日本蚕糸学雑誌
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67 巻, 4 号
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  • 河口 豊, 伴野 豊, 古賀 克己, 土井 良宏
    1998 年 67 巻 4 号 p. 265-270
    発行日: 1998/08/31
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    カイコ保存系統の中に卵殻形質に関わる変異体を発見した。本変異体は, 蛹中期の雌蛹を8~10℃で24時間低温処理した場合にのみ処理個体の産生する卵が灰色卵となり, 25℃で保護した場合には灰色卵は産生されないという特性を有していた。さらに, 灰色状の程度には個体毎に多くの差異が認められた。遺伝分析の結果, 本形質は新規の劣性突然変異遺伝子によって支配されていることを認め, これを“低温誘発灰色卵 (英名は low-temperature sensitive gray-egg)”と命名し, 遺伝子記号を tsg とした。連関検索により当該遺伝子は第5連関群に所属することを明らかにした。
  • 中島 裕美子, 橋戸 和夫, 椎野 禎一郎, 林 利彦, 土田 耕三, 長嶺 勝, 前川 秀彰
    1998 年 67 巻 4 号 p. 271-278
    発行日: 1998/08/31
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    トランスポゼースの完全なORFが与那国蚕 (Attacus atlas, Emperor moth) のマリナー様配列で見いだされた。この配列は, セクロピア蚕 (Hyalophora cecropia) の末端逆位繰り返し配列をプライマーとしてPCR法により単離した。ORF内には, 二カ所のコンセンサス配列とD, D (34) Dモチーフが見いだされた。与那国蚕マリナー様配列はカイコ, セクロピア蚕, タバコスズメガ (Manduca sexta), Angoumois grain moth (Sitotroga cerealella), Almond moth (Ephestia cautella) の配列と相同性があった。これらの結果はマリナー様配列と末端逆位繰り返し配列がディトリジア亜目カイコ上科 (Bombycoidea) において, 保存されていることを示唆している。カイコのマリナー様配列として既に単離されているBmmar1は鱗翅目のみならず他の昆虫グループの配列とも相同性が低いことが示された。
  • 馬場 秀子, 桑原 伸夫, 岩下 嘉光
    1998 年 67 巻 4 号 p. 279-286
    発行日: 1998/08/31
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    天蚕胚の中腸形成過程における細胞分化を透過型電子顕微鏡で観察した。中腸原基は産卵後3.5日目の反転完了期に管状となった。その後, 原基細胞は盃状細胞および円筒細胞に分化し, ほぼ形態形成を終了し, 休眠に入った。すなわち産卵後4日目には盃状細胞および円筒細胞原基は多列上皮構造を示した。産卵後6~7日目の毛瘤発生期には, 盃状細胞は内腔に開口せず円筒細胞間に挟まれた形で存在し, その先端の胞内のミクロビリーは関門を形成した。産卵後10日目, 外観上幼虫形態を整えた胚の盃状細胞は中腸内腔に関門を開口し, 盃状細胞のミクロビリー中にミトコンドリアが認められた。また休眠胚においても円筒細胞は徐々に卵黄を摂取し分解, 消費した。休眠覚醒胚では内腔の卵黄物質を急速に貪食, 消費し, 円筒細胞のミクロビリーを整然と伸長させ孵化後の摂食機能体制を整えることが明らかとなった。
  • 宮嶌 成壽, 森 明, 萩原 恭二, 小林 淳, 吉村 哲郎, 中井 謙太, 鈴木 義昭, 冨田 昌弘
    1998 年 67 巻 4 号 p. 287-294
    発行日: 1998/08/31
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    カイコ細胞質多角体病ウイルスH型, I型ポリヘドリン遺伝子, 各5クローンの塩基配列を決定した。その結果, 両タイプのポリヘドリン遺伝子の塩基配列に8箇所の点変異が存在し, その内4箇所, すなわち, 82, 132, 174, 200番目のアミノ酸に変異が認められた。特に, 82, 132番目のアミノ酸に顕著な変異が存在し, H型では, どちらもバリンであったのに対して, I型ではグルタミン酸であった。H型のポリヘドリン遺伝子をバキュロウイルス発現ベクターを用い発現させたところ, 野性型と同じ正6面体の多角体が形成された。一方, I型のポリヘドリン遺伝子を発現させた場合は, 正20面体の多角体は形成されてこなかった。H型, I型ポリヘドリンタンパク質の82, 132番目のアミノ酸に顕著な違いが認められたが, 正20面体の多角体形成には, ポリヘドリン遺伝子以外の他の因子の関与が示唆された。
