(1) 絹糸腺の生体観察 (生理的食塩水中で) の結果ラウジネス多い蚕では例外なく次の現象を認めた.
中部糸腺の最肥大部 (便宜上Lousiness Zoneと云うことにする) のセリシンとフィブロインの接触面に特異の波動現象を起す, 而して之は1) 前靜止期 (盛食期), 2) 波動前期 (熟蚕), 3) 波動期 (上藤後2日目), 4) 波動後期 (上蔟後2, 3日目) 及び5) 後靜止期 (上蔟後3, 4日目) の5つの特徴ある時期を劃し得る, この為甚だしくセリシンとフィブロインが混乱し, そのまゝ吐糸伸長されてラウジネスとなる, 尚1)-5) の時期は蓮続的に移行するものでその間多くの中間期が存在する.
(2) ラウジネスは繭の中層部に多い. これとLousiness Zoneとの関係は次の如く説明し得る.絹糸腺を大凡その儘伸長したのが繭糸そのものであるのでLousiness Zone中の液状絹は吐糸されて繭の中層を構成する. ラウジネスが繭の中層に多いのはこの為である.
(3) 一度前部糸腺に入つた液状絹が何等かの理由で再び中郡糸腺に逆流する現象は一般に見られることであるが, これは恐らくアーテファクトと推定せられラウジネスとは無関係と思う.
(4) 往々にして中部糸腺と後部糸腺の境界がモザイク状になつていたり, 2, 3の細胞が片側のみすれて堺を為しているが, 此の部位が余り後方に偏している事やラウジネス多いものでもモザイクが極めて稀である事実から之がラウジネスの一般的原因とは認め難い.
(5) 波動現象は吐糸量と分泌量とのアンバランスもその原因であるが, 蚕の素質に支配せられるところが最も多い.
中部糸腺を前, 中, 後の3部分に分つて, それ等の長さの増加分及び関係的長さを調査したところ, ラウジネス多いものは前部短く後部が長い. ラウジネス少いものは, 前部が長く, 後部が短い.かゝる差異は, 中部に加わる内圧に変化を与えるものと思われる. 而して内圧が強い程波動現象を促進するものと考えられる.
色々の環境を異にした時, それが絹糸腺の発達に影響があればラウジネスにも影響を及ぼす. 吐糸を妨げる條件も著しく波動現象をどぎつくし從つてラウジネスを増加させる.
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