ここ10年来,天文学では「原始」という言葉が流行している.例えば,身近なところでは原始星や原始太陽系(より一般的には原始惑星系)という言葉がある.この「原始」という言葉には「天体がどのようにして形成されたか?」という根元的な意味あいが深く込められている.今,なぜ「原始」なのか?これは天文学という研究分野の持つ性質に関係している.他の科学の分野でも同じであるが,天文学の場合は特に「対象(天体)が何であるか」を認識することから研究に入ることがほとんどである.人類は我々の地球,地球の衛星である月,地球などの惑星を従える太陽,そして夜空を飾る夥しい数の星たちを認識した.また,太陽などの星たちは約1,000億個集まって銀河と呼ばれる星の大集団として存在していることも知った.このように存在としての天体を物理的に認識すると次のステップは当然「なぜそれらが宇宙に誕生し,進化(或いは退化)し,あるものは消滅していくか?」を解明することになる.1980年代以降,可視光のみならず赤外や電波,X線の観測が進むようになってきて,非常に遠方の銀河やクェーサーの性質が調べられるようになってきた.天文学はようやく銀河やクェーサーの形成と進化を宇宙の歴史の枠組みの中で語れる時代に突入したのである.本稿ではこれらの観測の現状を概観しながら銀河とクェーサーの形成について考える.
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