日本物理学会誌
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76 巻 , 5 号
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巻頭言
目次
解説
  • 鳩村 拓矢, 高橋 和孝
    原稿種別: 解説
    2021 年 76 巻 5 号 p. 270-277
    発行日: 2021/05/05
    公開日: 2021/05/08
    ジャーナル 認証あり

    物理系を「理想的」に操作したいと思うことは,さまざまな場面である.操作というと工学的・技術的な問題を想像するが,そもそも系を操作してその反応を調べること,つまり測定,は科学の基本手段の一つである.熱力学のように種々の操作を用いて基本原理を明らかにするという体系もある.近年は,技術の向上などにより,制御という視点の研究も多く行われている.操作に対してどのような反応をするかではなく,望んだ反応を得るためにはどのように操作したらよいかという問題である.

    操作・制御の問題はダイナミクスの問題と捉えられる.外部パラメータを変化させることによって系の状態が時間変化する.状態の変化を調べるには動的な系(非自励系)の運動方程式を解く必要があるが,その遂行は決して容易ではない.静的な系ではエネルギー保存や定常状態などを足がかりとできるが,動的な系についてわれわれが共有しているイメージは多くない.

    経験的に理解できるが,系を思い通りに制御する手段の一つは,ゆっくりと操作を行うことである.そのような準静的操作によって得られるのが断熱状態である.量子力学における断熱操作は断熱定理を用いて基礎づけられ,断熱状態の表現に含まれる幾何学的位相が非自明な効果を生み出す.

    ここで考えたいことは,ゆっくりと動かさずに短い時間で望みの状態遷移を得るにはどうしたらよいかという問題である.それには本来想定しているハミルトニアン(時間発展生成子)とは異なるハミルトニアンを用いて時間発展を行うとよい.これは,非断熱遷移を防ぐプロトコルを用いることを意味している.このような考え方はさまざまなアイデアをもたらし,それらは総称して断熱ショートカット(shortcuts to adiabaticity)とよばれている.基本的なアイデアは断熱理論や動的な系の解析手法を転用したものにすぎないが,制御の方法として用いるという視点はそれまでになかった発展をもたらした.実験的検証も多く行われている.

    実装方法は大別すると二つのものがある.制御項を付加する方法は概念的にわかりやすいが,制御項の公式は実用的ではないし,得られる制御項が複雑になることが多い.対称性を活用する・近似的な制御項を用いるなどする.二つめの方法では動的不変量とよばれる量を用いる.パラメータの調節のみで制御を行うため実装しやすいが,動的不変量を得ることは一般に容易ではない.いずれの方法でも,問題に応じてさまざまな実装方法が議論されている.

    断熱ショートカットの適用範囲は広く,量子系だけでなく古典系や確率過程の系など,さまざまな問題にも応用できる.そのことをよく考えてみると,目的が制御に限られないことがわかる.任意の系において時間発展を特徴づける「ハミルトニアン」は二つに分割される.一つは瞬間定常状態を特徴づけ,もう一方はその状態を変化させる生成子の役割を果たす.分割によって得られる生成子は幾何学的な意味をもち,量子速度限界の概念に自然とつながる.

    断熱ショートカットは,この10年の間に原理的な理解が進み,さまざまな応用が行われてきた.系統的かつ汎用的であり基礎が応用に直結するこの方法が,今後も思わぬ方向に発展することを期待したい.

最近の研究から
  • 野田 浩司, 高橋 光成, 深見 哲志
    原稿種別: 最近の研究から
    2021 年 76 巻 5 号 p. 278-283
    発行日: 2021/05/05
    公開日: 2021/05/08
    ジャーナル 認証あり

    宇宙ガンマ線バースト(以下GRB)は1960年代に発見された突発的な天体現象であり,10の3–6乗電子ボルト(eV)のガンマ線放出が数十秒という短時間だけ観測される.あらゆる方向で突然起こる予測不能な事象のため,その起源は長く大きな謎であった.1990年代に多波長観測により,減衰するX線放射と,GRBを含む銀河が可視光で発見され,GRBは宇宙論的距離で起きる宇宙で最も激しいエネルギー放出現象であることが明らかになった.その起源として,大質量星の死(超新星爆発)と中性子星連星の合体が提案された.2000年代に入りGRBに特化した衛星が活躍し,GRBの一部が超新星爆発を起源とすると確定したが,もう一方については2017年の重力波同時検出まで待たなければならなかった.この間,ガンマ線を作る粒子加速現場(ジェット)の機構などへの興味はより深まっていき,特にFermi衛星により放射エネルギーが100 GeV近くにまで達することがわかったが,その機構は謎に包まれていた.

