地球高層大気の主要成分である原子状酸素(atomic oxygen, AO)が低軌道宇宙機用材料に大きな影響を与えることは広く知られており,今後開発が本格化する超低高度コンステレーション衛星群にとって最も重要な宇宙環境要因である.しかしながらAO地上試験は世界でも実施できる施設が限られており,その実際についてはあまり知られていないようにも思われる.そこで,軌道上AOと宇宙機材料反応に関わる部分は他の解説に譲り,本解説ではAO地上試験を実施する場合の実際的な留意点や限界について述べ,新たにAO地上試験を実施することが必要となった読者に向けて,AO照射試験を企画・実施する上で参考となるような情報提供を行う.
静岡大学STARSプロジェクトは,宇宙エレベーター技術の軌道上実証を目的とした超小型衛星開発を行ってきている.テザーとそれに繋がれた衛星や宇宙機の挙動解析を目的とした研究開発であり,テザーを軌道上で伸展する技術,伸展されたテザー上をロボット(宇宙エレベーターではクライマーと呼ぶ)が移動する技術,さらに昨今の宇宙デブリ(ごみ)問題に対応していくためのテザー回収技術,テザーに繋がれる宇宙機の移動技術などを,機械工学の観点から実証していく.本稿では,100mテザー伸展をミッションとするSTARS-C衛星,10m級の極超小型エレベーターデモンストレーションをミッションとするSTARS-Me衛星およびSTARS-EC衛星,そして1kmテザー伸展をミッションに含む50kg級次期衛星STARS-X衛星を紹介する.
国際協働で実施する予定の月面有人探査ミッションをはじめ,月面での持続可能な探査活動においては,月と地球を繋ぐ高速通信回線網の整備は必須である.その実現に向け,我が国においてJAXAとNICTが共同で実施している,月─地球間遠距離高速光通信技術の研究開発について紹介する.月面探査等で扱う膨大な各種ミッションデータを地球に伝送するため,伝送レート1 Giga bit per Second(Gbps)以上が要求仕様とされており,かつ衛星搭載可能な通信中継装置とする必要があることから,装置サイズ・質量等のリソース縮小,かつ遠距離での大容量通信が期待できる光通信技術は不可欠である.本稿では,これまでJAXA及びNICTにて検討を進めてきた月─地球間遠距離光通信システムの概要や要求仕様,そこから抽出された技術課題について述べるとともに,各課題の解決に向けた要素技術の研究開発状況について紹介する.
本特集「宇宙政策・宇宙法・宇宙安全保障とは何か?」の第5回は宇宙政策,宇宙法,宇宙安全保障のすべてに絡むテーマとして,「持続可能な宇宙活動とは何か?」と題して,持続可能な宇宙活動の潮流,その達成に向けた技術的,社会的・政治的及び法政策的取組みを概観し,現在の課題である国際競争力との関係及び国家間,世代間の公平な負担を議論する.これにより,現在国際社会において急速に発達してきている持続可能な宇宙活動を意識した活動のあり方を考えるきっかけを提供したい.
「持続可能な開発目標SDGs(Sustainable Development Goals)」は2015年国連サミットにおける世界193カ国の加盟国全会一致での採択「持続可能な開発のための2030アジェンダ」による,持続可能でよりよい世界を目指す2016年から2030年までの国際目標である.この採択への日本政府の対応を受け,2020年の閣議決定で改定された宇宙基本法に基づく「宇宙基本計画」では,各項目に渡ってSDGsへの言及がなされている.本稿では,「宇宙SDGsにおける新展望とプラットフォームとしての宇宙SDGs」と題し,プラットフォーム形成に向けて必要な宇宙SDGsの現況を網羅的に述べるとともに,プラットフォームの軸となりうる新展望として,教育に着目して海外の状況等を述べる.
日本航空宇宙学会航空宇宙ビジョン委員会は「JSASS航空ビジョン2040」と「JSASS宇宙ビジョン2050」を策定し,ホームページ上で公開している.一方,学会の方針に航空分野と宇宙分野の連携が挙げられている.両分野が協力して取り組む社会課題の解決や両分野の融合による付加価値の創出が期待されている.このような背景を踏まえ,論点に「ベンチャー企業の育成」「Point to point(P2P)システムの開発」を挙げて,第55期年会講演会でパネルディスカッションを開催した.論点を選択した経緯ならびにパネルディスカッションで得られた意見を報告する.ベンチャー企業を興す観点やP2Pが成立するための視野などの幅広い意見が得られた.