  • 王 蘇, 後藤 康夫, 大越 豊, 奈倉 正宣
    1998 年 67 巻 4 号 p. 295-302
    発行日: 1998/08/31
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    ポリビニルアルコール (PVA) とセリシン (Ser) との水溶液のブレンドにより得られた各種重量分率の含水ゲル膜について耐熱水溶解性, 力学的性質, 酸素透過性と構造との関係を検討した。
    全てのセリシン分率の含水ゲル膜は40℃付近まで耐水溶解性を有し, 且つセリシン分率17wt%付近までは強靱であることが分かった。これらの原因はセリシンとPVAの非晶鎖との水素結合による分子鎖束 (コンプレックス) の形成にあると推察した。
    全てのセリシン分率の含水ゲル膜の酸素透過係数は極めて高く, 純水の値の半分程度で, 水への酸素の溶解が主に寄与していることが分かった。酸素透過係数はセリシン分率依存性を示し, セリシン分率5wt%付近に小さな極大を示し, 次いでセリシン分率増大に伴い高くなることが分かった。5wt%付近の極大の原因はセリシンとPVA非晶鎖との相溶性が最も良く密な分子鎖束が形成され, この分子鎖東間に相対的に動き易い水が含まれることにより酸素の拡散が促進されることであると考えられた。また極大値以降の増大は水の運動性による酸素の拡散促進の効果と水の絶対量の増加による酸素溶解の増大が, 隙間に存在する乱れた水の形成による酸素の溶解量の減少を上回ると予想された。
  • 越智 洋之, 木内 信
    1998 年 67 巻 4 号 p. 303-309
    発行日: 1998/08/31
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    トリフルミゾールを人工飼料に添加し, 3齢あるいは4齢の餉食から48時間給与した結果, 粉体重量で400および800ppmの濃度で高率で3眠蚕が誘導されたが, 1,600ppm以上では3眠化せず, 多くが致死した。また, ジメチルスルフォキシドに溶かし, マイクロシリンジを用いて経口的に消化管内に注入するか腹脚から体腔内に注射した場合, 4齢20時間の投与では投与方法, 投与量にかかわらず3眠化せず, 1頭当たり50μg程度でおよそ半数が致死し, 5齢10時間の投与では, 1頭当たり200μgで半数が致死した。体重1g当たりに換算したLD50値は, 添食の場合3齢約200μg, 4齢140μgであり, 注射および強制経口投与では4, 5齢期とも120~160μgの範囲にあって, 投与方法や投与時期にかかわらずほぼ同程度であった。800ppmを添食した場合の24時間の累積摂取量は, 3,200ppmの添食や注射および強制経口投与より多いにもかかわらず, 発育への障害はほとんどなかったことから, 本薬剤はカイコの体内では比較的速やかに分解され, 3眠蚕の誘導には連続した取り込みが必要なことが示唆された。
  • 野村 隆臣, 内海 利男, 中垣 雅雄, 平 秀晴, 八森 章
    1998 年 67 巻 4 号 p. 311-318
    発行日: 1998/08/31
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    カイコ絹糸腺よりペプチド鎖を連結する高い活性を有するリボソームの調製に成功した。しかし, この活性は, 限られたMg2+濃度と絹糸腺由来のペプチド鎖伸長因子を用いたときにのみ見られ, ラット肝リボソームの性質とは異なっていた。リボソームの分子構成を生化学的に解析した。rRNA成分は, 報告通り28SrRNAに切断点 (hidden break) が観察された。リボソームタンパク質成分を二次元電気泳動および抗P抗体を用いたイミュノブロット法を用いて解析したところ, 60Sリボソームタンパク質は45種数, 40Sリボソームタンパク質は28種数であった。タンパク質数自体にラット肝リボソームタンパク質成分と大差は見られないが, 特徴的な二次元電気泳動パターンを示した。
  • 加藤 靖夫, 中村 照子, 武内 民男
    1998 年 67 巻 4 号 p. 319-326
    発行日: 1998/08/31
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    熟蚕時と蛹期の体液と脂肪体のConA-吸着画分について Mono QによるFPLCを行った結果は, 体液と脂肪体では共に食塩濃度の0.3Mで single peak が溶出する同様のパターンが得られることが分かった。一方, 羊赤血球に対する凝集反応の結果から, 熟蚕時と蛹期の体液と脂肪体のConA-吸着画分は, 共に凝集活性を持つことが認められた。さらに, 熟蚕時と蛹期の脂肪体画分を不活性型の130K-糖タンパク質に作用させた後, 羊赤血球に対する凝集反応を行った結果は, 凝集活性の上昇することを示した。以上の結果は, 体液中の130K型レクチンタンパク質が脂肪体の130K-糖タンパク質に由来することを示し, 脂肪体中に何らかの活性化因子が存在し, 130K-糖タンパク質はそれによって活性化されることを示唆した。
