日本臨床麻酔学会誌
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30 巻, 3 号
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日本臨床麻酔学会第28回大会 教育講演
  • 寺井 岳三
    2010 年 30 巻 3 号 p. 333-341
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/15
    ジャーナル フリー
      気道の管理は麻酔において最も重要な要素の1つであり,気管挿管ができずマスク換気もできないときは迅速な対応が必要となる.気道確保困難に対するガイドラインをよく理解し,事前に気道の評価を行い,気管挿管困難時に有用である器具の準備と習熟が必要である.気道の評価は,Mallampati分類,開口距離,上切歯の突出,下顎の大きさと前方移動,頤・甲状軟骨間距離,舌骨・甲状軟骨間距離,頤・胸骨間距離,頚椎の可動性などの気道確保困難を予測する簡単なテストを組み合わせて総合的に判断する必要がある.気道確保困難に対処するためには,麻酔科医は,気道の解剖をよく理解したうえで気道管理に十分な知識と技術を身に付けることが重要である.
日本臨床麻酔学会第29回大会 教育講演
  • 山蔭 道明, 澤田 敦史
    2010 年 30 巻 3 号 p. 342-355
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/15
    ジャーナル フリー
      吸入麻酔薬は,鎮静・鎮痛・筋弛緩と,麻酔の3要素をもち合わせることから,麻酔科医にとっては使いやすい麻酔薬として古くから利用されてきた.最近,バランス麻酔という概念が普及し,より使いやすい麻薬性鎮痛薬や筋弛緩薬が臨床使用できるようになった.しかし,それでも使いやすい“鎮静薬”としての吸入麻酔薬の役割は色あせるものではない.最も臨床で使用されている吸入麻酔薬はセボフルランであるが,臨床応用されてから20年近く経つ現在でもその利用価値は高い.これまでに臨床使用されてきたセボフルランのエビデンスに基づく特徴を述べる.
日本臨床麻酔学会第28回大会 シンポジウム 心臓血管外科麻酔における薬物療法をめぐるControversies
  • 稲田 英一
    2010 年 30 巻 3 号 p. 356
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/15
    ジャーナル フリー
  • 小田 利通
    2010 年 30 巻 3 号 p. 357-365
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/15
    ジャーナル フリー
      左室の後負荷が上昇し続けるとafterload mismatchが発生して,心収縮力が低下し1回心拍出量(SV)が減少する.この治療にあたっては左室と動脈系を整合(ventriculo-arterial coupling)させねばならず,心収縮力(Ees)と後負荷(Ea)の両面から治療方針を考える.さらに,血行動態は心収縮力,後負荷,前負荷が連動して変動するので,麻酔中は3者を相互に関連づけて病態把握と管理をせねばならない.手術終了後,術後管理への移行期の鎮痛を確実に行い,不利な循環変動を回避せねばならない.しかし,現時点では鎮痛薬と血行動態安定化を両立させるような鎮痛法は確立されておらず,今後の検討が必要である.
  • 内野 博之, 田上 正, 柿沼 孝泰, 宮田 和人, 金子 恒樹, 濱田 隆太
    2010 年 30 巻 3 号 p. 366-381
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/15
    ジャーナル フリー
      動脈瘤に対する血管外科手術を扱う心臓血管麻酔における最も重篤な合併症である,対麻痺をいかに予防するかは重要な問題である.対麻痺発症により患者のその後のQOLは著しく低下し,術後生活は制限を受ける.対麻痺は,特に,胸部および腹部大動脈瘤手術に伴って発症しやすく,その原因となるのは術中の脊髄虚血と考えられている.殊に,胸腹部大動脈瘤の手術に伴う対麻痺には,脊髄への血液供給に重要な役割を担う血管であるアダムキーヴィッツ動脈の血流低下等による脊髄障害が深くかかわると考えられている.脊髄は,虚血時に灰白質および白質ともに障害を受け,運動神経細胞は遅発性に細胞死を起こすという特徴を有するが,その機構としては,脳と同様にグルタミン酸-Ca2+説,虚血後のグリア細胞の活性化やミトコンドリア機能不全などが関与している可能性が考えられた.特に,脊髄障害予防のための有効な薬物療法はいまだ確立されていないが,ミトコンドリアを標的とした薬物療法の確立の重要性が示唆された.