    このエネルギーになると,解像型大気チェレンコフ望遠鏡による地上からの空気シャワー観測が必要となる.本研究で用いられたMAGIC望遠鏡は口径17 mの望遠鏡2台によって構成され,約50 GeVから100 TeVのガンマ線に感度をもち,その有効検出面積は人工衛星に比べて4桁近く大きい.一方で,観測は晴れた夜間に限られ,望遠鏡の視野も数度程度と狭いため,衛星からの速報を受けとって自動的に観測可否を判断し,即座に望遠鏡をGRBに向けて観測を開始するシステムが構築されていた.15年にわたる観測で約100のGRBを観測したが,高い有意度での検出には至っていなかった.

    2019年1月14日20時57分03秒,本研究の対象となるGRB 190114Cが発生し,Swift衛星BAT検出器からの速報が22秒後に全世界に配信された.MAGIC望遠鏡はその28秒後(発生の50秒後)から観測を開始し,その直後から,いかなる天体からも観測されたことのない高い流量の高エネルギーガンマ線放射を検出した.さらに詳細データ解析の結果,放射ガンマ線のエネルギーはTeVにも達することが明らかになり,GRBからの放射エネルギー最高記録を1桁以上も一気に更新することになった.この結果は,史上初めてGRBからのTeVガンマ線を地上ガンマ線望遠鏡によって検出しただけでなく,X線やMeVガンマ線放射を作り出す高エネルギー電子のシンクロトロン放射では説明できない,別の放射成分が存在する確実な証拠となった.このTeVガンマ線を作り出す別の放射機構は,長らく予想されていた逆コンプトン散乱で説明でき,TeVにも達する高エネルギー放射が多くのGRBに期待される一般的性質である可能性を示唆している.

    技術的に困難と思われていた地上ガンマ線望遠鏡観測の成功は,今後の本領域の研究を加速する.特に初期運用が始まった次世代チェレンコフ望遠鏡CTAによる研究の進展を期待させる大きな成果である.本検出によって観測戦略を練り直すことができ,考えられていたより大きい検出頻度を得られる可能性が極めて高い.

    執筆者の野田は,電話対応シフトとして本発見の報を最初に受けただけでなく,MAGIC共同研究者内でのデータ解析グループを率いた.高橋は観測地現地でのデータ取得に貢献し,深見は多波長データ解析に貢献した.科学成果のみでなく現場の興奮もお伝えできればと思う.

  • 平岩 聡彦, 早乙女 光一, 田中 均
    原稿種別: 最近の研究から
    2021 年 76 巻 5 号 p. 284-288
    発行日: 2021/05/05
    公開日: 2021/05/08
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    調和振動子は自然科学の様々な分野に現れ,物理現象を記述するための最も基本的な力学系であり,物理を研究している我々にとっても大変なじみ深いものである.調和振動子は固有の振動数をもっており,初期の外乱を与えれば,系はこの振動数で振動を続ける.系に対して外部から周期的な力を加え強制振動させた場合も同様で,系は固有振動数で応答しようとする.もし強制力の振動が系の固有振動と同調していれば(つまり外力の振動数が固有振動数と一致していれば),系の振動振幅は時間と共に急激に増大していく.これがいわゆる共鳴現象である.強制振動は,大振幅の振動を引き起こす共鳴条件近傍での振る舞いが重要視されるため,これまで共鳴現象と一緒に議論されることが多かった.

    一方,光の回折現象とは,光が進行方向にある障害物の影に回り込みながら伝播していく現象を指し,歴史的には,光の波動説を裏付ける証拠となった現象の一つである.光の回折現象も我々にとって身近な物理現象であり,例えば,単スリットによる光の回折現象は高校の物理の授業などで一度は勉強したことがあるのではないだろうか.光の回折現象は,キルヒホッフによって,厳密な理論体系が構築された.それによると,単スリットによる光の回折現象は次のようにして理解できる.つまり,スリット開口部での光の波面が無数個の点光源からできているとして,スクリーン上での光の強度パターンは各点光源からの球面波の重ね合わせによる干渉縞であると考えるのだ.

