ALMAによる原始惑星系円盤の観測研究を概観する.ALMAの卓越した撮像能力は,原始惑星系円盤の構造をかつてない詳しさで明かしつつある.特に,惑星形成と直結するような小スケール構造の検出や,円盤内の著しいダスト濃集を捉えた点が,大きな進展である.円盤の顕著な非軸対称性や106年未満のタイムスケールでのガス惑星形成の兆候は,古典的な太陽系起源論では十分に考慮されていなかった状況であるが,一方で,一般的な惑星形成論の確立に向けた新たな足がかりとも位置づけられる.
探査機「あかつき」が金星周回軌道上で観測をはじめた.周回軌道への投入に一度は失敗し,5年間にわたる苦闘のあと再挑戦して成功したものである.あかつきの目的は金星気象の解明である.高速大気循環「スーパーローテーション」や硫酸雲生成の謎に多波長の撮像観測で挑む.
1801年に最初の小惑星であるケレス(Ceres)が発見されてから200年余り経った現在,発見されている小惑星の数は70万個を超えた.探査機が接近した小惑星も10個ほどになり,地上観測では分からなかった小惑星のいろいろな特徴が見えてきた.また,日本の探査機「はやぶさ」によって,世界初の小惑星サンプルリターンも成功し,小惑星の表面物質の分析も進んでいる.このように急速に理解が進む小惑星について,ここでは探査機による探査の視点から紹介する.
最初の太陽系外惑星(系外惑星)が見つかって20年余り経つが,天文学の中でも系外惑星研究の最近の進展は目覚ましい.本稿ではこれまでの系外惑星研究の発展を振り返り,特に本研究の大動脈とも言うべき視線速度法とトランジット法に焦点を当て,系外惑星系の一般的な特徴について概観する.系外惑星の発見は従来の惑星系形成論に修正をもたらし,さらに新たな理論の発展につながった.ここでは,そうした惑星の形成進化を記述する理論を系外惑星の特徴付けによって検証する取り組みについてもまとめる.最後に系外惑星研究に残された課題と将来計画に触れる.
「地球外生命は存在するだろうか.」この問いは,「生命とは何か」というもうひとつの問いに対して宇宙で普遍的に通用する答えを得ることに繋がる.このふたつの問いに答える最も直接的な手段が,太陽系における地球外生命探査である.地球外生命の証拠はまだ見出されてはいないが,近年の様々な探査を通して,生命探査の対象となる天体,すなわちエネルギーや物質の観点で生命を育み得る環境を持つ天体の候補がいくつか見つかってきている.本稿では,火星,木星衛星エウロパ,土星衛星エンセラダスおよびタイタンを具体的な対象に,それらの天体がなぜ地球外生命の存在可能性を有するのかについて現状の知見をまとめる.
我々の太陽は数十万個以上の小惑星群によって帯状に囲まれている.火星と木星の間に数多く存在している小惑星の長半径方向の空間分布は縞構造をしており,バンド構造を持っている.また,その分布上の縞構造のギャップの位置が小惑星の振動数と木星の振動数が単純な整数比になるところに存在している事実から,このギャップが現れる定性的な根拠は木星の運動と小惑星の運動の間の共鳴効果によるものであることがわかる.しかし,古典力学では共鳴効果が系の運動の恒量を破壊してしまうために非可積分となり,軌跡を扱う力学の常套手段である正準変換によって系の定量的な振る舞いを解析的に論じることが原理的に不可能になっている.
本稿では,その定量的な分析をするために,少数系の古典力学で伝統的に使われてきた軌跡力学とは全く別で,それとは相補的なリウビル力学の立場から,どのようにこのギャップの大きさが評価されるかを紹介する.
筆者の一人(TP)は非平衡統計力学を長年研究テーマとしてきて,古典力学でも量子力学のハイゼンベルグ表示に対応する物理量の時間変化を記述する方法と,シュレディンガー表示に対応する状態関数の時間変化を記述する方法があることに深い関心を持っていた.古典力学ではハイゼンベルグ表示に対応する記述法の基本方程式はハミルトンの運動方程式であり,シュレディンガー表示に対応する記述法の基本方程式はリウビル方程式である.非平衡統計力学では自由度の数があまりにも多く,その系に対応するハミルトン方程式を全部書き下すことができない.そのことから,この分野では状態関数というたった一つの関数の時間変化を記述するリウビル方程式を追うことにして,リウビリアンやそれに類似したボルツマン方程式の発展の生成演算子である衝突演算子の固有値問題の解から,系の力学的性質を分析する.
そして,これらの古典力学的演算子にも,量子力学のハミルトニアンと同じように連続スペクトルを持つ場合もあれば,典型的なガス系のように不連続スペクトルを持つ場合もあることはよく知られている.
それなら,リウビリアンにも結晶中の電子のハミルトニアンのようにバンド構造を持つ場合があるのでないか.もしそうなら,リウビリアンの物理的次元が振動数であることから,Keplerの第3法則によって振動数スペクトルのバンド構造はそのまま小惑星の空間分布の長半径方向のギャップを与えるのではないか,という考えを筆者の一人(TP)は大分以前から暖めていた.最近になって,日本の物性物理学者の何人かの友人と議論することによって,摂動の影響で共鳴点上でのハミルトニアンの固有値の縮退が解け,準位反発によって電子のエネルギーギャップが起こるのと同様な数学的メカニズムで,小惑星の振動数スペクトルにも木星の摂動で準位反発が起こり,ギャップが現れることを見出した.この取り扱いでは,たとえ古典力学の非可積分系であっても,縮退のある場合のよく知られた摂動論を使って,そのギャップを定量的に論じられる可能性を与えてくれる.