日本臨床麻酔学会第29回大会 パネルディスカッション IPMO Guidelines; Improved Perioperative Management and Outcomes─より良い回復を目指した周術期ガイドライン作成に向けて─
  • 尾崎 眞
    2010 年 30 巻 3 号 p. 382
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/15
    ジャーナル フリー
  • 谷口 英喜, 佐々木 俊郎, 牧瀬 杏子, 藤田 久栄
    2010 年 30 巻 3 号 p. 383-392
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/15
    ジャーナル フリー
      術前管理方法が術前の体内水分量(AWB)に与える影響を調べるために,多周波数インピーダンス法を用いた検討を行った.対象症例は待機的胃癌手術症例とし,非ランダム化介入比較試験を計画した.対象症例を従来どおりの術前管理を行ったcontrol群(C群)と,術前に“絶飲食期間の短縮”および“緩下剤投与の軽減化”を行ったERAS群(E群)の2群に分けた.AWBを手術前日の昼食前12時と手術当日8時の2回計測し,その変化率(%)を調べた.AWBは両群で減少していたがE群(12例)ではC群(14例)に比べ減少率が小さかった(C群 -10.6±4.6%,E群 -2.4±6.8%,P<0.001).術前に“絶飲食期間の短縮”および“緩下剤投与の軽減化”を行う管理により,術前AWBを維持することが可能であると考えた.
  • 中嶋 康文
    2010 年 30 巻 3 号 p. 393-397
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/15
    ジャーナル フリー
      中枢温36℃以下の軽度低体温は,約7割以上の手術患者に起きることが知られているが,1990年代後半よりその弊害が主要医学雑誌に報告されることで注目を浴びるようになった.しかし欧米の周術期低体温予防の認識度を調べてみると,周術期低体温予防のガイドラインは存在するが,弊害に対する認識不足等が原因でコンプライアンスが不十分な状況である.また,集中治療領域では重症患者の発熱に対する対応が問題となる.文献によると,重症患者の約5割以上に中枢温38.3℃以上の発熱がみられるとされている.米国で策定されている重症患者の発熱に関するガイドラインは,診断および治療について記載されているが,体温に関しては測定部位の推奨度のみで体温管理に関する記載はない.その理由として体温管理と患者予後を調べた多施設前向き研究がないことが一つの大きな要因である.今後,周術期低体温および発熱についての体温管理に関するガイドラインの作成,普及が望まれる.
  • 小竹 良文
    2010 年 30 巻 3 号 p. 398-409
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/15
    ジャーナル フリー
      輸液・循環管理とアウトカムに関して輸液最適化と制限的輸液戦略という2つの概念が注目されている.前者は伝統的に用いられている血圧,尿量などの指標からは推察しがたい低灌流を心拍出量モニタを用いて補正することによって予後が改善することを指す.一方,後者は教科書的な晶質液によるサードスペースの補充を見直すことによって組織の浮腫に伴う合併症を防止しようとする試みであり,いずれも人工膠質液の積極的な使用に特徴がある.具体的には高リスク外科手術症例を対象とした術中早期目標指向型管理と英国で検討された術中水分管理のガイドラインが参考になる.
  • 高橋 正裕, 西村 絢, 古家 仁
    2010 年 30 巻 3 号 p. 410-419
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/15
    ジャーナル フリー
      よりよい回復を目指した術後疼痛管理と術後嘔気・嘔吐管理を行うために,われわれ麻酔科医は,外科系医師(主治医)や,病棟看護師,薬剤師,理学療法士と力を合わせなければならない.彼らとの協力関係を構築するためには,術後疼痛管理・術後嘔気・嘔吐管理分野のevidenceに基づいたguidelineを作成し,麻酔医療の均てん化を行わなければならない.術後疼痛管理分野では,欧米でもguideline作成は遅々として進んでいないが,術後嘔気・嘔吐管理分野では,質のよいguidelineができている.本稿では,自験例とともに,これらについて解説し,本邦でのguideline作成のたたき台としたい.