    「強制振動」と「光の回折」――片や力学の現象,片や光学の現象であり,両者に関連性はないように思える.ところが,我々は,次世代リング型光源加速器である回折限界光源リングにおける安全な電子ビームの廃棄手法を検討する中で,偶然にも面白い事実に出くわした.高密度ビームの安全な廃棄手法として,ベータトロン振動しながら周回する電子ビームに周期的キックを与え,ビームを空間的に広げてから廃棄することを考え,まずは,その廃棄ビームの挙動を強制振動子系としてモデル化してみることにした.すると,光の回折現象を記述する際によく用いられるフレネル積分が出てきたのだ.さらに,その表式は,単スリットからの光の回折における光の強度パターンを表す式と酷似しているのだ.

    では,この強制振動の回折的な振る舞いはどこからくるのだろうか? 廃棄電子ビームは,加速によるエネルギー供給を断たれており,シンクロトロン放射によってエネルギーを徐々に失っていく.これに伴い,固有振動数も徐々に変化していく.実を言うと,このように固有振動数が時間と共にゆっくりと変化していく場合,調和振動子が受ける強制力は異なる周波数をもつ波の時間的な重ね合わせ(時間的な回折)として記述できるのだ.

    今回得られた知見は,系のパラメーターがゆっくりと変化しながら不安定条件を通過していくような現象の解析に有効な手段を提供するものと期待される.このような現象は,加速器科学の分野においては,円型加速器での共鳴横切り現象として知られている.この現象は,エミッタンスの増大やビーム損失を引き起こす原因となり得るため,長年議論の対象とされてきた.また,本稿で示しているような「共鳴現象を波の時間的重ね合わせとして解釈する」という考え方は,ビームダイナミクスの新しい記述方法を切り開くヒントとなり得るのではないだろうか.

  • 石塚 淳, 大同 暁人, 栁瀬 陽一
    原稿種別: 最近の研究から
    2021 年 76 巻 5 号 p. 289-294
    発行日: 2021/05/05
    公開日: 2021/05/08
    ジャーナル 認証あり

    私たちが身近にある自然現象を用いて物理学について語るとき,「磁石」を取り上げることがしばしばある.小学生にもなじみ深い磁石は,相転移,自発的対称性の破れ,量子多体効果,など様々な基礎概念が凝縮されている.その研究は古代ギリシャ時代に始まったとされるが,最近になって超伝導との接点が注目されるようになった.

    物性物理学の世界では磁石を「強磁性体」とよぶ.強磁性の微視的起源は,量子力学的な自由度であるスピンの整列である.一方,超伝導現象の微視的起源は,電子が相互作用により対(クーパー対とよばれる)を形成し,量子多体的に凝縮することにある.電子はスピン1/ 2をもっているので,対を作ると合成スピンは0または1となる.自然界にある超伝導体の多くでは,クーパー対のスピンは0であり,それはスピン一重項超伝導とよばれている.一方,クーパー対がスピン1の自由度を有する場合がスピン三重項超伝導であり,長く興味を持たれてきた.強磁性とスピン三重項超伝導の間にはなにか関係がありそうである.確かに,これまでの研究成果により,スピン三重項超伝導を実現する舞台として強磁性体が有力であることが知られている.

    最近,以前に増して,スピン三重項超伝導に注目が集まっている.その理由は,スピン三重項超伝導体がトポロジカル超伝導の有力な候補となることにある.トポロジカル超伝導とは,準粒子の波動関数が幾何学的に非自明な構造をもつ超伝導体のことを指す.その特異な性質として,欠陥,渦糸中心,表面などにおいてマヨラナ準粒子が現れることが示されている.素粒子物理学において未発見とされるマヨラナ粒子が物質において創発すること,それが量子計算に有用であること,などなど様々な驚きとともに,2000年頃から膨大な研究が行われている.

    トポロジカル超伝導を実現する物質系として提案されたものは数多くあるが,有力視されているものはごく一部である.なかでも,ナノ細線など人工量子系に対する研究が先行している.そこでは,物理パラメータの精密制御が可能であることが生かされている.一方,より自然な形で存在するバルク化合物では,そのような精密制御が期待できないため,安定に実現可能なトポロジカル超伝導が望まれている.スピン三重項超伝導体はその有望な候補である.

