芳香族分子結晶は, 芳香族分子が周期的にならんで出来た結晶である. それらの結晶の基礎吸収スペクトルは, 励起子による顕著なピークによってできている. この場合, 励起子は, 分子の励起状態が結晶中で分子から分子へと共鳴移動して出来るものであり, その構造の簡単さの故に多くの人々の注目を集め, Frenkel や Davydov などによる古典的理論を育くむ場を提供してきた. その励起子は, 結晶格子の変形の量子であるフォノンと割合強く相互作用し, 格子による励起子の自己束縛状態ができる. この場合, 自己束縛状態は余り深くなく, そのため, そのエネルギースキームや自己束縛過程の詳細が, 最近のピコ秒時間領域の分光手段によって, かなり良く解明出来る格好の場となっている. 本稿は, 最近明らかにされつつある励起子ダイナミックスについて解説を試みるものである.
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