講座
  • 住谷 昌彦, 柴田 政彦, 眞下 節, 山田 芳嗣, 厚生労働省CRPS研究班
    2010 年 30 巻 3 号 p. 420-429
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/15
    ジャーナル フリー
      複合性局所疼痛症候群(CRPS)は激しい痛みに加え,早期から廃用障害を引き起こすことがある.1994年に国際疼痛学会(IASP)からCRPSの判定指標が提唱され広く利用されるに至ったが,その曖昧さから感度は高いが特異度がきわめて低いという問題点が指摘された.米国ではこの問題を解消しようと特異度を効率的に上げる研究がなされ,新たな判定指標が提唱された.そこで厚生労働省CRPS研究班が組織され,米国の研究にならい本邦独自のCRPS判定指標作成を行った.本稿では,a)本邦のCRPS患者の評価と判定指標の作成と,b)CRPS type 1とtype 2という分類の必要性の2点について概説する.
  • 角倉 弘行
    2010 年 30 巻 3 号 p. 430-437
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/15
    ジャーナル フリー
      痛みを適切に評価することは麻酔科医にとって重要なスキルである.痛みを適切に評価するためには,痛みとは何かを知り,さまざまな痛みの評価法を正しく理解する必要がある.IASPの定義によると痛みは,組織の損傷の有無にかかわらず患者の情動的体験である.生理学的には痛みは,侵害受容性疼痛と神経因性疼痛に分類される.また痛みを最初に認識してからの経過時間により痛みは急性痛と慢性痛に分類される.痛みの評価は患者の報告が基本である.痛みの評価法には一次元的評価法と多次元的評価法があるが,慢性痛では後者が重要である.
  • 武田 純三
    2010 年 30 巻 3 号 p. 438-445
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/15
    ジャーナル フリー
      本邦ではロクロニウムが諸外国から約10年遅れて2007年に発売され,発売後急速に使用量が増加している.しかし,世界ではベクロニウムもスキサメトニウムもまだ多くの国で使用されており,それなりの理由があると考えられる.ロクロニウムは速い作用発現,蓄積作用がなく持続投与が可能,水溶性であるなどの特徴があるが,作用持続時間はベクロニウムと変わりはなく,アナフィラキシー反応の発生頻度,集中治療患者への長期投与での蓄積の可能性,小児での使用に対する懸念が残されている.また,迅速導入時や帝王切開術の麻酔での筋弛緩薬として,さらに緊急事態発生時の使用には,スキサメトニウムが優れていると考えられ,ベクロニウムとスキサメトニウムはまだまだ捨てがたい筋弛緩薬といえる.
  • 岩崎 寛
    2010 年 30 巻 3 号 p. 446-451
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/15
    ジャーナル フリー
      1942年に非脱分極性筋弛緩薬クラーレが臨床に用いられてから,脱分極性筋弛緩薬の迅速な筋弛緩効果発現に近づく安全な非脱分極性筋弛緩薬の開発が待たれていた.2007年,日本で効果発現が迅速な非脱分極性筋弛緩薬ロクロニウムの臨床使用が可能となった.このロクロニウムは欧米各国ではすでに1990年代前半から使用開始されている筋弛緩薬である.日本で最も使用頻度の高いベクロニウムと類似するステロイド系筋弛緩薬であるが,力価はベクロニウムの約1/6と低いが効果発現はベクロニウムと比較して迅速であることが特徴である.したがって,通常の気管挿管ばかりでなく迅速気管挿管において脱分極性筋弛緩薬にとって代わる可能性が期待されている.一方,ロクロニウムは体内でほとんど代謝されず,血漿中にきわめて少量検出される代謝産物の筋弛緩作用もほとんど認めず,長時間投与にも問題ないとされる.短時間効果発現と蓄積性を有さない非脱分極性筋弛緩薬ロクロニウムの特徴をこれまで広く用いられてきた筋弛緩薬ベクロニウムおよびスキサメトニウム(SCC)と臨床的に比較し,ロクロニウムの特徴を気管挿管,麻酔維持,そして拮抗について解説する.
  • 光畑 裕正
    2010 年 30 巻 3 号 p. 452-459
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/15
    ジャーナル フリー
      神経障害性疼痛を含む慢性痛は治療が困難なことが多く,その治療はエビデンスに基づくものが薦められている.麻薬はあくまでも第二選択薬である.高齢者の慢性的な経過をたどる非癌性疼痛の管理は難しく,少しでも疼痛が緩和されるように治療を行い100%の鎮痛は困難であってもADLとQOLを改善することが目的である.非癌性慢性疼痛に対する麻薬治療は,その他の治療であまり効果がみられないときには有用であることもあるが,100%効果があるものではなく,必要投与量も個人差が大きい.麻薬の投与量や投与方法に関していまだ議論があり確立されていない.日本での標準的な麻薬治療の確立が必要であると考えられる.