    強磁性相あるいはその近傍にある超伝導体は,自然界に希少なスピン三重項超伝導体として着目される.しかし,強磁性秩序は時間反転対称性を自発的に破るため,トポロジカル超伝導の実験・理論研究に不利な点が多い.すなわち,強磁性相の近傍で強磁性にならない超伝導体が望ましい.そのような超伝導相が,高圧下のUCoGeで発見されている.さらに,2018年末に報告された新奇超伝導体UTe2は,常圧で強磁性臨界点近傍にありながら強磁性を示さない点で理想的な舞台を提供している.

    これらの超伝導相が果たしてトポロジカル超伝導であるか否かを判定するために,私たちは第一原理計算と対称性の制約を併用して理論予測を行った.その結果,UTe2は典型的なトポロジカル超伝導体であることが予測された.また,高圧下UCoGeは「メビウス型トポロジカル超伝導」であることが示された.それは,非共型構造というミクロな原子配置がバルクのトポロジーを生み出すユニークな物質相である.

実験技術
  • 藤原 直樹, 上床 美也
    原稿種別: 実験技術
    2021 年 76 巻 5 号 p. 295-301
    発行日: 2021/05/05
    公開日: 2021/05/08
    ジャーナル 認証あり

    相転移現象は物理学における普遍的な研究テーマの一つであり,身近なところでは水の三態などがあげられる.固体中では,電子がもつ電荷・スピン・軌道の自由度が磁性や超伝導などの様々な相転移に関与するが,その多くは温度変化によって引き起こされる.しかし,絶対零度でも相転移現象は起こり,量子相転移とよばれている.これを制御するパラメータの代表が,今回の記事の主題である圧力である.圧力を加えると固体の格子間距離が変化するが,原子置換(あるいは添加)によっても格子間距離を変えることができる.この意味において原子置換は化学的に圧力を加える役割を果たす.しかし,力学的な圧力印加の優れた点は,原子置換と違って局所的に不均一な乱れを作らないことと,連続的なパラメータ制御が可能なことである.

    現在,強相関電子系で対象となる圧力の範囲は数GPaから十数GPa程である(1 GPaはおよそ1万気圧).圧力誘起の相転移を研究する上で,圧力の一様性・等方性(以下,「静水圧性」とよぶ),広い試料空間,高い到達圧力は重要な要素であるが,広い試料空間と高い到達圧力の両方を満たすことは難しい.広い試料空間を確保できる圧力セルとして,ピストンシリンダー圧力セルが知られている.この圧力セルでは,試料を液状の圧力媒体で充して密封した円筒状のカプセルを,シリンダーの中に挿入してピストンで押す構造になっている.この圧力セルは取り扱いが簡便であり,色々な測定手段に応用可能である.最高到達圧力は,圧力セルの素材として2001年に開発されたNiCrAl合金を使えば,3.5–4 GPaまで到達することができる.

    より高圧で有効な圧力セルはいくつか知られているが,例外なく試料空間が小さくなるため,一部例外を除き殆ど抵抗測定またはX線回折実験しか行われていない.高圧で有効な圧力セルの中で,キュービックアンビル圧力セルは簡便性と静水圧性において優れている.この圧力セルでは,試料と圧力媒体を立方体形状のシール材(ガスケット)の中に密封して,立方体の各面を同じ力で押す構造になっている.荷重は鉛直方向から加えられるが,立方体ガスケットの各面に鉛直方向からの荷重が均等に加わるように工夫されている.ただし,圧力セル本体のサイズが大きくなるため,磁場中での測定には向いていない点が短所となっている.

    今回,我々は,NiCrAl合金を圧力セル本体に使うことで,磁場中測定をも可能とする超小型のキュービックアンビル圧力セルの開発に成功した.これを用いて,試料の原子配列の乱れや対称性の低下に敏感な核四重極共鳴(NQR)法を行い,高い圧力まで静水圧性が維持できていることを明らかにした.具体的には,本体の直径をϕ60まで縮小することができた.これはキュービックアンビル圧力セルの中では現在のところ世界最小サイズである.この圧力セルを用いて酸化銅Cu2Oに含まれる63Cuの核スピンを用いたNQRを行い,その線幅から圧力セル内部の静水圧性が,ピストンシリンダー圧力セルよりも優れていることを明らかにした.

    今後,この圧力セルを微視的測定手段へ適用することにより,高圧下で現われ得る新奇電子状態の解明が期待される.

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