さきに, 家蚕の半月紋および星状紋の着色ならびに幼虫体色の発現には, 眠期の体内の幼若ホルモン量が密接に関与していることを報告した。本報では, この現象が家蚕一般に共通してみられる現象であるか否かを検討するため, 多数の突然変異蚕を用い, CA摘出およびJH投与による新クチクラ形成期 (眠期) のJHレベルの変動と幼虫斑紋および体色の発現との関係を調べた。その結果はつぎのとおりである。
1) 形蚕 (+
P), 褐円 (
L), 多星紋 (
ms), 多重い形 (
Eca), 黒色蚕 (
pB), 暗色 (
pM), 淡墨 (
bd), 優性赤蟻 (
I-a), 劣性赤蟻 (
ch), ひので (
U), およびかすり (
q) などの各種幼虫斑紋は, JHの注射により著しく褐色化, 橙褐色化あるいは灰色化し, CA摘出によって著しく黒色化した。
2) 虎蚕 (
Ze), および黒縞 (
pS), とくに後者では, CA摘出およびJH注射による顕著な着色変化はみられなかった。
3) 斑紋部位にほとんど色素の存在しない姫蚕 (
p) では, JHの注射およびCA摘出によってクチクラへの黒色色素の形成は誘起されなかった。
4) 幼虫体色は, 体色の正常型とされている白色系のみならず, 油蚕系,
rb系においてもJHの注射により黄褐色化し, 黄体色蚕 (
lem) では濃黄色となった。
5) CA摘出により, 黄体色蚕 (
lem) では淡色化して淡緑黄色となった。また正常蚕でも体色が黄色を帯びている蚕品種では, CA摘出により体色は白色化した。
6) 以上の結果から, 幼虫斑紋および体色の発現過程には, ともにJHの関与しているホルモン機構が存在し, しかもこの事実は単に形蚕のみならず, 家蚕一般に広く認められる現象といえる。
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