原著論文
  • 徳嶺 譲芳, 武田 吉正, 河野 安宣, 安田 智嗣, 松島 久雄, 上農 喜朗
    2010 年 30 巻 3 号 p. 460-464
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/15
    ジャーナル フリー
      初期臨床研修における中心静脈穿刺の教育・訓練は医療安全上重要な問題である.われわれは初期臨床研修医セミナーにおいて,超音波ガイド下に穿刺を行うための基本的理論の講義とシミュレータを使用したトレーニングを行ってきた.受講生から指摘された問題点をもとに,第4回初期臨床研修医セミナー(日本臨床麻酔学会第28回大会・日本医学シミュレーション学会共催ワークショップ)においてコースの改良を試みた.コース受講者の満足度は高く,穿刺成功率の向上に寄与し,受講後,手技に対する自信を得たことがわかった.中心静脈穿刺の合併症を回避し安全に施行するには,事前にシミュレータを用いた教育プログラミングを実施することが有効である.
症例報告
  • 宜野座 到, 渕上 竜也, 照屋 孝二, 垣花 学, 須加原 一博
    2010 年 30 巻 3 号 p. 465-470
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/15
    ジャーナル フリー
      患者は32歳の女性.アフリカから帰国後,発熱・嘔吐・下痢を発症した.輸入感染症を疑い,血液塗沫検査で赤血球内に2つのクロマチン顆粒をもつ輪状体が複数存在し,熱帯熱マラリアと診断した.赤血球感染率7%で重症マラリアとも診断した.集中治療室で,全身管理およびキニーネ静注による治療を行った.播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation:DIC)も合併し,血小板輸血とアンチトロンビン製剤投与を行った.その後,マラリア感染およびDICは改善した.抗マラリア薬の適正な使用と,DICに対する早期治療が奏効したと考えられた.
  • 河見 有恵, 佐久間 泰司, 寺野 敏之, 小谷 順一郎
    2010 年 30 巻 3 号 p. 471-475
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/15
    ジャーナル フリー
      麻酔導入直後に開口度が低下し挿管困難となった症例を報告する.患者は64歳,男性.下顎隆起が大きかったため,Mallampatiのclass分類IIIであったが,意識下で十分な開口量を確認したので急速導入を行った.導入直後に急激に開口度が低下し挿管困難となった.数回の強制開口によりエアウェイスコープが挿入可能となり,経口挿管に成功した.術後には開口度の低下はなく,顎関節に疼痛などもなかった.この原因として,関節円板の復位を伴わない異常によるクローズドロックの可能性があると考えられた.
  • 上野 由衣, 北尾 岳, 巽 弓子, 冨田 貴子, 北川 智孝, 横田 修一
    2010 年 30 巻 3 号 p. 476-479
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/15
    ジャーナル フリー
      今回,骨盤内手術後に大腿神経麻痺を生じた2症例を経験したので報告する.2症例とも硬膜外麻酔併用全身麻酔で施行した.大腿神経麻痺の原因として,硬膜外麻酔による可能性も否定できないが,開創鉤,または術中体位による神経の圧迫,進展が最も考えられた.骨盤内手術後の大腿神経麻痺の発生頻度は比較的高く,開創鉤による過度の圧迫や長時間無理な体位をとることは大腿神経麻痺を生じる可能性があることを医療従事者全員が十分認識し,予防に取り組むことが必要である.
  • 上村 裕平, 小杉 寿文, 緒方 理恵, 平田 道彦, 三溝 慎次, 中島 幹夫
    2010 年 30 巻 3 号 p. 480-484
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/15
    ジャーナル フリー
      先天性無痛無汗症患者に対し,左第1趾切断術の麻酔をBISモニター使用下にプロポフォールの持続静脈内投与による全身麻酔で行い,十分な鎮静と安定した循環動態管理ができた.その際に交感神経の興奮を調査するため,麻酔導入直後と術中に血中カテコラミン値を測定した.その結果アドレナリン,ノルアドレナリン,ドパミンの血中濃度は導入直後,術中ともに低値を示し,変化は認めなかった.本症例においては,手術中の刺激に対し交感神経の興奮が認められないことが確認できた.
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