20世紀に入ってアインシュタインの特殊相対性理論が発表されると様々な波紋が起きたが,その中に,共鳴吸収のある分散性媒質中での「群速度」の問題があった.つまり,従来の定義での群速度(dω/dk)が光速を越してしまう問題である.BrillouinやSommerfeldはこの問題に対して,外部からステップ関数的に正弦波を入射した場合,まず二種類のプリカーサが到着するが,先頭のプリカーサが光速なので,波束の速度(「信号速度」)は光速を越えないことを明らかにした.従って,異常分散領域では従来の「群速度」はその物理的意味を失うことになるが,しかし「信号速度」にも曖昧さが残る,と結論づけている.このような歴史的過程を経て,最近田中(九州大)等は,波束の中心周波数が伝播と共に変化することを考慮すれば,異常分散媒質に対しても新たな「群速度」の定義が可能であることを理論的に明らかにした.また,我々はそれを裏付ける実験に成功したので,今までの歴史的過程と最近の研究とを合わせて紹介する.
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