  • 吉田 重信, 白田 昭
    1998 年 67 巻 4 号 p. 327-332
    発行日: 1998/08/31
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    Colletotrichum dematium によるクワ炭疽病の発生消長を知る目的で, 桑園における自然発病の定点調査を, 時期別および葉の着生部位 (高さ) 別に2年または3年間行った。その結果, いずれの年も調査開始月である8月の発病葉は少なく, その後次第に増加し, 11月に最も多くなった。これらの発病を葉の着生部位別に比較した場合, いずれの月も地表面に近い部位での発病が多く, 秋期になると, 中間および上部に着生する葉でも発病が観察されるようになった。また, 本病に対する葉位別の感受性を接種試験により検討した結果では, 下位葉より上位葉で発病しやすい傾向が見られた。以上の結果, 本病の初発は, 葉の感受性の差異よりも, 土壌表面からの距離という物理的条件に支配され, その後の感染は, 桑樹内において垂直的に上部に拡大することが推察された。
  • 山田 晶子
    1998 年 67 巻 4 号 p. 333-339
    発行日: 1998/08/31
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    絹布で, 吸湿速度に及ぼす布重ね枚数, 辺長さの影響を検討した。また, 他繊維素材布の吸湿特性と比較検討した。20℃, 65%RHの大気中で, 布重量の時間変化から吸湿速度を一次の反応速度式より求めた。布温度および微風速変化も同時に計測した。布の吸湿率変化は, 初期応答が大きく後に緩やかに平衡に至った。布温度・布周辺の風速も同様な変化を示し, 上向き風が観察された。吸湿速度は, 布枚数, 辺長さ, 布重さと反比例の関係を示した。辺長さと吸湿速度の関係を伝熱の経験則から説明した。
    吸湿速度定数と布重量の積ks・xdと布重量xdは, 素材毎に右上がりの直線関係を示し, 羊毛<絹<麻<綿の順に大きくなった。それは, 吸湿時の水分吸着曲線の順位に相当している。吸湿速度は放湿速度より大きく, 特に絹と綿で著しく大きくなった。それは, 吸湿時と放湿時の水分吸着曲線のヒステリシスが大きいのに対応している。
  • 山田 晶子
    1998 年 67 巻 4 号 p. 341-346
    発行日: 1998/08/31
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    絹布の吸湿速度に及ぼす大気の温・湿度の影響を比較検討した。また, 高温環境での繊維素材別の吸湿速度の特徴も検討した。布の吸湿による重量変化を記録し, 一次の反応速度式から吸湿速度定数を求めた。
    吸湿過程全体の吸湿速度は, 高温・低湿環境ほど大きく, 低温・高湿環境ほど, 小さくなる傾向を示し, 推定値の結果と一致した。
    初期吸湿速度は, 後期吸湿速度より大きく, 環境湿度が変わっても, 環境温度が等しければ一定であった。各種繊維素材布の初期吸湿速度の終点での水分率と, 水分吸着曲線が一定勾配で上昇しなくなる点の水分率は等しかった。初期吸湿速度の変化点後の吸湿速度の減少割り合いは, 絹, 羊毛で小さく, 綿, 麻で大きかったことから, 絹は, 低温多湿の気候で着心地が良く, 綿麻は, 高温多湿の夏季に適した衣料素材と言える。
  • 「絹のフィブリル化と絹紙の製造」の第2報
    加藤 弘
    1998 年 67 巻 4 号 p. 347-353
    発行日: 1998/08/31
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    絹に再生セルロース繊維の一つであるテンセルを混合した手すきシートを作製し, それの力学特性, 白度, 吸湿性, KES風合い特性値の測定及び鮮度保持材としての利用の可能性について検討した。その結果, 乾燥時並びに湿潤時の引張り強度と引裂き強度は, いずれも絹/テンセル複合シートの方が絹シートよりも高い値を示した。とくに湿潤引張り強度と湿潤引裂き強度については70~90%高いことが認められた。絹繊維にテンセルを複合させることにより, 光照射による白度低下を抑制する効果が現われた。また, 絹/テンセル複合シートの吸湿率は低湿度で保存したとき絹のみのシートより若干高いが, 高湿度になると逆に絹シートよりも低い値となった。さらに複合シートで包装した皮剥き馬鈴薯は黒褐変の程度が小さく, 10日保存した場合でも変色や品質低下はほとんど観察されなかった。
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