコンピュータを取り入れることによって情報思考に変化する.この状況を学習指導要領とGIGAスクール構想との違いに見ることができる.教育は保守的であり,社会変化が進んでもなかなか変化しない.いかにして数学教育の中にTechnologyを補助として加えることによって,Technologyを活用する数学教育を行うことの必要性を考えたい.

  • ~ブラックとウィリアム(2009)の形成的アセスメントの次元に注目して~
    池田 和正
    2022 年 37 巻 2 号 p. 53-58
    発行日: 2022/12/03
    公開日: 2022/12/01
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    形成的アセスメントの枠組みとして,ブラックとウィリアム(2009)が提唱した形成的アセスメントの次元がある.学習者が置かれた現状の把握,何が課題であるのかという目標の設定,どのように改善に取り組むのかという手だての組み立てとその実践という3点について,学習者,学習者の仲間,教師がアセスメントとフィードバックを繰り返すことで共有を図って取り組むものである.本研究ではSSHの探究活動に注目し,SSH指定校の一つを例として,探究活動についての形成的アセスメントの視点に基づき,具体的な個々のルーブリックを測定項目に取り入れた評価方法を試行した.結果,初等中等教育段階の基礎的なスキルの定着確認としての有効性は窺えたが,サドラーが指摘するようなより高次な内容となる探究活動を測定するためには他の質的な鑑識眼の育成に繋がるような方法の検討が必要であることが示唆された.

  • ―森の幼稚園を事例として―
    後藤 みな
    2022 年 37 巻 2 号 p. 59-64
    発行日: 2022/12/03
    公開日: 2022/12/01
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    本稿では,森の幼稚園を事例にして自然体験に基づくプロジェクト活動(以下,自然体験型プロジェクト)の取組みの様相を探った.その結果,以下の事項が明らかになった.第一に,プロジェクトのテーマは,自然の探究・知覚に関するもの,環境問題や就学準備関連のものなど多岐に渡っていた.第二に,プロジェクトに関わる「人」について,保育者は子どもの問いを彼らと共に探究し,知を生成する存在として,専門家はプロジェクトを社会的文脈にのせる存在として,保護者は子どもが生活を省察することに寄与し,それを支援する存在としてプロジェクトに携わっていた.第三に,プロジェクトの「場」について,その目的や機能ごとに明確に区分されるわけではないものの,子どもが自然の事物・事象と関わることを通じて問いを見出すための場として森があり,個々人の体験をグループ全体で,さらに保護者とも共有するための場として園舎が活用されていた.

  • ―GCE-Aレベルの生物の分析に着目して―
    鈴木 宏昭
    2022 年 37 巻 2 号 p. 65-68
    発行日: 2022/12/03
    公開日: 2022/12/01
    研究報告書・技術報告書 フリー

    本研究は,シンガポールの科学カリキュラムにおける高大接続に着目して,その特質を解明することを目的とした.そのため,シンガポールのGCE-Aレベル生物H2のシラバスや過去問等に着目し,数学H2や物理H2のそれらとも比較した.その結果,以下の点を明らかにした.生物H2の目的は,高等教育段階進学のための基礎的な資質・能力の習得,21世紀における科学的リテラシーの習得,科学の実践に関する資質・能力の習得,生物学に関連した資質・能力の習得の4点であった.次に,生物H2の評価観点は,「A理解を伴う知識」,「B 情報の取扱い,活用及び評価」そして,「C 実験スキルと探究(Investigation)」の3点であった.そして,日本とシンガポールの試験内容を比較したところ,シンガポールの生物H2では,日本と比べて,生命科学や分子生物学の内容領域に重点的に配点されていた.

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