エリサンの前半除去蛹や除脳蛹に, 幼虫・蛹・成虫の脳・前胸腺・アラタ体等を移植して, 羽化あるいは超過脱皮を起こさせて後, その生殖腺の発達をしらべた. 精巣の発達をしらべるには, 生きた被嚢のままその発達段階を統計的に調査し, 卵巣の発達をしらべるには, 解剖して卵殻をもった完成卵と, その他の卵とを全部計算した.
1. 前半除去蛹に熟蚕の前胸線2個, 5令・蛹・成虫の脳3個をそれぞれ移植すると, 宿主はいずれも羽化する. ところが除脳蛹に熟蚕のアラタ体6個を移植すると, 移植された個体の約%は羽化し, 残り4/5は超過脱皮して第二次蛹となる. これら羽化個体の精巣の発達をみると, 5令前胸腺2個の場合は自然羽化の場合と変わらず, 大部分の被嚢が完成した精子束となっている. 脳3個の場合はそれよりやや劣っている. アラタ体6個の移植によって羽化した個体では, 前二者の場合と異なって精子形成は大分おくれ, 精原細胞嚢や精母細胞嚢がまだ相当残っていた.
2. 除脳蛹や前半除去蛹に4令幼虫や成虫のアラタ体のみ6個, または脳+側心体+アラタ体3個を移植すると, これらの宿主はいずれも第二次蛹となる. さきの熟蚕のアラタ体の移植による第二次蛹もこの場合の第二次蛹も同じであるが, これらの再蛹化個体の精巣は羽化個体のそれよりもはるかに発達が劣っているが, 脳や前半を除去したまま放置しておいた個体よりも, 発達は相当すすんでいる. また前半除去蛹が再蛹化した場合よりも除脳蛹が再蛹化した場合の方が発達がよいように思われる.
3. 踊化直後の無処理の蝋では過半数は精母細胞嚢であり, 精子束はごく筐かしか存在しない. ところが前半または脳を除去して後17~340日経過してからしらべると, 精子束が少し多くなっている. しかしながら前半除去後20日のものでも, その発達程度は変わらない.
4. 除脳踊に蠣の脳3個, 脳+側心体+アラタ体3個, アラタ体6個を移植しても, アラタ体のみを除去してもこれらの踊は羽化する. この場合, 卵数は創傷のみをほどこした対照区と大差ない. また前半除去蝋に脳3個, または前胸腺2個を移植して得られた羽化個体では, 多少卵数が減少しているが, これは卵巣が発達するのに必要な場所の不足のためではないかと考えられる.
5. 前半除去踊が再蝋化した場合には, 卵の発達は全くみられない.
6. これらの結果から, エリサンではその生殖腺の発達を促す要因は前胸腺, または脳から分泌される “成長・分化ホルモン” であり, その発達を抑制している要因は, 幼虫や成虫のアラタ体から分泌される “幼若ホルモン” であると考えられる.
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